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みんなが怯える「AIバカ化問題」の、本当の急所
「ChatGPTを使いすぎると、思考力が落ちてバカになるんじゃないか?」
あなたも一度は考えたことがあるでしょう。わかる、私もそう思ってました。便利なのは認めるけど、脳みそがどんどん怠惰になって、最終的には九九もAIに聞くようになるんじゃないかって。
で、MITとかの最新研究を鬼のように読み漁ってみたんですが、どうやら話はもっとシンプルで、もっと私たちの「ダメな部分」を突いてくる、笑っちゃうくらい間抜けな結論だったんですよ。
要するに、AIは「脳のトレーニングジム」みたいなもので、私たちはマシンの使い方を根本的に間違えてる。隣のムキムキのトレーナー(AI)に「代わりにやっといて」って言って、自分はプロテインだけ飲んでるようなもんです。そりゃ筋肉(思考力)つくわけないだろ、と。
今日はその「ありがちだけど絶望的に間抜けなマシンの使い方」を、MIT様をはじめとする最新研究のエビデンスで、世代別にぶん殴っていきましょう。
レポート課題を秒で終わらせる学生に訪れる「認知的負債」という名の破産
まず槍玉に挙げるのは、学生諸君です。MITメディアラボが発表した、なかなかえげつない研究(2025)があります。
arXiv.org
This study explores the neural and behavioral consequences o…
実験では、ChatGPTにエッセイを書かせた学生の脳波を測ったんですが、これがまあ、知的活動が著しく低下していた。平たく言えば「脳が完全にサボってる状態」だったわけです。まあ、そりゃそうだろうな、と。
衝撃的なのはここから。ChatGPTを使って書いた学生の83%が、直前に自分が書いたはずの一節を思い出せなかったんです。
もはや自分が書いた文章ですらない。AIが書いた文章をコピペした記憶すらないって、鳥より記憶力ないんじゃないか? これはさすがに擁護できません。
研究チームは、この現象に「認知的負債(cognitive debt)」という、なんとも不吉な名前を付けました。楽して得た「答え」のせいで、未来の自分が払うべき「思考力」という借金が雪だるま式に積み上がっていく感じですね。しかもこの借金、利子がエグい。4ヶ月後の追跡調査では、AI依存組は脳神経から言語能力、行動レベルの全てで一貫して劣っていたそうです。一度楽を覚えると、じわじわと脳が腐っていくわけです。まさに認知的破産。
ただし朗報もあって、まず自力でウンウン唸ってからAIに「壁打ち」相手をさせると、逆に脳が活性化し、記憶の想起力まで向上したらしい。つまり、学生にとって唯一の正解はこれです。
「答えを生成させる」んじゃなく「自分の思考を評価させる」こと。
AIに宿題をやらせるんじゃなく、AIを「自分の脳みそのためのパーソナルトレーナー」にしろ、ということです。まあ、ジムの契約だけして行かないのと、理屈は同じですね。
ビジネスパーソンを蝕む「個人の創造性アップ、集団の多様性ダウン」の罠
次に、我々ビジネスパーソンの話。英エクセター大学などの研究(2024)によると、AIにアイデアを出させると、個人の作品の創造性は上がったそうです。お、AI最高じゃん!って思いますよね。私も思いました。
でも、話には必ずオチがある。AIが支援した作品は、みんな金太郎飴みたいに似通ったものばかりになって、集団全体でみると多様性がガクッと下がったんです。
これは、全員が「一番売れてるお弁当」の作り方をAIに聞いて、同じ幕の内弁当を作ってるようなもんですよ。一つ一つは美味しい。でも、フードコートが全部幕の内で埋まったら地獄でしょ?しかもこの研究、面白いのがAIの支援は「もともと創造性が低い人」にほど効果絶大だったという点。つまりAIは、凡人を天才っぽく見せる「創造性の民主化」を促す一方で、集団全体を「AI風味」の均質なアイデアで埋め尽くしてしまうという、実に悩ましいワナなんです。
さらに追い打ちをかけるのが、Microsoft Researchなどの研究(2025)。これによると、AIの利用頻度が高い人ほど、批判的思考のスコアが低い(相関係数 r = -0.49という、統計学的には「かなり強い負の関係」を示すゾッとする数字です)という、身も蓋もない結果が確認されています。
AIを使いこなす人ほど、思考停止に陥るという皮肉。もしかしたら、疑り深い性格の悪いヤツだけがAI時代を生き残るのかもしれないですね。
ビジネスパーソンへの教訓は明確です。
「判断は人、処理はAI」。
考える部分まで自動化したら、それは仕事じゃなくてただのAIへの「お伺い」です。
高齢者の救世主?それとも認知症促進マシン?
最後に、高齢者のケースを見てみましょう。これは少し希望のある話です。
産総研やNTTなどの研究(2025)によれば、高齢者にとってAIは、意思決定の負荷を軽くしてくれる「認知補助具」としてめちゃくちゃ有効だということが分かっています。
特に、これまで全く知らなかった分野での意思決定や、ワーキングメモリが低下してきた方にとって、その効果は絶大だったそうです。AIが「こんな選択肢どうです?」って最高の秘書みたいに助けてくれる。しかも、最終的に決めるのは本人だから、「自分で決めた」っていう満足感は損なわれない。それどころか、AIの補助を受けた高齢者の意思決定への自信は、なんと若年者レベルまで回復した、というから驚きです。まさに救世主。
ただし、ここでも「補助はOK、代行はNG」という大原則は変わりません。便利だからって、考えることを全部AIに丸投げしたら、使わない認知機能が萎縮していくのは全世代共通。まさに「使わない能力は衰える」の典型です。
結論、AIは最高の杖になるけど、杖に頼りすぎて歩き方を忘れたら本末転倒だよね、ということです。
AIが奪うのは「思考力」ではなく、「思考する面倒くささ」を引き受ける覚悟
結局、学生も、ビジネスパーソンも、高齢者も、問題の構造は全部一緒なんです。
MITの研究者が喝破したように、「AIは人を愚かにするのではない。使われる思考筋を変えるのだ(AI is not making people dumb. It is changing which cognitive muscles are exercised.)」。これに尽きます。
つまり、私たちがどの「思考筋」をサボるか、という選択の問題に過ぎない。最新研究が示す「ヤバい使い方」と「賢い使い方」を整理すると、こうなります。
- 一番ヤバい使い方:
「答えを教えろ」とAIに丸投げする。(思考の完全代行) - まあまあ危ない使い方:
「要約して」「構成案ちょうだい」と下処理を任せる。(思考のショートカット。楽だけど、論点整理まで丸投げすると危険信号) - 賢い使い方:
「選択肢をいくつか出して」「私のこの考え、どう思う?」とAIを相談役にする。(思考の壁打ち・増強)
要するに、AIが賢いかバカかなんてどうでもよくて、私たち自身が「思考のどの部分をサボりたいか」で全部決まるってことです。
で、私たちは本当に「賢く」なりたいんだっけ?
最新研究が示してくれたのは、「AIを思考のパートナーとして使う」という、面倒くさくて、主体性が求められる、最高に「人間らしい」AIとの付き合い方でした。
でも、考えてみてください。
私たちがAIに本当に求めていたのって、そんな高尚なことでしたっけ?
本当は、面倒な思考から逃れて、楽して賢いフリをすることじゃなかったでしたっけ?
AIは、我々がずっと心の底で望んでいた「思考からの解放」を、最高の形で実現してくれたのかもしれない。だとしたら、AIで頭がバカになるのは、リスクなんかじゃなくて、むしろご褒美なのでは?
主要な参考文献・エビデンス
■ 主要な学術論文・プレプリント
- MITメディアラボ:認知的負債に関する研究
“Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task”
ResearchGateで閲覧 - Microsoft Research & CMU:批判的思考への影響調査
“The Impact of Generative AI on Critical Thinking: Self-Reported Reductions in Cognitive Effort and Confidence Effects From a Survey of Knowledge Workers”
PDFを直接開く - Abbasら:大学生の学習習慣と成績への影響
“Is it harmful or helpful? Examining the causes and consequences of generative AI usage among university students”
Springer Openで閲覧 - Doshi & Hauser:創造性と多様性のトレードオフ
“Generative AI enhances individual creativity but reduces the collective diversity of novel content”
PubMed Centralで閲覧 - 産総研・NTT他:高齢者の意思決定支援
“Preference-Aligned Options from Generative AI Compensates for Age-Related Cognitive Decline in Decision Making”
arXivで閲覧
■ 専門機関のレポート・解説記事
- Polytechnique Insights:認知萎縮のリスクに関する総説
“Generative AI: the risk of cognitive atrophy”
公式サイトで読む - LinkedIn / Vik Bogdanov:生産性と認知への影響まとめ
“MIT and Harvard research on AI’s impact on productivity”
投稿を表示 - LinkedIn / Audrey Henson:MIT研究のデザインに関する考察
“MIT’s ChatGPT Study Was Designed to Trick You… And It Worked”
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