
フランス南西部、スペイン国境に近いバスク地方の海沿いの町アングレ(ピレネー=アトランティック県)に、1927年開場のゴルフ・ド・シベルタがある[1]。この名門コースの土地を持つアングレ市と運営団体の契約について、地方の公金を監査する独立機関、ヌーヴェル=アキテーヌ地方会計検査院(CRC)が「市に不利で、土地使用料が特に安い」と指摘した[1][2][6]。報告は2026年9月24日に公表され、前日の9月23日の市議会で野党議員が取り上げた[2][8]。
日本のゴルファーがシベルタでプレーする機会は限られ、日本のコースの予約やプレー料金に直接響く話ではない。ただ、年会費1,966ユーロ(約35万円。1ユーロ=177円換算[4])という名門クラブの会費や、年間約8万人が回るコースの料金の裏に、市と結んだ土地の契約があることは、ゴルファーがあまり意識しない点だ[1]。
ビジネスの側から見ると、公有地を民間や団体に貸すときの使用料の決め方、契約期間、見直しの仕組みが問われた事例になる。本稿はCRC報告の本文とその報道をもとに、使用料と運営団体の業績を並べ、何が指摘されたのかを整理する。
ゴルフ・ド・シベルタはどんな契約で市有地を使っているのか
ゴルフ・ド・シベルタは、市が持つ土地を運営団体が借りて営業するゴルフ場だ。土地は1981年にアングレ市が取得し、18ホールの本コースに2002年、9ホールのランペラトリス(皇后)コースが加わった[2][3][6]。

市有地は50.6ヘクタール(約50万6000㎡、東京ドーム約11個分)で、27ホールがこの上にある[1][2][6]。運営するのは非営利の協会、ヌーヴェル・アソシアシオン・スポルティーヴ・デュ・ゴルフ・ド・シベルタ(NAS)だ[1][6]。市は土地に加えて住宅1棟、車庫、作業棟をNASに使わせ、クラブハウスと駐車場はNAS自身が持っている[1][6]。

CRCによると、今の契約は2015年7月に始まった期間20年のもので、期限は2035年だった[6]。2023年12月の変更契約で期間が35年に延び、期限は2050年になった[6]。延長の理由は、NASが予定する投資の大きさとされている[6]。野党議員は市議会で「2015年に契約が35年延長された際、使用料の見直しはなかった」と述べたが[1]、CRC報告では35年への延長は2023年の変更による[6]。
コースは海沿いで1年中開いており、会員とビジターを合わせて年平均約8万人が訪れる[1]。会員は約1,200人だ[1][2][6]。
CRCがこのゴルフ場を調べたのは2025年春で、報告はアングレ市の財政全般についての報告と同じ時期に公表された[2][6]。市議会では二つの報告がそろって議題になり、野党議員はゴルフ場の報告を「一つだけ読むならこちら」と紹介している[2]。
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土地使用料は運営団体の業績に比べてどれだけ安いのか
CRCは、NASが市に払う使用料を年平均約8.5万ユーロ(約1500万円)とし、海岸の人気地区の地価に比べて特に低いと評価した[1][2][6]。2024年の実額は92,809ユーロ(約1640万円)だった[6]。
一方、NASの業績は好調だ。2024年の売上は290万ユーロ(約5億1300万円)、純利益は約19万ユーロ(約3400万円)、手元資金は218万ユーロ(約3億8600万円)あった[1][6]。CRCは2021〜2024年の黒字が年平均約19万ユーロだったとして、財務状況を「華々しい」と表現している[2][6]。
| 項目 | 金額 | 円換算(1ユーロ=177円) |
|---|---|---|
| 市への使用料(年平均) | 約8.5万ユーロ | 約1500万円 |
| 市への使用料(2024年) | 92,809ユーロ | 約1640万円 |
| NASの売上(2024年) | 290万ユーロ | 約5億1300万円 |
| NASの純利益(2024年) | 約19万ユーロ | 約3400万円 |
| NASの手元資金(2024年) | 218万ユーロ | 約3億8600万円 |
| 灌漑の取水による節約(CRC推計、年) | 約10万ユーロ | 約1770万円 |
CRCの表では、2024年の使用料は売上の3.2%にあたり、2020〜2024年の平均も3.2%だった[6]。筆者の計算では、来場者1人あたり約1.2ユーロ(約200円)にあたる。面積で割ると1㎡あたり年約0.18ユーロ(約33円)だ。

CRCはもう一つ、水の費用を挙げた。NASは灌漑用の水を地下水から直接くみ上げ、補助的に人工湖からも取っており、これで年約10万ユーロ(約1770万円)を節約しているという[1][6]。2024年の水道代は灌漑以外の9,570ユーロ(約169万円)と、流域の水管理機関に払った取水料1,044ユーロ(約18万円)だけだった[1][6]。
ただし、2017年に造った人工湖の費用23万442ユーロ(約4080万円)は、市とNASが半分ずつ負担している[1][6]。CRCが推計する水の節約額は、使用料の年平均を上回る。
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会計検査院は契約のどこを問題視し、市長はどう反論したのか
CRCは、契約が不完全で、あいまいで、市に不利だと結論付けた[2][6][7]。NASがコースに大規模な工事をしてきたことは認めたうえで、本当の意味での公共サービスの義務がないこと、契約期間が例外的に長いこと、競争入札を経ずに延長されたことを理由に挙げている[2][6]。
契約の対象範囲にも穴がある。ゴルフ場が使っている一部の区画と住宅1棟が、契約の範囲に入っていなかった[2][6]。学校向けの取り組みも止まっていた。契約ではアングレ市内の学校の児童を無料で受け入れるとしているが、市によると2016〜2017年度を最後に行われていない[1][6]。
| 論点 | CRCの指摘・発言の内容 |
|---|---|
| 使用料 | 年平均約8.5万ユーロは地価に比べて特に低い(CRC)[1][2][6] |
| 契約期間 | 2015年の契約は20年(2035年まで)。2023年の変更で35年(2050年まで)に延び、例外的に長い。競争入札なしで延長(CRC)[6] |
| 公共性 | 本当の意味での公共サービスの義務がない。学校向けの受け入れは2016〜2017年度以降途絶(CRC)[1][2][6] |
| 契約の範囲 | 一部の区画と住宅1棟が契約に含まれていない(CRC)[2][6] |
| 他コースとの比較 | ソールツ=オスゴールの2022年契約は固定23.3万ユーロ+売上の3%、シベルタは2020〜2024年平均で売上の3.2%(CRC)[6]。オスゴールは年33万ユーロを払う(野党議員の発言)[1] |
CRCは近隣のゴルフ場とも比べている。ランド県ソールツ=オスゴール町が2022年に結んだゴルフ場の運営委託契約(51ha、18ホールと建物・駐車場を含む)では、使用料は固定部分23万3000ユーロ(約4120万円)に売上の3%を加える形だ[6]。シベルタの使用料は2020〜2024年平均で売上の3.2%だった[6]。ただしCRCは、シベルタではクラブハウスと駐車場がNASの持ち物で、市が貸しているのはコースの土地だけだという違いも添えている[6]。
市議会では、野党会派アングレ・アンサンブルのマオー・ファンシーニ議員が、オスゴールのゴルフ場は同等の質で年33万ユーロ(約5840万円)の使用料を払っていると述べた[1]。

クロード・オリーヴ市長は反論した。市長によると、1981年の取得は匿名の個人の寄付で実現し、象徴的な価格で買えた[1]。CRC報告も、個人からの200万フランの寄付によって市が取得できたと書いている[6]。寄付した人はNASによる運営をできるだけ長く続けることを望み、市はこの寄付に縛られていると市長は説明した[1][2]。CRCによれば、寄付にはNASによる運営の継続を寄付者に保証する条件が付いていた[6]。
市長は、クラブハウスの改修や練習場にNASが数百万ユーロを投じたことも挙げ、投資をしているのは市ではないと述べた[1]。一方で、契約の一部は今の公的管理の基準に合わせて見直す必要があるとも認めている[2]。
CRCは4つの勧告を出している[6]。要旨は次のとおりで、報告の時点ではいずれも未実施とされた[6]。
| 勧告 | 要旨 |
|---|---|
| 1 | 2026年から契約を改め、ゴルフ場が使う土地と住宅をすべて契約の範囲に入れる(市とNAS) |
| 2 | 使用料をNASが受ける経済的な利益に見合う額に見直し、住宅は市場並みの賃料にする(市とNAS) |
| 3 | 受け取った補助金を会計規則どおり収益として処理する(NAS) |
| 4 | NASの委員会で市長の代理を務める者の決まりを明確にする(市) |
ワシントンD.C.(米国の首都)にある東ポトマック公園は、国立公園局(National Park Service、連邦の公園を管理する内務省の機関)が所管する36ホールの公営ゴルフ場を擁する。ここでトランプ政権が、18ホールのチャンピオン[…]
日本の市有地のゴルフ場でも土地使用料は問題になるのか
日本でも、市有地をゴルフ場に使わせた対価の安さが裁判で問われた例がある。沖縄県石垣市では、市有地が長年ゴルフ場として無断で使われており、市の損害金の計算が安すぎるとして市民7人が住民訴訟を起こした[5]。
那覇地裁は2023年4月21日、少なくとも20年分(1999〜2018年)の損害を約319万円と認めた[5]。使用者が2019年に払った約50万円を差し引き、約269万円を請求するよう市に命じている[5]。判決は、市が主張した普通財産の使用料基準による計算を認めず、請求しない市を「違法に債権の管理を怠るもの」と批判した[5]。
ただし、石垣市の例は契約のない無断使用で、シベルタのような契約条件の妥当性の問題とは性格が違う。問題を見つけた経路も異なる。フランスでは独立した財政裁判所であるCRCが調べて報告を公表したのに対し、石垣市では市民が訴えを起こして裁判所が判断した[1][5]。
| 比較軸 | フランス(アングレ市・シベルタ) | 日本(沖縄県石垣市) |
|---|---|---|
| 土地の使われ方 | 契約に基づく使用(2050年まで)[6] | 契約のない無断使用[5] |
| 問題を指摘した主体 | 地方会計検査院(CRC)[6] | 市民7人の住民訴訟と那覇地裁[5] |
| 問われた金額 | 使用料が年平均約8.5万ユーロと低い[1][6] | 20年分の損害金を約319万円と認定[5] |
| 市の対応 | 市長は寄付の条件を理由に反論[1] | 判決時点で市はコメントを控えた[5] |
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まとめ
ゴルフ・ド・シベルタの件では、売上290万ユーロ、純利益約19万ユーロの運営団体が、市に年平均約8.5万ユーロしか払っていない点が問われた。CRCは金額だけでなく、2050年までの長い契約期間、競争入札なしの延長、公共サービスの義務の薄さをあわせて指摘している。
名門コースの会費やプレー料金は、土地の持ち主との契約条件にも支えられており、ゴルファーにとってはコースの値段を見る視点が一つ増える。公有地を貸す側には、使用料を地価や借り手の業績と定期的に照らし合わせる見直しの仕組みが、長期契約を結ぶときの判断材料になる。
市長は寄付の条件と運営団体の投資を理由に反論しており、使用料が見直されるかは今後の市の対応次第だ。
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よくある質問(FAQ)
Q. ゴルフ・ド・シベルタはどこにあるのか。
A. フランス南西部のバスク地方、ピレネー=アトランティック県アングレ市の海沿いにある[1]。1927年開場で、18ホールと9ホールの計27ホールがある[2][6]。
Q. 使用料はどれくらい安いと言われたのか。
A. 年平均約8.5万ユーロ(約1500万円)で、CRCは地価に比べて特に低いと評価した[1][2][6]。CRCは比較として、近隣のソールツ=オスゴール町の2022年契約が固定23.3万ユーロに売上の3%を加えた使用料だと示している[6]。
Q. 指摘を受けてプレー料金は上がるのか。
A. 記事執筆時点で、使用料の見直しや料金の変更は決まっていない。市長は寄付の条件などを理由に、現在の契約を擁護している[1][2]。
2026年、年会費を値上げするゴルフ場は211コースに達する見込みだ。2025年の93コースを大幅に超える見込みだ[1]。年会費とは、プレーの都度払うグリーンフィーとは別に、会員が資格維持のために毎年払う固定費を指す。値上げの引き金を引い[…]
出典
- Anglet : selon la Chambre régionale des comptes, le Golf de Chiberta est trop bien loti, Mediabask, 2026-09-25. https://www.mediabask.eus/fr/info_mbsk/20260925/anglet-selon-la-chambre-regionale-des-comptes-le-golf-de-chiberta-est-trop-bien-loti
- La Ville d’Anglet et le golf de Chiberta : des « relations contractuelles incomplètes et déséquilibrées au détriment de la commune », Sud Ouest, 2026-09-27. https://www.sudouest.fr/pyrenees-atlantiques/anglet/la-ville-d-anglet-et-le-golf-de-chiberta-des-relations-contractuelles-incompletes-et-desequilibrees-au-detriment-de-la-commune-30780345.php
- Golf de Chiberta 公式サイト. https://golfchiberta.com/
- Euro foreign exchange reference rates(2026-10-02), European Central Bank. https://www.ecb.europa.eu/stats/eurofxref/eurofxref-daily.xml
- 石垣市有地が無断でゴルフ場に 市が請求できる20年分の損害金、いくらが適切? 那覇地裁、269万円を命じる, 琉球新報, 2023-04-21. https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1698597.html
- Le golf de Chiberta à Anglet (Pyrénées-Atlantiques) – Rapport d’observations définitives, Chambre régionale des comptes Nouvelle-Aquitaine, 2025-12-01 délibéré. https://www.ccomptes.fr/sites/default/files/2026-09/NAR2026-029.pdf
- Le golf de Chiberta à Anglet – Synthèse du rapport d’observations définitives, Chambre régionale des comptes Nouvelle-Aquitaine. https://www.ccomptes.fr/sites/default/files/2026-09/NAR2026-029%20Synth%C3%A8se%20Anglet%20et%20golf%20Chiberta.pdf
- Le golf de Chiberta (Anglet, Pyrénées-Atlantiques), Cour des comptes, 2026-09-24. https://www.ccomptes.fr/fr/publications/le-golf-de-chiberta-anglet-pyrenees-atlantiques



