
シリーズ「女子プロの飛距離とスコア」全5回の第4回
- 第1回 入門:飛距離はスコアにどれだけ効く?
結論だけを、統計の用語なしで8つの問いにまとめた - 第2回 10ヤードは何打の価値か
曲げなければ0.81打、実際は0.37打。差を生むのはフェアウェイを外す損 - 第3回 飛ぶ選手・飛ばない選手の勝ち筋
スコア上位を分ける技術と、約242ヤードで効きが鈍る理由。代表選手の実名入り - 第4回 飛ばし屋が有利な大会・コース(この記事)
39大会で有利の大きさは約0.5〜1.5打。効くのはパー4の長さ - 第5回 データ編:分析の方法と全結果の要約
使ったデータ、分析の方法、結論が見かけの関係でないかの検証
飛ばし屋が特に有利な大会、飛ばない選手でも戦える大会はあるのか。コースが長くなると、飛ぶ選手はもっと有利になるのか。女子プロツアー(JLPGAツアー)の大会ごとのホール別成績(1,134ラウンド、約180万ホール)で確かめた。どの大会でも飛ぶ選手が有利で、有利の大きさは大会によって約0.5〜1.5打。コースが長いほど有利になるわけではなく、ホール単位で効くのはパー4の長さだった。
本記事は、統計の用語なしで結論だけをまとめた「女子プロの飛距離はスコアにどれだけ効く?10年分の公式記録で検証」の詳しい版。選手ごとの分析は「飛距離10ヤードは何打の価値か?女子プロ9シーズンの公式記録で分析」「飛ぶ選手と飛ばない選手、スコア上位に入る条件は何が違う?女子プロ9シーズンで分析」、データと分析の方法は「【データ編】女子プロの飛距離とスコア 分析の方法と全結果の要約」にまとめた。
この記事の前提
- 選手単位の数値の対象:JLPGAツアーの2017〜2026年(9シーズン)に、規定ラウンド数に到達した選手。延べ837人
- 「飛ぶ選手」「飛ばない選手」:各シーズンの飛距離で4等分し、上位25%を「飛ぶ選手」、下位25%を「飛ばない選手」と呼ぶ
- 数字の向き:スコア(平均ストローク)は小さいほど良い。「0.8打良い」は1ラウンドあたり0.8打少ないこと。相関係数 r がマイナスなら「その指標が高いほどスコアが良い」
- 大会・ラウンド単位の分析:その年の飛距離の計測が20ホール以上ある全選手が対象。スコアは「そのラウンドの出場選手平均との差」に直し、天候やピン位置の影響を除いている。飛ぶ・飛ばないの境目は、規定ラウンド到達者の四分位をそのまま使う
飛ばし屋が特に有利な大会はあるのか
結論:どの大会でも飛ぶ選手が有利で、その度合いが大会によって約0.5〜1.5打違う。CAT Ladiesは毎年大きい。この差はコース全長や風では説明できない。大会の平均で見ると、出場選手のパーオン率が高い大会ほど不利は小さい。
大会ごと・年ごとに、飛ばない選手と飛ぶ選手の「ラウンド平均との差」を計算し、その差を「飛ばない選手の不利」とした。対象は3年以上開催された39大会(大会×年で315件)、パー72のラウンドに限っている。
1年分の値は大きくぶれる。同じ大会でも年ごとの標準偏差は約0.54打あり、大会そのものの差(約0.23打)の2倍以上になる。そこで、開催年数に応じて、各大会の平均を全体平均の方向に割り引いた推定値(縮小推定)を使った。年数が少ない大会ほど全体平均に近づく。

- CAT Ladies:対象の6年(2021〜2026年。2017〜2019年はパー73のため対象外)はすべて大箱根CCで、不利は2.15、2.47、1.90、1.78、1.54、1.58打と毎年1.5打を超える。割り引いた推定でも1.47打(95%区間 1.15〜1.78)で、2番目の大会(1.21打)を0.26打上回る。ただし両者の95%区間は重なる
- 伊藤園レディス:不利が最も小さいが、年別の値は−0.55〜0.86打と振れ幅が大きく、飛ばない選手が上回った年もある。割り引いた推定は0.46打(95%区間 0.18〜0.73)
同じ大会で奇数年と偶数年を比べると r = 0.49 で、大会ごとの傾向は別の年でも中程度に再現する。
大会の差は、何で説明できるか
| 候補 | 大会×年の不利との相関 | p値 | 大会の平均との相関 | p値 |
|---|---|---|---|---|
| コース全長 | 0.10 | 0.070 | 0.09 | 0.587 |
| パー4の平均の長さ | 0.16 | 0.005 | 0.27 | 0.093 |
| パー3の平均の長さ | −0.18 | 0.001 | −0.44 | 0.005 |
| パー5の平均の長さ | 0.07 | 0.241 | −0.02 | 0.914 |
| 390yd以上のパー4の本数 | 0.07 | 0.223 | 0.09 | 0.595 |
| 風速 | 0.00 | 0.937 | 0.09 | 0.580 |
| 大会の難しさ(出場選手平均のオーバーパー) | 0.10 | 0.072 | 0.22 | 0.182 |
| 出場選手のFWキープ率 | 0.11 | 0.058 | 0.10 | 0.537 |
| 出場選手のパーオン率 | −0.19 | < 0.001 | −0.50 | 0.001 |
| 全候補(全長と390yd本数を除く)を合わせたモデル | R² = 11.4% | — | ||
「大会×年」は、3年未満しか開催されていない大会も含めた全319件のうち、欠けた値のない313件で、各年の値の精度で重み付けして計算した。「大会の平均」は39大会の縮小推定値で計算した。
大会×年の値では、パー4の平均の長さ、パー3の平均の長さ、出場選手のパーオン率に弱いが有意な関係がある。ただし候補を合わせたモデル(全長と長いパー4の本数は、パー4の長さと重なるため除く)でも、大会×年の値のばらつき(大半は年ごとのぶれ)の約11%しか説明できない。39大会の平均で見ると、出場選手のパーオン率(r = −0.50)とパー3の平均の長さ(r = −0.44)に関係があり、パーオンしやすい大会ほど、パー3が長い大会ほど、飛ばない選手の不利は小さい(9候補の多重比較を補正しても5%水準を下回るが、パー3は境界に近い。長いパー3で不利が小さくなる理由は、このデータでは分からない)。コース全長、長いパー4の本数、風速とは関係が見られない。CAT Ladiesのように毎年再現する差には、起伏、打ち上げ・打ち下ろし、キャリーが必要なハザード、ドッグレッグの形、ラフやグリーンの状態など、今回のデータにないコースの特徴が関係している可能性がある。どの特徴が効いているかは、このデータでは確かめられない。
コースが長くなると、飛ばし屋はもっと有利になるのか
結論:コース全長は、飛距離の効き方をほとんど左右しない。効くのはパー4の長さ。
ラウンドごとのヤーデージと各選手のスコアを結びつけた。コース全長が100yd長いときの10ydの価値の変化は+0.002打で、有意差はない。全長別に見ても、10ydの価値は0.36〜0.49打の範囲に収まる(ラウンド単位のモデルの値で、「10ヤードの価値」で見たシーズン単位の0.37打とは別の推定)。
| コース全長 | ラウンド数 | 10ydの価値 | 飛ばない選手の不利 |
|---|---|---|---|
| 〜6,399yd | 79 | −0.44打 | 0.95打 |
| 6,400〜6,549yd | 324 | −0.48打 | 0.96打 |
| 6,550〜6,699yd | 539 | −0.49打 | 1.08打 |
| 6,700yd〜 | 119 | −0.36打 | 0.87打 |
ホール単位に分けると傾向ははっきりする。パー4は長いホールほど飛距離の価値が大きく、330yd未満のパー4では有意な効果がなく、390yd以上では1ホールあたり0.037打になる。パー5は499yd以下で1ホールあたり約0.06打、500yd以上で約0.04打と、どの長さでも大きい(469yd以下は27ホールと少なく、推定は粗い)。パー3では飛距離の影響はほぼない。

ホールも長くなっている。パー72のラウンドで、390yd以上のパー4は1ラウンドあたり3.8本(2017年)から4.9本(2026年)に増えた。ただし、この変化だけで見積もった飛ばない選手の不利は、1.01打から1.03打へ約0.03打増えた程度にとどまる。長いパー4が1本増えても、1本あたりの差は0.02打弱しか広がらないためである。
| 項目 | 2017年 | 2026年 |
|---|---|---|
| コース全長(パー72平均) | 6,520yd | 6,619yd |
| パー4の平均 | 379.4yd | 385.9yd |
| 390yd以上のパー4(本/ラウンド) | 3.8 | 4.9 |
| ホール構成から見た飛ばない選手の不利 | 1.005打 | 1.034打 |
この記事のまとめ
- どの大会でも飛ぶ選手が有利で、有利の大きさは大会によって約0.5〜1.5打。CAT Ladiesは毎年大きく、伊藤園レディスは最も小さいが年ごとのぶれが大きい
- 大会の差は、コース全長や風では説明できない。大会の平均で見ると、出場選手のパーオン率が高い大会ほど不利は小さい
- 効くのはパー4の長さ。330ヤード未満のパー4では効果がなく、390ヤード以上では1ホールあたり約0.04打。長いパー4は2017年から2026年で1ラウンドに約1本増えたが、飛ばない選手の不利は約0.03打増えた程度
2打目の残り距離を正確に知るには、レーザー距離計を使う。
次に読む:第5回 データ編:分析の方法と全結果の要約
使ったデータ、分析の方法、結論が見かけの関係でないかの検証
シリーズ「女子プロの飛距離とスコア」の全5回
- 第1回 入門:飛距離はスコアにどれだけ効く?
結論だけを、統計の用語なしで8つの問いにまとめた - 第2回 10ヤードは何打の価値か
曲げなければ0.81打、実際は0.37打。差を生むのはフェアウェイを外す損 - 第3回 飛ぶ選手・飛ばない選手の勝ち筋
スコア上位を分ける技術と、約242ヤードで効きが鈍る理由。代表選手の実名入り - 第4回 飛ばし屋が有利な大会・コース(この記事)
39大会で有利の大きさは約0.5〜1.5打。効くのはパー4の長さ - 第5回 データ編:分析の方法と全結果の要約
使ったデータ、分析の方法、結論が見かけの関係でないかの検証
データについて
日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)公式サイトで公開されている記録(2017〜2026年のJLPGAツアー、各シーズンの規定ラウンド到達者 延べ837人、大会ごとのホール別成績 1,134ラウンド)を2026年9月25日に取得して分析した。2017〜2025年は最終戦終了時、2026年は9月20日更新時点の値。分析にはPython(pandas / statsmodels)を使った。個人による分析で、JLPGAおよび大会関係者とは関係がなく、JLPGAの公式見解ではない。記録そのものの転載や元データの配布は行っていない。記録の著作権等の権利は、JLPGAおよび関連団体・企業に帰属する。数値の正確性は保証できないため、正式な記録はJLPGA公式サイトで確認してほしい。権利者から正当な要請があった場合は、内容を確認のうえ、修正または公開停止を含めて速やかに対応する。
※本記事はアフィリエイト広告を含みます。