
イングランド南東部サリー州のゴルフリゾート、Foxhills Club & Resort(フォックスヒルズ。以下Foxhills)が、2つの18ホールコースの散水設備を300万ポンド(約6.3億円。1ポンド=210円換算[9])で全面的に入れ替えると2026年10月7日に発表した[1][2]。対象はロングクロスとバーナード・ハントの2コースで、新たに設けるスプリンクラーは3,500基を超え、今の約1,800基のほぼ2倍になる[1]。機器を納めるのは米国の散水機器メーカー、レインバードだ[1][2]。
Foxhillsはロンドン南西の郊外、チャートシーにあり、9ホールのパー3コースと屋根付き練習場も持つ[3]。英国では温暖で乾燥した期間が長くなり、プレー条件と水の管理の両立がコース側の課題になっていると一次記事は書く[1]。
ゴルフをする側で変わるのは、行くコースの夏場の芝の状態と、工事中の回り方だ。Foxhillsは水を必要な場所に絞って撒き、一年を通じて同じプレー条件を保つことを狙う[2]。コース内の工事は2027年10月から2冬かけて行い、止めるのは一度に1〜2ホールにとどめる[1][2]。
ビジネス側の論点は、数億円の設備投資をどう組み立てるかにある。投資額、効率改善の見込み、工期の分け方を整理し、日本のコースの散水の事情と比べる。
Foxhillsの300万ポンドの散水設備投資では何が変わるのか
Foxhillsの今回の投資は、スプリンクラーの数をほぼ倍増させ、制御システムで水を撒く場所と量を細かく決められるようにする計画だ[1]。スプリンクラーは約1,800基から3,500基超に増え、ポンプ、貯水池、貯水設備も更新する[1]。

制御にはレインバードのCirrusPRO(シラスプロ)とIC Systemを使う[1]。CirrusPROは散水量を監視するソフトで、気象観測装置とつなぐと降雨と蒸発散量を踏まえて散水を調整できる[7]。IC Systemは中央の制御装置と個々のスプリンクラーを双方向でつなぐ仕組みだ[7]。
クラブは、散水効率が約20%高まり、散水にかかる時間も短くなると見込んでいる[1][2]。雨水をためる能力も大きく増やし、ためた水を約400エーカー(約162万㎡、東京ドーム約35個分)の敷地全体で使えるようにする[1]。20%はあくまで計画時の見込みで、実績ではない。
今の設備で年にどれだけの水を使っているかは、一次記事には書かれていない。そのため、20%の改善が水の量でどれほどになるかは計算できない。
ゴルフ部門の責任者ショーン・グラハム氏は、コースを緑に保つことが目的ではなく、水を賢く使い、安定したプレー条件を保つことが目的だと話す[2]。コース・敷地管理責任者のデリック・ジョンストン氏は、水を必要な場所に正確に撒けるようになると述べている[1]。
施工はMJアボット、散水設計のコンサルタントはイリテックが担う[2]。
散水の量や回数が芝と土壌にどう効くのかを、コース管理の現場の視点から押さえたい読者向けの一冊。
散水設備の工事はなぜ2冬に分けて進めるのか
工事を冬に分けるのは、芝の生育期とプレーへの影響を避け、コースを開けたまま設備を入れ替えるためだ。一次記事によれば、まず2026年の冬にコースの外で貯水池を改修し、ポンプ場とタンクを作り直す[1][2]。コース内の配管とスプリンクラーの工事は2027年10月に始め、2冬にわたって進める[1][2]。準備の1冬とコース内の2冬を合わせると、工事は3つの冬にまたがる計画だ。

コース内でも、止めるのは一度に1〜2ホールだけにする計画だ[1][2]。多くの場所でモール・プラウ工法を使い、溝を掘る範囲を小さくする[1]。モール・プラウは地面を大きく掘り返さずに管を地中に引き込む方法で、芝を傷める範囲とホールを閉じる期間を減らせる。
今回の工事は単独の計画ではない。Foxhillsは2023年に5か年のコース近代化マスタープランを発表し、その時点で200万ポンド(約4.2億円)を投じていた[1]。2023〜24年にはヨーロピアン・ゴルフ・デザインの監修でロングクロスを改修し、2025年にはバーナード・ハントの排水を改良した[1][2]。
排水を先に直し、散水を後に入れ替える順番には意味がある、というのが筆者の見立てだ。水を抜く仕組みが整っていないと、細かく撒き分けても水がたまる場所が残る。上流の貯水池とポンプから先に作り、コース内の工事を最後に回す流れも、水の通り道に沿っている。
イギリス・イングランドで、ゴルフ場の水の使い方を国全体で把握する取り組みが始まった。水道の卸・小売事業者でつくる作業部会(Retailer Wholesaler Group Water Efficiency Sub-Group)と、河川や[…]
英国のゴルフ場で散水設備と貯水池が投資の焦点になるのはなぜか
英国のゴルフ場で貯水池への投資が重みを増しているのは、水道水が使えなくなる時期に、自前でためた水が散水を支えるからだ。ここからはFoxhillsの発表ではなく、英国全体の状況として整理する。一次記事は干ばつ規制を投資の直接の理由とは書いていない[1][2]。
英国環境庁の2026年9月18〜24日の報告では、テムズ地域など10地域が干ばつと判断されている[4]。水道会社による一時的な使用禁止(TUB。いわゆるホース使用禁止)も広がり、アフィニティ・ウォーターの中部・東部地域では対象にサリー州の一部が入る[4]。

芝の管理者団体BIGGAは2026年7月31日、TUBの対象となるゴルフ場では水道水を使った自動スプリンクラーでグリーン、ティー、フェアウェイに散水できないと説明した[5]。一方で、クラブ自前の井戸、湖、貯水池からくみ上げた水はTUBの対象外になる[5]。ただし取水許可の条件による別の制限はかかりうる[5]。

英国政府は2025年11月の資料で、多くのクラブが貯水設備のないまま水道水や取水に頼っていると指摘した[6]。冬に雨が少なければ、貯水池があっても満たせない恐れがあるとも書いている[6]。対策として、散水設備の点検による漏れの発見、雨水や流出水の活用、5,000〜20,000㎥規模の貯水池の新設や改修の支援を挙げた[6]。
| 項目 | Foxhillsの計画[1][2] | 英国政府の推奨[6] |
|---|---|---|
| 貯水 | 貯水池の改修、雨水をためる能力を大幅に増やす | 5,000〜20,000㎥の貯水池の新設・改修 |
| 散水の効率 | 制御システムで約20%改善の見込み | 散水設備の点検で漏れや飛散を減らす |
| 水源 | ためた水を敷地全体で使う | 雨水・流出水・処理水の活用 |
Foxhillsの計画は、貯水、効率、水源の3点で政府の推奨と重なる。ただし、これは英国全体の流れとの比較で、Foxhillsが政府資料に沿って計画したとは発表されていない。
英国スコットランド北部、ハイランド地方の町ドーノックにある名門ロイヤル・ドーノック・ゴルフクラブが、3つ目の18ホールを造る計画を地元自治体のハイランド議会に持ち込んだ[1][2]。2026年9月4日に受理されたのは、開発の環境影響評価([…]
日本は雨が増えたのに、英国はなぜ水が足りなくなるのか
日英とも、変わったのは雨の総量より降り方の偏りだ。日本は短い時間に強く降る雨が増え、英国は冬に雨が増える一方で夏の渇水が目立つ。
日本では、年間の雨量に長期的な変化の傾向は見られない[10]。一方で、1時間に50mm以上降る強い雨の年間発生回数は、1976〜1985年の平均約226回から2015〜2024年の平均約334回へ約1.5倍になった[10]。雨の降らない日も100年あたり9.2日のペースで増えている[10]。降る日は減り、降るときは一度に強く降るようになった。
英国では、10〜3月の冬半年の降水量が、2016〜2025年は1961〜1990年より13%多い[11]。夏半年はほとんど変わっていない[11]。そのうえで、2025年の春はイングランドで100年超ぶりの少雨となり、雨の少ない地域では春と夏の合計が平年の4割に届かなかった[11]。同じ発表の中で英国生態学・水文学センターの分析担当者は、2026年にも暑く乾いた夏による渇水が再び起きていると述べている[11]。

| 比較軸 | 日本 | 英国 |
|---|---|---|
| 年間の雨量 | 長期的な変化の傾向なし[10] | 冬半年が13%増(1961〜1990年比)[11] |
| 変わったこと | 強い雨が約1.5倍、雨の降らない日が増加[10] | 夏はほぼ横ばいで、2025年は春夏に渇水[11] |
| ゴルフ場の水の課題(筆者の見立て) | 一度に降る雨を流し、降らない日が続く夏の水を確保する | 冬に余る雨を夏まで持ち越す |
| 投資の焦点(筆者の見立て) | 排水と、池にためた水の活用 | 貯水池の拡張と散水の効率化 |
筆者の見立てでは、Foxhillsの計画は英国の雨の偏りにそのまま合っている。雨が多い冬に貯水池へためておけば、水道会社の使用禁止で水道水が使えない夏でも、自前の水で散水できる[5]。散水効率を約20%高めるのも、限られた水を夏まで持たせるためと読める。
日本は事情が違うように見えて、同じ発想が使える。強い雨が増えたぶん、まずは大雨を速く流す排水が欠かせない。そのうえで、降らない日が続く真夏には水が足りなくなる。後で取り上げる春日井カントリークラブは、コース内の池を水源にしており、夏の水不足が課題だった[7]。一度に降った雨を池にためて夏に使い、必要な場所にだけ撒くという組み立ては、日本のコースにも当てはまる。英国のような公的な散水制限は日本では一般的ではないが、雨の偏りが進むほど、貯水と撒き分けへの投資の意味は大きくなる。
欧州障がい者ゴルフ協会(EDGA、European Disabled Golf Associationの略。障がいのあるゴルファーの競技と普及を支える国際団体)は2026年9月17日、英国の調査会社スポーティング・インサイツ(Sporti[…]
日本のゴルフ場の散水設備はどの水源で動いているのか
日本でも同じレインバードの制御システムを入れたコースはあるが、散水の水源や使用量を全国でまとめた公開データは本稿では見つからなかった。愛知県の春日井カントリークラブ(36ホール)は、2023年12月から2024年10月の東コース改修に合わせてCirrusPROとIC Systemを導入した[7]。
同クラブの散水の水源はコース内の6つの池で、水量に限りがあるため効率のよい管理が必要だった[7]。以前はバルブを人が開け閉めし、スプリンクラーの配置もまばらで、撒きむらや撒きすぎが出ていた[7]。導入後は暑い夏の水不足が解消したとレインバードは紹介している[7]。
水源の種類は、自治体の届出からもうかがえる。東京都のゴルフ場向けの届出様式は、散水に使う水を水道水、地下水、河川水、池水等、その他に分け、前年度の月平均の使用量を記入させている[8]。日本のゴルフ場も水道水だけに頼るわけではなく、池や井戸の水を組み合わせて使う前提で様式が作られている。
| 比較軸 | Foxhills(英国) | 春日井CC(日本) |
|---|---|---|
| 導入した制御 | CirrusPRO・IC System[1] | CirrusPRO・IC System[7] |
| 主な水源 | 貯水池・雨水[1] | コース内の6つの池[7] |
| スプリンクラー数 | 約1,800基→3,500基超(計画)[1] | 非公表 |
| 投資額 | 300万ポンド(約6.3億円)[1] | 非公表 |
| 公的な散水制限 | 地域の水道会社がTUBを実施中[4] | — |
※「—」は本稿で確認していない項目、「非公表」は公開されていない項目。
よくある質問(FAQ)
Foxhillsの工事中もコースでプレーできるのか
できる見込みだ。コース内の工事は2027年10月から2冬かけて行い、止めるのは一度に1〜2ホールだけと発表されている。
スプリンクラーを増やすと水の使用量も増えるのか
Foxhillsは、スプリンクラーを増やして撒く場所を細かく決めることで、散水効率が約20%高まると見込んでいる。数を増やす目的は、水を必要な場所だけに撒くことにある。
日本のゴルフ場でも同じ散水システムは使われているのか
使われている。愛知県の春日井カントリークラブが、Foxhillsと同じレインバードのCirrusPROとIC Systemを2024年までの改修で導入した。
まとめ
Foxhillsの300万ポンドの投資は、スプリンクラーを約1,800基から3,500基超に増やし、制御システムで散水効率を約20%高める計画だ。工事は貯水池とポンプから始め、コース内は2冬に分けて1〜2ホールずつ進める。
ゴルフをする読者にとっては、夏のフェアウェイの色や硬さが、空模様だけでなく貯水池と散水設備への投資で決まる面があると見えてくる。ビジネス読者にとっては、効率改善の見込み、上流設備からの工程、営業を止めない工期の分け方が、数億円規模の設備投資を評価する材料になる。
英国では2026年、水道会社の使用禁止で水道水による散水が制限される地域が広がった。英国は冬の雨が増えて夏に足りず、日本は強い雨が増えて降らない日も増えた。雨の量より降り方の偏りが、両国のコースの設備投資を左右している。自前の水をため、少なく正確に撒く設備は、天候に左右されにくいコース運営の土台になりつつある。
この記事に関連するおすすめリスト
MBA カネ系 おすすめ書籍 第2弾(ファイナンス・管理会計)数億円規模の設備投資を、効率改善や工期の組み方から自分で評価したい人向けのファイナンスの本です。Amazonでリストを見る
※Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。
出典
- Golf Business News「Foxhills invests £3m in Rain Bird irrigation to future-proof its championship courses」(2026年10月7日) https://golfbusinessnews.com/news/courses/foxhills-invests-3m-in-rain-bird-irrigation-to-future-proof-its-championship-courses/
- Golf Course Architecture「Foxhills targets improved water efficiency with major irrigation upgrade」(2026年10月7日) https://www.golfcoursearchitecture.net/content/foxhills-targets-improved-water-efficiency-with-major-irrigation-upgrade
- Foxhills Club & Resort公式サイト「Golf」 https://www.foxhills.co.uk/golf
- GOV.UK(英国環境庁)「Dry weather and drought in England: 18 to 24 September 2026」 https://www.gov.uk/government/publications/dry-weather-and-drought-in-england-2026-summary-reports/dry-weather-and-drought-in-england-18-to-24-september-2026
- BIGGA「Drought restrictions: Check with your supplier and prepare for disruption」(2026年7月31日) https://www.bigga.org.uk/news-listing/drought-restrictions-check-with-your-supplier.html
- GOV.UK「9. Leisure – drought risks, impacts and actions: Drought prospects for spring 2026」(2025年11月14日) https://www.gov.uk/government/publications/drought-prospects-for-spring-2026/9-leisure-drought-risks-impacts-and-actions-drought-prospects-for-spring-2026
- Rain Bird「Kasugai Country Club」 https://360.rainbird.com/kasugai-country-club/
- 東京都環境局「ゴルフ場の概要(1号様式関係別紙1)」 https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/golf_pesticide-golf_pesticide-files-1_hozen_bessi
- Pound Sterling Live「GBP/JPY exchange rate」(2026年10月9日の値を参照) https://poundsterlinglive.com/data/currencies/gbp-pairs/GBPJPY-exchange-rate
- 気象庁「日本の気候変動2025 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—」第5章 降水 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/2025/html_honpen/cc2025_honpen_5.html
- Met Office「Climate extremes are becoming the new ‘normal’ for the UK」(State of the UK Climate 2025、2026年7月14日) https://www.metoffice.gov.uk/about-us/news-and-media/media-centre/weather-and-climate-news/2026/climate-extremes-are-becoming-the-new-normal-for-the-uk


