
ゴルフコースが90を超えたベトナムは今、2030年を目標に200コース体制を整えようとしている[1]。
2倍以上への拡大は単なる量的目標ではない。国家観光戦略の中に「ゴルフ」を組み込み、観光収益の増大手段として制度的に位置づけた政策的な意思決定だ。
現時点でベトナムのゴルフ観光収益は年間10億ドル(約1,550億円。1ドル=155円換算)を超え、国家観光収益全体の約10%に達しているという[1]。アジア太平洋で最も成長の速いゴルフ市場と見なされており、その整備を主導するのが国際コース設計大手のNWD Golf(NWDゴルフ)だ[1]。
ベトナムのゴルフ市場が急成長した理由
東南アジアにおけるゴルフの普及には「経済成長+中間層の拡大+観光との組み合わせ」という共通パターンがある。タイ・マレーシア・インドネシアが先行し、ベトナムが現在その成長曲線の急勾配部分にいる。
ベトナムのGDP成長率は2020年代を通じて東南アジア主要国の中で上位を維持している。都市部の所得水準が上がり、ゴルフが「エグゼクティブのスポーツ」としての地位を確立しつつある。また政府が外資系ゴルフリゾートの誘致を積極的に進めてきた経緯もある。
インバウンド需要も大きい。日本・韓国・中国・台湾のゴルファーがベトナムへのゴルフ旅行を選ぶ事例が増えており、これが10億ドルという観光収益を支えている。
コースの絶対数が少ないため、1コース当たりの稼働率と単価が比較的高い。供給不足の市場に投資が集まる、という需要主導の成長だ。
NWD Golfの3軸戦略
NWD Golf(ニュー・ワールド・デベロップメント・ゴルフの略称ではなく、専門コース設計・マスタープランニング会社)は4大陸で120コース以上の設計実績を持つ[1]。
同社がベトナムの200コース体制に向けて主導する整備には3つの地理的軸がある[1]。
| 地域 | コースタイプ | 特徴 |
|---|---|---|
| 北部(ハノイ周辺・山岳地帯) | 山岳リゾート型 | 涼しい気候・リゾート複合・国際会議誘致 |
| 中部(ダナン・フエ周辺) | 海岸リンクス型 | ビーチリゾートとの融合・富裕層向け |
| 南部(ホーチミン周辺) | 高収容熱帯型 | 都市近郊・高稼働率・ビジネスゴルフ |
三軸はそれぞれ異なる需要を捕捉するように設計されている。「全国一律に増やす」のではなく、地理と気候と顧客層を考慮した布置だ。
この3軸戦略は、特定のゾーンに特定のコースタイプを集中させることで、ゴルフ旅行パッケージを設計しやすくする効果もある。「南部の都市型ゴルフ」「中部の海岸リンクス」「北部の高原リゾート」という目的地をゴルファーが選べる構造を整える。
「タインホア省11コース」が示す国家戦略の規模
前回(2026年6月15日版)レポートで取り上げたタインホア省の11コース開発計画は、この国家戦略の下位計画に位置する[2]。
一省で11コースという数字は、単体のプロジェクトとして見ると大型だが、200コースという国家目標から見れば自然なスケールだ。北部〜中部に位置するタインホア省は、山岳リゾート型コースの整備エリアと地理的に重なる。
これは「地元開発業者が個別に判断してコースを建設している」ではなく、国家の方針が地方の開発計画を誘導する構造で進んでいることを示す。投資環境としては、政府のサポートがある反面、計画が政策変更に左右されるリスクも内包する。
日本のゴルファーとゴルフ業界への含意
日本のゴルファーにとって、ベトナムは「コースが増えていくゴルフ旅行先」として具体性が増す。現時点でも東南アジアのゴルフ旅行先としてタイに次ぐ人気を持つベトナムは、コース数が増えることで多様な体験の選択肢が広がる。
日本のゴルフ業界──特に旅行・ツアーオペレーターの視点では、ベトナムの成長は新しい送客先・パッケージ商品の開発機会を意味する。特に中部のダナン・フエのリンクス型コースは、ゴルフリゾート体験としての訴求力が高い。
コース設計・管理の技術輸出という観点では、日本の専門会社がベトナム向けに提供できる余地もある。芝管理技術・コース設計ノウハウ・グリーンキーパー育成など、日本が強みを持つ領域でベトナム市場への参入機会が生まれている。
まとめ
ベトナムの「2030年200コース」は、アジアのゴルフ地図を書き換える規模の計画だ[1]。
観光収益10億ドル・コース倍増・国家戦略への組み込み──これらはゴルフ市場の成長が「自然に起きた」ものでなく、政策的に後押しされた設計的な成長であることを示す。
日本のゴルフ旅行者には「ベトナムゴルフ旅行の選択肢が広がる」話として届く。事業企画・投資の読者には「アジア成長市場で先行してインフラを敷く戦略」の具体例として機能する。どちらの読み方でも、日本ではほぼ報じられていない情報だ。
よくある質問
Q. ベトナムには現在何コースあるか?
A. 2026年時点で90コース超とされる。2030年までに200コースへの倍増が国家戦略の目標とされている。
Q. NWD Golfとはどんな企業か?
A. 4大陸・120コース以上の設計実績を持つ国際コース設計・マスタープランニング企業。ベトナムの200コース体制整備において設計・インフラ面で主導的役割を担っている。
Q. ゴルフ観光収益10億ドルはどう算出されているか?
A. NWD GolfとNational Law Reviewの発表による数字で、ベトナム国家観光収益全体の約10%相当とされる。外国人ゴルファーの消費(グリーンフィー・宿泊・飲食・交通)を合計した推計値。
Q. 日本からベトナムへのゴルフ旅行で人気のエリアは?
A. ダナン周辺(中部)のリゾートコース群が最も知られている。バナヒルズGC、ダナンゴルフクラブなどが代表的。今後は北部(ハノイ周辺)の山岳コースが新たな選択肢として注目を集めると見られる。
Q. 投資家にとってベトナムゴルフ市場へのアクセス方法は?
A. 直接のコース開発は外資規制があるが、リゾートホテル・観光関連企業・地場開発業者との合弁という形での参入事例がある。NWD Golf自体は国際企業として投資家・開発者のパートナーになり得る。
出典
[1] https://natlawreview.com/press-releases/nwd-golf-targets-vietnams-1-billion-milestone-engineering-infrastructure[2] https://www.travelandtourworld.com/news/article/expyul9vcaae/