
米国テキサス州の州都オースティンで、約100年続く市営ゴルフ場の土地が、大学から市へ移る見通しになった。対象はLions Municipal Golf Course(ライオンズ・ミュニシパル・ゴルフコース、通称Muny=ムニー)で、テキサス大学オースティン校(UT Austin、州立の総合大学)が持つ土地の上にある[1][4]。市は2026年10月14日、UTとMunyの所有権を市に移す合意に近づいたと発表した[1]。UT側も同じ趣旨の声明を出している[2][3]。
Munyは1924年に開場し、面積は約141エーカー(約57万㎡、東京ドーム約12.2個分)[4]。年7万5,000ラウンド超が回る、市内で最も使われている公営コースだ[1][4]。1950年には米南部の公営ゴルフ場として初めて人種統合を行い、国家歴史登録財に公民権の史跡として載っている[1][4]。
市は1930年代後半から大学の土地を借りて運営してきたが、賃貸借は2019年以降、月ごとの更新が続いていた[4]。今回の合意案では、匿名の寄付を元手に土地を市へ移し、その代わりに大学が持つ周辺の土地の開発ルールを改める[2][3]。合意案のもとでMunyは18ホールのゴルフ場として残る[2]。
オースティンの市営ゴルフ場Munyは、なぜ大学の土地にあるのか
Munyは、慈善家でUTの理事を長く務めたジョージ・W・ブラッケンリッジ氏が1910年にUTへ寄贈した土地の一部にある[5][6]。寄贈地はコロラド川沿い(現在のレディバード湖、市の中心部を流れる川をせき止めた湖)の約500エーカーで、ブラッケンリッジ・トラクトと呼ばれる[5]。道路や住宅地に切り分けられた結果、現在は約350エーカーで、ゴルフ場、学生寮、大学の生物学の野外研究所、青少年スポーツ施設、商業ビルが並ぶ[5]。


ゴルフ場は1924年、地元のライオンズクラブが土地を借りて造った[5]。市は1936〜37年に賃貸借を引き継ぎ、それ以来運営している[5]。
大学側は、この土地をゴルフ場として貸すことに否定的だった。UTシステム(UT Austinを含む州立大学群の運営組織)の理事会は2011年2月、2019年5月の期間満了で賃貸借を終える方針を決めた[6]。理由は、賃料が他の用途で得られる収入を大きく下回り、大学の教育に役立てるという寄贈の趣旨に合わないことだった[6]。
その後も解決策は出ず、賃貸借は5回延長され、最後は2020年5月に月ごとの更新に切り替わった[5]。2019年には当時州上院議員だった現市長カーク・ワトソン氏の提案で、州法による保全地区Save Historic Muny Districtができ、支援団体のMuny Conservancyも発足した[2]。

公園のような都市の緑地を行政と民間がどう分担して運営するのか、契約とお金の流れを図解で示す。Munyの賃貸借や若洲の指定管理を読む下地になる。
Munyを市に移す合意案では、市と大学は何を得るのか
合意案の骨格は、Munyを市に渡すことと、大学が持つ残りの土地の開発ルールを改めることの組み合わせだ。手段は1989年に市とUTが結んだ自治体間協定、ブラッケンリッジ開発協定(BDA)の改定で、大学の土地を大学以外の目的で開発するときの基準を定めている[4][5]。
原資は、オースティンに長く住む複数の匿名の寄付者の申し出だ[2][3]。寄付者の名前と寄付の総額は公表されていない[2]。

市が得るのはMunyの所有権だ。WAYA(ウエスト・オースティン青少年協会)の敷地はレクリエーションの非営利団体に移る[2]。大学側は、周辺の土地を将来開発できるようになり、大学の敷地にある市の道路用地の一部も大学の管理に移る[2][4]。
ほかに、ミューラー地区にある大学の借地の契約を改め、学生と教員の住宅を建てられるようにする[2]。インフラの費用には、開発で増える税収を充てる税増収再投資地区(TIRZ)を使う案が入った[4][5]。
大学の土地190エーカー(約77万㎡、東京ドーム約16.4個分)に課す主な開発ルールは次のとおりだ[4][5]。
| 項目 | 現行のBDA | 改定案 |
|---|---|---|
| 不透水面(舗装や建物で雨がしみ込まない面)の上限 | 区画ごとに30〜90% | 190エーカー全体で75%、区画ごとに85% |
| 建物の高さ | 区画ごとに幅がある | レイクオースティン通り沿いと北側は65フィート(約20m)、南側は105フィート(約32m) |
| レディバード湖からの後退距離 | 200フィート(約61m) | 200フィートを維持し、小さな水路の両側に50フィート(約15m)を追加 |
| 水質・排水の基準 | なし | 市の現行基準を採用 |

元大津市長の越直美氏が、在任中に手がけた大津市の公民連携の事例を解説している。公有地を民間の力で生かす実務の本で、大学の土地と市のゴルフ場を一つの合意で動かす今回の案と並べて読める。
都市の中のゴルフ場の土地はいくらなのか
Community Impactによると、MunyとWAYAの敷地を含む155エーカーの土地は6億8,000万ドル(約1,054億円。1ドル=155円換算)を超える評価を受けた[2]。評価の時点と評価者は記事に書かれていない。

単純に割ると、1エーカーあたり約439万ドル(約6.8億円)、1㎡あたり約1,084ドル(約16.8万円)になる。これは155エーカー全体の評価額を面積で割った筆者の計算で、ゴルフ場部分だけの評価ではない。
市がUTに払う賃料は年50万ドル弱(約7,750万円)だ[2]。評価額に対する比率は0.1%に満たない、というのが筆者の試算だ。2011年にはUTシステム理事会も、賃料は他の用途で得られる額を大きく下回ると判断していた[6]。

大学側の開発の構想はこれまでもあった。2009年には、Munyを含むブラッケンリッジ・トラクト全体を高密度の複合開発にする案が出ている[2]。
今回の合意案では、ゴルフ場の土地は匿名の寄付を元手に市へ移り、大学は残りの土地で開発の道筋を得る。大学の周辺の土地をどう使うかの計画は、まだ決まっていない[2]。寄付の額が公表されていないため、141エーカーにいくらの値が付いたのかは分からない。
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11月19日の市議会採決までに何が決まるのか
合意案が効力を持つには、オースティン市議会とUTシステム理事会の両方の承認が要る[2]。市議会は2026年11月19日に審議し、理事会も11月に別途審議する[4][5]。
その前に市の職員が2つの委員会に説明する。10月21日が環境委員会、10月27日が計画委員会で、いずれも説明の場として日程が組まれている[5]。環境委員会向けの説明資料は公開されているが、委員会でどんな意見が出たかは記事執筆時点では確認できていない。
| 時期 | 手続き | 主体 |
|---|---|---|
| 2026年10月21日 | 環境委員会への説明 | 市の職員[5] |
| 2026年10月27日 | 計画委員会への説明 | 市の職員[5] |
| 2026年11月19日 | 改定BDAの審議 | 市議会[4][5] |
| 2026年11月 | 改定BDAの審議 | UTシステム理事会[5] |
| 2027年春 | 規制計画とTIRZの決定、Munyの市への移転 | 市議会ほか[5] |
市議会で承認されても、Munyの移転はすぐには起きない。2027年春までに道路用地の整理、ミューラーの借地の改定、規制計画とTIRZの資金計画をまとめ、そのあとでMunyを市に移す段取りだ[5]。
ワトソン市長は、長く取り組んできたが、はっきりした道筋がなかったと話している[2][3]。
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日本の公営ゴルフ場の土地は誰が持ち、誰が運営しているのか
日本にも都市の中の公営ゴルフ場はあるが、土地の持ち主と運営の仕組みはMunyと違う。東京都江東区の若洲ゴルフリンクスは、東京都の土地にある都立若洲海浜公園の一部で、都が指定管理者(自治体が施設の管理を任せる民間などの団体)に運営を任せている[7]。Munyのように、運営する自治体と土地の持ち主が分かれてはいない。
若洲の土地は、1965〜74年に約1,800万トンのごみで埋め立てて造られた[7]。地盤沈下などの問題から、暫定的なゴルフ場として1990年12月に開場した[7]。コース面積は54ha(約54万㎡、東京ドーム約11.5個分)の18ホールだ[7]。
料金は利用料金制で、指定管理者が条例の範囲内で知事の承認を得て決め、その収入を公園全体の管理運営費に充てる[7]。都は2025年に公募し、応募は1団体だった[8]。東京港埠頭株式会社を代表とする若洲シーサイドパークグループが600点満点中489点で候補者に選ばれ、指定期間は2026年4月から2031年3月までの5年間だ[8][9]。
| 比較軸 | Muny(米オースティン) | 若洲ゴルフリンクス(東京都) |
|---|---|---|
| 面積 | 約141エーカー(約57万㎡)[4] | コース54ha(約54万㎡)[7] |
| 土地の持ち主 | UT Austin(合意案で市へ)[1] | 東京都[7] |
| 運営 | 市が賃借して運営[4] | 指定管理者(5年間)[8] |
| 料金の決め方 | — | 条例の範囲で知事の承認を得て指定管理者が決める[7] |
| 年間ラウンド数 | 7万5,000超[1] | — |
※「—」は本稿で確認していない項目。
米ネバダ州ラスベガス(Las Vegas、カジノと国際会議で知られる観光都市)で、市が所有・運営してきた市営(municipal、地方自治体が公共サービスとして運営する形態)ゴルフ場「Desert Pines Golf Club(デザート[…]
よくある質問(FAQ)
Munyは閉鎖されるのか
合意案では、Munyは18ホールのゴルフ場として残る。市議会とUTシステム理事会の承認が前提で、市議会の審議は11月19日だ。
大学はなぜ土地を手放すのか
匿名の寄付者の申し出があり、引き換えに大学の周辺の土地190エーカーで開発の道筋が付くためだ。寄付の額は公表されていない。
Munyの土地の価値はどれくらいか
Community Impactによると、MunyとWAYAの敷地を含む155エーカーの評価額は6億8,000万ドル(約1,054億円)を超える。ゴルフ場部分だけの評価額は公表されていない。
まとめ
米オースティン市とUT Austinの合意案は、大学の土地にある市営コースMuny(約141エーカー)を、匿名の寄付を元手に市へ移す。その代わりに、大学が持つ周辺の土地190エーカーの開発ルールを改める。Munyを含む155エーカーの評価額は6億8,000万ドル(約1,054億円)超で、市が払ってきた賃料は年50万ドル弱だった。
合意案はまだ確定していない。10月27日に計画委員会への説明があり、11月19日に市議会、11月中にUTシステム理事会が審議する。承認されても、Munyが市に移るのは規制計画とTIRZがまとまる2027年春以降の段取りだ。
寄付の総額と寄付者、評価額の時点、大学の土地の具体的な開発計画は公表されていない。採決の結果と、寄付額が明らかになるかが次の焦点になる。
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出典
- City of Austin「City of Austin and UT close to agreement to preserve Muny」(2026年10月14日) https://www.austintexas.gov/communications/news/city-austin-and-ut-close-agreement-preserve-muny
- Community Impact「Austin, UT announce deal to preserve Muny」(2026年10月14日) https://communityimpact.com/central-austin/development/austin-ut-announce-deal-to-preserve-muny/
- CBS Austin「Austin, UT reach deal to transfer Lions Municipal Golf Course land to city」(2026年10月14日) https://cbsaustin.com/news/local/austin-ut-reach-deal-to-transfer-lions-municipal-golf-course-land-to-city
- City of Austin, City Manager T.C. Broadnax「Memorandum: Lions Municipal Golf Course and Brackenridge Development Agreement」(2026年10月14日) https://services.austintexas.gov/edims/document.cfm?id=483380
- City of Austin「City of Austin and The University of Texas Brackenridge Interlocal Agreement, Environmental Commission Briefing」(2026年10月21日) https://services.austintexas.gov/edims/document.cfm?id=483641
- The University of Texas System「Lions Municipal Golf Course lease will expire in 2019」(2011年2月18日) https://www.utsystem.edu/news/2011/02/18/lions-municipal-golf-course-lease-will-expire-2019
- 東京都港湾局「東京都立海上公園(若洲海浜公園)指定管理者特記仕様書」(令和7年度公募) https://www.kouwan.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kouwan/r7wakasu_tokki
- 東京都「港湾局所管施設の指定管理者候補者を決定」(2025年11月25日) https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/11/2025112523
- 東京都港湾局「指定管理者候補者選定の概要」(2025年11月25日) https://www.kouwan.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kouwan/251125_1


