イングランドのゴルフ場の約6割が水道水で散水、全国の水利用調査が始動

イギリス・イングランドで、ゴルフ場の水の使い方を国全体で把握する取り組みが始まった。水道の卸・小売事業者でつくる作業部会(Retailer Wholesaler Group Water Efficiency Sub-Group)と、河川や地下水の取水を許可する政府機関の環境庁(Environment Agency)、ゴルフ団体3者が2026年9月18日、ゴルフ場の水利用の現状をまとめた「State of the Nation」報告を公表した[1][2]。3者はアマチュアゴルフを統括するイングランド・ゴルフ(England Golf)、クラブ支配人の団体GCMA(Golf Club Management Association)、グリーンキーパーの団体BIGGA(British and International Golf Greenkeepers Association)だ[1]。環境庁の調査では、イングランドのゴルフ場の約60%が散水に水道水を使っている[1]。

プレーする側に響くのは、夏のコースの状態だ。水道会社が散水制限を出すと、水道水で散水できるのはグリーンとティーだけになり、フェアウェイやラフは対象外になる[4]。対象はイングランドの制度で、日本のゴルフ場に直接の影響はない。

経営の論点は、水の調達先がコースの品質と事業継続を左右する点にある。本稿は報告書をもとに、水道水依存の実態、国の節水目標との関係、全国調査で集める項目を整理する。

イングランドのゴルフ場は散水の水をどこから得ているのか

イングランドのゴルフ場の散水は、水道水が主な水源になっている。環境庁の調査によると、ゴルフ場の約60%が飲用に処理された水道水を散水に使っている[1]。一方、川や湖、井戸、帯水層(地下水をためた地層)から自ら水を取る取水許可(abstraction licence)は、ゴルフ場全体で約820件ある[1]。

取水許可は、1日20立方メートル(2万リットル)を超えて取水する場合に必要になる[4]。申請は地域の水量や環境への影響をもとに審査され、水資源が逼迫している流域では認められないか、条件が付くこともある[4]。環境庁は、ゴルフ場を含む民間の取水者に対し、気候変動や需要増で将来の許可水量が見直される可能性があると伝え始めている[4]。

ゴルフ場の散水の水源は水道会社から買う水道水と、環境庁の取水許可を得て川・湖・井戸から自ら取る水の2系統に分かれ、約60%のゴルフ場が水道水を使う
イングランドのゴルフ場の散水の水源と管理者

報告書は、ゴルフ場の水道水依存を過去からの名残と位置づける[4]。長期的には、散水を飲用水に頼らない形へ移すべきだとしている[4]。

背景には、人口増加、気候変動、降雨の不安定化がある[1]。ゴルフ場は芝という生きた景観と、安全にプレーできる地面を保つために水を欠かせない[1]。一方で、業界全体の水の使用量、水源、貯水量、投資計画のデータは大きく欠けていると報告書は認めている[1]。

水道水に頼る施設が渇水や節水目標とどう向き合うかを考える前提として、水資源の基本を押さえたい読者向けの一冊。

国の節水目標20%はゴルフ場に何を求めるのか

国の目標はゴルフ場ごとに20%の削減を義務づけるものではない。イングランドには2021年環境法に基づく法定の水の目標があり、公共水道の使用を人口1人あたりで2019-20年度比20%、2038年までに減らすと定めている[1]。報告書はこの目標を「公共水道への供給量の20%削減」と表記している[4]。GCMAの発表は、この20%がゴルフ専用の要件でも、各クラブに同じ率の削減を求めるものでもないと明記している[1]。

報告書は、ゴルフ場の支配人や業界からよく出る疑問に答える質疑応答の形でまとめられ、水道の卸・小売事業者、環境庁、ゴルフ団体3者が共同で作った[4]。根拠法令は2023年の環境目標(水)規則だ[4]。

20%の全体目標は、漏水、家庭の使用、事業の使用という別々の目標で構成される[4]。このうち事業用の目標は、事業者全体の飲用水の使用量を2038年3月末までに9%、2050年までに15%減らす内容だ[4]。報告書は、ゴルフ場向けの質疑応答でこの事業用の目標を挙げている[4]。

イングランドの法定の水の目標。公共水道の使用を人口1人あたりで2038年までに20%減、事業用の飲用水の総量を2038年3月末までに9%減、2050年までに15%減
イングランドの法定の水の目標。20%はGCMA[1]、9%・15%は報告書[4]による

報告書は、水道会社がゴルフ場への給水を止めるのかという問いにも答えている。答えは否で、国がすべてのゴルフ場の水道を止める方針は現時点でない[1][4]。ただし水道会社は、事業者に節水、代替水源の確保、敷地内の貯水の拡大を求めている[4]。ゴルフ場は散水で水道水に頼ってきたうえ、夏の需要が大きいため、その主要な相手先に位置づけられている[4]。

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渇水時の散水制限で夏のコースはどう変わるのか

渇水時には、水道水を使った散水が段階的に制限される。最初の段階が一時使用禁止(Temporary Use Ban、いわゆるホースパイプ禁止令)で、ゴルフ場も対象になる[4]。制限は水道水にだけかかり、内容は水道会社によって異なる[4]。

報告書によると、一時使用禁止の間に水道水で散水してよいのは、一般にグリーンとティーだけだ[4]。フェアウェイ、アプローチ、ラフ、クラブハウス周りの芝、植栽は対象外になる[4]。次の段階の不要不急使用禁止(Non-Essential Use Ban)では、窓の清掃やカートの洗車、池の維持にも水道水を使えなくなる[4]。

一時使用禁止ではグリーンとティーのみ水道水で散水でき、フェアウェイやラフは対象外。不要不急使用禁止ではカート洗車なども禁止。自前の井戸や湖の水は両方の禁止の対象外
渇水時の水道水の散水制限(イングランド)

自前の井戸や湖、雨水の貯水池の水を使うゴルフ場は、どちらの禁止の対象にもならない[4]。ただし環境庁が別に制限をかけた場合は従う必要がある[4]。川や地下水の水位が下がれば取水許可も制限されるため、渇水は散水の需要を増やしながら供給を減らす[1]。

水道水だけに頼るコースほど、渇水の夏にフェアウェイの状態を保ちにくくなる、というのが筆者の見立てだ。報告書は支援策として、イングランド・ゴルフの水の確保に関する手引きや、ゴルフの統括団体R&Aの水管理の情報サイトを案内している[4]。

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ゴルフ場が水を使うことの正当性が、欧州で問われている。地中海から西欧にかけて、灌漑や上水道の使用を禁じる規制が広がっている。スペインのミハス(Mijas)ではゴルフ場の散水に上水道(飲料水)を使うことが禁じられ[2]、フランスのイル=エ=[…]

全国水利用調査では何を調べるのか

全国調査は、ゴルフ場の水利用を初めて網羅的に数える試みだ。作業部会は独立系の調査会社スポーティング・インサイツ(Sporting Insights)に調査を委託し、イングランドとウェールズの約1,800コースから回答を集める[1][4]。事業名はGolf Sector Resilience and Alternative Water Supply Optionsで、ゴルフ団体3者が回答を呼びかけている[2][3]。

調査の区分主な質問
水の使用量年間使用量、うち散水量、散水のピーク日量、ホール数・会員数
水源散水の主・副の水源、地下水・表流水の取水許可の有無と許可水量
許可環境庁に取水や貯水池の申請を却下されたか、許可水量の削減を通知されたか
貯水敷地内の貯水の有無・種類・容量、1年分の散水をまかなえるか
散水設備散水システムの経過年数、散水する範囲

出典: RWG Water Efficiency Sub-Group報告[4]

報告書は、ゴルフ場の長期目標として2点を挙げる[4]。散水に残る水道水をすべて、井戸や雨水、処理済み排水などの非飲用水に置き換えること。そして少なくとも1年分の散水をまかなえる貯水を敷地内に持つことだ[4]。

約1,800コースの全国調査で使用量・水源・貯水を把握し、許可制度の課題を洗い出したうえで、散水の水道水を非飲用水に置き換え、1年分の貯水を確保する長期目標につなげる流れ
全国調査から長期目標までの流れ

すべてのコースに合う単一の解決策はなく、立地や投資余力によって雨水の回収、排水の再利用、貯水の増設などの組み合わせが変わる[1]。GCMAのトム・ブルック最高経営責任者は、水の確保を「いまゴルフが直面する最大の課題」と述べた[1]。BIGGAのジム・クロクストン最高経営責任者は、回答が集まれば水道会社や政府と話す際の根拠が固まるとしている[3]。

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日本のゴルフ場の散水の水源はどう管理されているのか

日本では、ゴルフ場の散水の水源別の割合を示す全国集計は、公的機関や業界団体の公開資料では確認できなかった。官民による同種の全国調査も見当たらない。日本の公開データが乏しいため、制度の違いに絞る。

川の水を使う場合は、河川法第23条に基づく流水の占用許可が必要になる[5]。いわゆる水利権で、国土交通省の資料は、特定の目的のために河川の流水を排他的・継続的に使うことを河川管理者が許可した権利と説明している[5]。

地下水は、河川の流水とは別に自治体の条例などで規制される。千葉県は環境保全条例で、10ヘクタール(10万㎡、東京ドーム約2.1個分)以上のゴルフ場の散水を地下水採取の規制対象に指定している[6]。市川市や船橋市など指定地域では、吐出口の断面積が6平方センチメートルを超える揚水機で新たにくみ上げる場合、知事の許可が要る[6]。

比較軸イングランド日本
散水の水源の全国データ約60%が水道水(環境庁の調査)[1]—
川の水の取水環境庁の取水許可。1日20m³超で必要[4]河川法第23条の流水の占用許可(水利権)[5]
地下水の取水同じく環境庁の取水許可[4]自治体の条例などで規制。千葉県は10ha以上のゴルフ場の散水を指定地域で許可制[6]
業界全体の調査約1,800コースを対象に実施中[1][4]—

※「—」は本稿で確認していない項目。

まとめ

イングランドのゴルフ場の約6割は散水を水道水に頼っており、水道事業者と環境庁、ゴルフ団体が約1,800コースを対象に水利用の全国調査を始めた。国の20%目標はゴルフ場ごとの義務ではないが、事業用水には2038年に9%減という別の目標がある。ゴルフをする読者は、渇水の夏にイングランドのフェアウェイが茶色くても、水道水での散水がグリーンとティーに限られる制度の結果だと読める。ビジネス読者にとっては、水源の自前化と貯水への投資が、コースの品質を渇水から切り離せるかどうかの判断材料になる。調査では、環境庁に取水や貯水池の申請を却下された経験も尋ねる。結果は、取水や貯水を認めやすくする制度変更を求める業界側の根拠として使われる見込みだ[4]。

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よくある質問(FAQ)

Q. イングランドのゴルフ場は水道水を止められるのですか。
A. 国がすべてのゴルフ場の水道を止める方針は現時点でない[1]。ただし渇水時の一時使用禁止では、水道水で散水できる範囲がグリーンとティーに限られる[4]。

Q. 20%の節水目標はゴルフ場にも課されるのですか。
A. 20%は公共水道の使用を人口1人あたりで減らす国全体の目標で、ゴルフ場ごとの義務ではない[1]。報告書がゴルフ場向けに挙げる事業用水の目標は、2038年3月末までに9%減だ[4]。

Q. 日本のゴルフ場でも同じ調査は行われていますか。
A. 散水の水源を全国で集計した公開資料は、本稿では確認できなかった。川の水は河川法の許可、地下水は自治体の条例などで個別に管理されている[5][6]。

出典

  1. State of the Nation report sets out golf’s water resilience challenge, Golf Club Management Association (GCMA), 2026-09-18. https://gcma.org.uk/news/state-of-the-nation-report-sets-out-golfs-water-resilience-challenge/
  2. Golf clubs urged to take part in national water resilience census, The Golf Business, 2026-09-18. https://thegolfbusiness.co.uk/2026/09/golf-clubs-urged-to-take-part-in-national-water-resilience-census/
  3. England Golf, BIGGA and GCMA urge golf clubs to take part in water census, Turf Matters, 2026-09-22. https://turfmatters.co.uk/england-golf-bigga-and-gcma-urge-golf-clubs-to-take-part-in-water-census/
  4. ‘State of the Nation’ overview of water resources and efficiency within the Golf Sector, Retailer-Wholesaler Group Water Efficiency Sub-Group, 2026-09. https://gcma.org.uk/wp-content/uploads/2026/09/rwgwesg_golf-project_state-of-the-nation_final.pdf
  5. 資料5 水利権制度(第1回 資源としての河川利用の高度化に関する検討会), 国土交通省, 2015-01. https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shigenkentou/dai01/pdf/s05.pdf
  6. 法令による地下水採取規制, 千葉県, 2023-10-11. https://www.pref.chiba.lg.jp/suiho/jibanchinka/torikumi/chikasui.html