ラボ品質のスイング計測が体に貼る時代へ──ウェアラブル新潮流

米国のゴルフ計測市場で、計測機器の置き場所が変わり始めている。コースの脇や室内に据え置く高価なローンチモニターから、選手の体に直接貼る小型センサへ、という移行だ。本稿でいうIMU(慣性計測装置)は、加速度と角速度から動きを捉えるコイン大のモーションセンサを指す。

火付け役の一つが米スタンフォード大学の研究グループである。同大の運動解析ラボと整形外科部門が、背骨の上下に貼った一対のIMUでスイングの回転を計測する装着型デバイスを開発した[1]。狙いは、これまで研究室の3次元モーションキャプチャでしか取れなかった指標を、コース上でリアルタイムに測ることにある。

据え置き型のローンチモニターや光学式モーションキャプチャは精度が高い半面、設置場所と費用の壁が厚かった。装着型がラボ並みの精度に届けば、計測はコースや練習場へ持ち出せる。場所の制約が消えれば、計測できる人の数も、取れるデータの量も桁が変わる。

なぜ今この話がIT・ビジネス読者に効くのか。理由は計測の主役が据え置きハードから装着型センサとソフトに移り、価値の源泉とコスト構造が組み替わるからだ。本稿では、計測対象の中身、検証データ、参入各社の資金状況を順に追い、装着型シフトが開く市場の輪郭を読む。

背骨に貼るIMUは何を測る?──スイングの三つの回転(S/O/X)

スタンフォードのデバイスは、上部脊柱と下部脊柱の皮膚にコイン大のIMUを各1個貼る構成だ[1]。ワイヤレスかつ軽量で、コース上での装着を前提にしている。

測るのは体幹の回転を表す三つの指標である。肩の傾きを示すS-factor、骨盤の傾きを示すO-factor、肩と腰の相対回転を示すX-factorだ[1]。これらはインパクト時のヘッドスピードや飛距離を左右する強い決定要因とされる。

X-factorは古くから飛距離との関連が論じられてきた指標だ。肩と腰のねじれ差が大きいほど切り返しで蓄えるエネルギーが増えるとされる。その計測がコース上で取れる意味は、レッスンや練習の即時改善に直結する。

従来このレベルの回転計測は、研究室に固定された光学式モーションキャプチャの領分だった。複数台のカメラと反射マーカー、専用の床と空間が要る。装着型IMUはその計測を屋外に持ち出す点に新しさがある。ラボの精度をコースへ、という発想だ。

IMUは加速度計とジャイロスコープを組み合わせ、姿勢の変化を逐次積算して回転を割り出す。光学式が外から体を撮るのに対し、IMUは体の内側から動きを記録する。視界の遮りや照明条件に左右されない点が、屋外計測との相性を生む。

装着型はラボ品質に届くのか?──検証データが示す一致度

装着型計測の弱点は精度への疑問だ。体に貼ったセンサが研究室の光学計測とどこまで一致するかが問われる。

この点を、関連する査読論文が定量的に検証している[2]。学術誌Sensorsに2023年10月に掲載された研究だ。プロとアマの男女ゴルファー36人を9人ずつ4群に分け、IMUと3次元モーションキャプチャの回転指標を比較した。

結果は全指標で強い正の相関を示した。級内相関係数はO-factorの0.91から上部体幹回転の1.00まで分布する[2]。装着型でも研究室計測に迫る一致が得られることを、数字が裏づけている。

指標内容IMUと光学計測の一致
S-factor肩の傾き高い相関
O-factor骨盤の傾き級内相関 0.91
X-factor肩と腰の相対回転高い相関
上部体幹回転体幹上部の回転角級内相関 1.00

この一致度の意味は大きい。級内相関は1に近いほど二つの計測がほぼ同じ値を返すことを示す。O-factorの0.91でも実用上は高水準で、上部体幹回転の1.00は事実上の一致だ。

検証母数は36人と小さく、なお限定的だ。プロとアマ、男女を9人ずつ4群に分けた設計は技量と性別の幅を見る狙いがあるが、統計の安定には数が要る。ただし据え置き計測の代替として装着型を評価する第一歩にはなる。

論文が示すのは精度だけではない。研究室の権威を背負った検証データそのものが、装着型を売る企業にとっての信頼の担保になる。技術の優劣より、第三者が裏づけた数字を持つかが市場では効いてくる。

据え置きから装着へ──参入各社の資金と立ち位置は?

研究だけでなく事業側でも装着型への移行が進む。代表格がスウェーデン発のDeWizだ。腕に着けたデバイスでスイングの手の速度やテンポ比、切り返しを捉え、欠点に対し即時のフィードバックを返す。

DeWizの腕装着型スイング計測デバイスとアプリ画面
DeWizの腕装着型デバイス。手の速度・テンポ比・切り返しを計測し、アプリへ即時フィードバックを返す(画像:DeWiz公式サイト)

資金面では、DeWizは2回の調達で合計約893万ドル(約13.8億円。以下1ドル=155円換算)を集めた[3][4]。2021年6月のシリーズAで500万ドル超(約7.8億円)[3]、2022年10月のシリーズBで4300万スウェーデンクローナ超、米ドル換算で約400万ドル(約6.2億円)を確保している[4]。シリーズBにはビジェイ・シンとアニカ・ソレンスタムが新規投資家として関与した[4]。

出資者の顔ぶれは製品の実需を物語る。現役・往年のトッププロが自ら資金を投じた事実は、装着型計測が訓練の現場で使える段階にあることを示す。事業の観点では、装着型は施設に来る客を待つ据え置き型と違い、個人が日常的に着けてデータを蓄積する点が新しい。

新規参入も続く。米Laced Golfは靴に取り付けるセンサでアドレスのアライメントを計測し、設定姿勢へリアルタイムに助言する[5]。ボールの上に立つと視覚がゆがみ、利き目の影響も加わって、感覚上の狙いと実際の狙いがずれるという課題に着目した[5]。これまで計測されてこなかった領域を装着型で埋める動きだ。

Laced Golfの靴装着型アライメント計測センサー
Laced Golfの靴装着型センサー。アドレス時のアライメントを計測し、設定姿勢へリアルタイムに助言する(画像:Laced Golf公式サイト)

三者の発想は計測する場所で分かれる。背骨、腕、足元はいずれも固定カメラが捉えにくい。装着型は計測の物理的制約を逆手に取り、据え置きが手を出しにくい瞬間と部位に市場の余白を見つけている。

主体形態計測対象資金・段階
スタンフォード背骨IMU 2個体幹回転(S/O/X)大学研究[1]
DeWiz腕装着手の速度・テンポ・切り返し約893万ドル(約13.8億円)調達[3][4]
Laced Golf靴装着アライメント新興[5]

まとめ

装着型シフトの本質は、計測価値が高価なハード一式から小型センサとソフトへ移る点にある。据え置き機が握っていた精度の優位を、検証データを伴う装着型が侵食し始めている。

ビジネスの読み筋は三つだ。第一に、ハード単価依存からデータ・サブスクリプション型へ収益構造が動く可能性。第二に、アライメントのように未計測だった領域が新規市場として開く点。第三に、研究室の権威を検証論文で裏づける企業が信頼を取りやすい点である。

計測機器が体に貼る時代は、据え置きの牙城を崩すブルーオーシャンを生む。注目すべきはセンサーの精度自慢ではなく、取得したデータを誰がどう使い続ける設計を持つかにある。次の焦点は精度検証の母数拡大と、装着型データをどう収益化するかの設計だ。

よくある質問(FAQ)

Q. 体に貼るウェアラブル計測は据え置き型と何が違う?
A. 据え置き型は精度が高い反面、設置場所と費用の壁が大きい。体に貼るIMUはコースや練習場へ持ち出せ、計測できる人数とデータ量が桁違いに増える。

Q. 装着型センサでもラボ並みの精度が出る?
A. 査読論文(Sensors誌)でIMUと3次元モーションキャプチャの回転指標が全項目で強い正の相関を示し、上部体幹回転は級内相関1.00とほぼ一致した。ただし検証母数は36人で、母数拡大が課題。

Q. IMUとは何か?
A. 慣性計測装置の略。加速度計とジャイロスコープで姿勢の変化を逐次積算し、体の内側から動きを記録するコイン大のセンサ。

出典

[1] https://techfinder.stanford.edu/technology/golfing-science-wearable-device-measuring-golf-swing-biomechanics
[2] https://www.mdpi.com/1424-8220/23/20/8433
[3] https://www.businesswire.com/news/home/20210621005497/en/deWiz-Making-a-Buzz-After-Closing-out-Series-A-Funding-With-More-Than-5-Million-USD-Investment
[4] https://www.businesswire.com/news/home/20221006005058/en/deWiz-AB-Closes-Out-Series-B-Funding-to-Fuel-Golf-Wearable-Technology-Business
[5] https://mygolfspy.com/news-opinion/laced-golf-golfs-digital-revolution-is-coming-for-alignment/