生成AIはまだゴルフコースを設計できない、建築家が語る限界

生成AI(文章や画像、設計案を自動的に作り出す人工知能)は、専門性の高い創造的な仕事も既にこなせるという見方が広がっている。ゴルフコース設計の現場でも、同様の期待が語られ始めた。なかでも注目されるのが「ルーティング」と呼ばれる工程だ。

ルーティングとは、敷地全体に18ホールをどう配置するかを決める、設計の骨格づくりを指す。地形図を読み込んで最適な配置案を提示できれば、従来は数日から数週間かかっていた作業を大幅に短縮できると期待されている。だが実際に現場の建築家へ取材すると、評価は慎重だった[1]。

生成AIは万能ではなく、業務ごとに実力の差が大きいという現実を、この事例は具体的に示している。IT・DX投資の判断に関わる読者にとって、専門性の高い上流工程でAIがどこまで実務水準に達しているかを見る格好の事例になる。この記事では、AIがゴルフコース設計のどこまでを担えるようになったのか、建築家自身の言葉から現在地を整理する。

ゴルフコース設計のルーティングとは何か、AIはどこまで担えるのか

ルーティングとは、敷地の地形図をもとに18ホールの配置を決める、コース設計の骨格となる工程を指す[1]。等高線や高低差を示す地形図(トポグラフィックマップ)を読み込み、池や樹木、造成コストなどの条件を踏まえてホールの並びを組み立てる。従来この作業は、建築家が現地を歩き、地図を見比べながら何日もかけて詰めてきた。

設計料の中でも判断の比重が大きい上流工程とされ、経験を積んだ建築家の腕の見せどころとされてきた。AIがこの工程に期待される理由は、地形図を読み込んで候補となるホール配置案を短時間で複数出せる可能性にある。うまく機能すれば、依頼主の要望を踏まえた配置案を、数日から数週間かかっていた作業から大幅に圧縮できるという見立てだ[1]。

プレー動線やコスト条件を変えた複数案を並行して検討できれば、建築家自身の判断材料も増える。予算や土地の制約が厳しい案件ほど、複数の配置案を早く比較できる利点は大きい。この期待の大きさが、生成AIは何でもこなせるという見方を後押ししている面がある。

図表

同分野を体系的に扱う関連書。

建築家がAIにルーティングを任せてみた結果はどうだったか

ここでは、実際にAIへルーティング生成を試みた建築家の評価を指す。米ゴルフダイジェスト(Golf Digest、米国のゴルフ専門メディア)の取材に対し、建築事務所ジャクソン・カーン・デザイン(Jackson Kahn Design)の共同代表デビッド・カーン氏が体験を語った[1]。

カーン氏は地形図とルーティングの詳細なルールをAIへ与え、棒線図(ホールの中心線だけを線で示す簡易な配置図)レベルのたたき台を作らせた。結果は「まともに機能しなかった」というものだった[1]。理由についてカーン氏は、AIが学習できるだけの量の既存ルーティングと地形図のデータセットが、そもそも世の中にほとんど存在しない点を挙げている[1]。

文章や画像と違い、ルーティングの完成データは公開されている量が少なく、AIが参照できる手本自体が乏しい。一方でカーン氏は、1か月ほどかけて既存の設計データを与え、指示を練り直せば、いずれ高い水準に達する可能性はあるとも述べている[1]。現時点の限界であって、恒久的な限界ではないという見立てだ。

裏を返せば、データを整備する投資をどこまで払うかという、費用対効果の問題でもある。1件の設計案件のためだけに、そこまでの投資をする建築事務所は多くないだろう。

図表
ゴルフテック/サステナ

英国で2026年、ゴルフコース運営者にとってこれまで「カバーできなかったリスク」を補填する保険商品が登場した。保険ブローカー大手のギャラガー(Gallagher Specialty)と、保険を引き受ける専門会社であるMGA(Managin[…]

AIが得意な工程と未成熟な工程はどこで分かれるか

得意な工程と未成熟な工程を切り分けると、AI活用の判断基準が見えてくる。取材から浮かぶのは、人間が作った下書きを仕上げる補助作業と、ゼロから構想を組み立てる高度な判断との差だ。

カーン氏によれば、パース(完成予想図)の仕上げに4〜5時間かかっていた作業が、ラフな下書きを30分で作り、そこからAIが10秒ほどで仕上げるところまで短縮できたという[1]。仕上げ工程では、AIはすでに実務の戦力になっている。パースや建築レンダリングは、写真や過去作例がインターネット上に大量に存在し、AIが学習しやすい領域でもある。

工程AIの現在地
パース・レンダリングの仕上げ得意。下書きを数十秒で高精度な完成図に変換できる
ルーティング(ホール配置)の立案未成熟。学習データの不足で実務水準に届かない
施工・現地調整の判断適用事例が乏しく、人間の現地判断が中心

著名建築家のトム・ドーク(Tom Doak)氏は一段と懐疑的だ。AI設計のコースはシミュレーターの中にとどまってほしいと述べつつ、それでも誰かが自分より優れた設計プログラムを作ろうとするだろうと皮肉交じりに語っている[1]。ゴルファーがAI設計のコースをわざわざ求める理由が分からない、とも語っており、技術面だけでなく需要面での懐疑も示している[1]。

得意な工程と未成熟な工程の線引きは、ゴルフコース設計に限らず、専門性の高い業務にAIを導入する際の共通の視点になる。

ゴルフテック/ベンチャー

業界団体の役割は、ルール整備と普及活動が中心だと考えられてきた。だが米国でその前提が変わりつつある。全米プロゴルフ協会(PGA of America)は、米投資会社Elysian Park Venturesと合弁ベンチャーキャピタルを立ち[…]

DX担当者はAI導入の可否をどう見極めればよいか

専門性の高い業務にAIを導入するかどうかは、学習データの厚みで判断できる部分が大きい。パースの仕上げのように、過去の作例や既存データが豊富にある工程は、AIが早期に実務水準へ届きやすい。逆にルーティングのように、確立された事例データベースが乏しい工程は、AIが実務に耐えない案を出しやすい。

工程を一括りにせず、細かく分けて判断する視点が欠かせない。カーン氏のレンダリング短縮の事例も、AIが自律的に設計判断を下したのではなく、下書き作成という工程を人間の管理下で補助した結果である点が重要だ[1]。AIを自律的な設計者としてではなく、人間が主導権を握った補助ツールとして使う現在地を示す一例だ。

専門知識を持つ人間が最終判断を担う体制がある限りは、未成熟な工程でもAIを試す価値があるという読み方もできる。逆に、評価できる専門家が社内にいないまま未成熟な工程へAIを丸投げすれば、成果物の良し悪しを判断すること自体ができなくなる。

図表

DX投資を検討する読者にとって、対象業務に十分な学習データがあるか、AI案を評価できる専門家が社内にいるかという2点が、導入可否を見極める材料になる。

ゴルフテック/ベンチャー

この記事でわかること マーケティング1.0から6.0までの進化と、その本質的な意味 プラットフォームビジネス特有のマーケティング課題 ― 「鶏と卵」問題 ターゲティングの順序が投資意思決定を左右する理由 LTV/CACを使った投資効果の定[…]

まとめ

ゴルフコース設計の取材が示すのは、生成AIが万能ではなく、工程ごとに実務水準への到達度が大きく異なるという事実だ。仕上げ作業では即戦力になる一方、ルーティングのような上流の構想づくりは、まだ人間の建築家に委ねられている。

IT・DX投資を検討する読者にとって重要なのは、AIの実力を業界単位ではなく工程単位で見極める視点だ。学習データが薄い工程にAIを丸投げすれば、カーン氏が経験したように実務に耐えない結果を招きかねない。逆にデータが厚い工程なら、早い段階からAIを使い倒す価値がある。

この事例は、ゴルフ業界に限らず、専門性の高い業務へのAI導入を検討するあらゆる読者への参考になる。AIは何でもできるという期待にも、まだ何もできないという反発にも偏らず、工程ごとに実力を見極める視点を持ちたい。

よくある質問(FAQ)

Q1. ゴルフコース設計における「ルーティング」とは何か。
A. 敷地の地形図をもとに18ホールの配置を決める、コース設計の骨格となる工程を指す。等高線や高低差を踏まえ、ホールの並びや距離構成を組み立てる作業だ[1]。

Q2. AIは現時点でゴルフコース設計のどこまで担えるか。
A. パースやレンダリングなど、人間が作った下書きを仕上げる補助作業では実務水準に達している。一方、ゼロからホール配置を組み立てるルーティングの立案は、学習データの不足からまだ実務水準に届いていない[1]。

Q3. なぜAIはルーティングの立案が苦手なのか。
A. 既存のゴルフコースのルーティングと地形図を組み合わせた大規模なデータセットが、現時点でほとんど存在しないためだ。建築家のデビッド・カーン氏は、十分なデータを与え指示を練り直せば将来的に高精度になり得るとも述べている[1]。

出典

[1] Golf courses built by AI? How architects feel about this uncertain future, Golf Digest https://www.golfdigest.com/story/golf-courses-built-by-ai-architects-designers-future (同記事はYahoo Techにも配信 https://tech.yahoo.com/ai/articles/golf-courses-built-ai-architects-142129973.html