
米ゴルフシミュレーター企業TruGolf(トゥルーゴルフ)傘下のTruGolf Links(トゥルーゴルフ・リンクス)が2026年9月18日、加盟店の開業資金を証券トークン(株式や社債などの権利を、ブロックチェーン上で移転できる形にしたデジタルな証券)で賄う2つの計画を発表した[1]。組む相手は証券トークン化インフラ企業ポリマス・リサーチ(Polymath Research、カナダ拠点)で、機器のリースと店舗の部分所有権をブロックチェーン上の証券トークンで資金化し、親会社TruGolf Holdings(Nasdaq上場、ティッカーTRUG)によるポリマス買収の完了を前提に2027年第1四半期までに整える[1]。この買収は8月18日に発表されたもので[2]、当サイトでも買収の仕組みとTruGolfの財務状況を整理した。今回の発表はその続報にあたる。
国内でシミュレーターゴルフ施設を使う読者にとって、この計画が打席の料金や使い勝手を直接変えるわけではない。一方でIT・経営の読者にとっては、フランチャイズ業界が長年抱える加盟店の資金調達難に、証券トークン化がどこまで解決策になり得るかを試す事例になる。ただし前提となる買収には、TruGolfの時価総額が10営業日連続で1,000万ドル以上という完了条件があり[2]、9月21日時点の時価総額は約83万ドルにとどまる[3]。本稿は、計画の仕組みと、この差を含めた実現性を検証する。
証券トークン(セキュリティ・トークン)とは何か
証券トークン(セキュリティ・トークン、ST)は、株式や社債などの有価証券に表示される権利を、ブロックチェーンなどの電子的な仕組みで移転できる形にしたものだ[9]。これを発行して資金を集めることをSTO(Security Token Offering)と呼ぶ[9]。
ビットコインのような暗号資産とは、法律上の扱いが分かれる。日本では2020年5月施行の改正金融商品取引法で、証券トークンは「電子記録移転有価証券表示権利等」として定義され、金融商品取引法で規制される。発行するトークンが暗号資産に当たる場合は資金決済法の対象になる[9]。米国でも、SEC(米証券取引委員会)のヘスター・ピアース委員が2025年7月の声明で「トークン化された証券も証券である」と述べ、連邦証券法に従う必要があるとしている[10]。
日本STO協会は、トークンにする効果として、権利を移しやすくなることによる流動性の向上、取引コストの低下による小口の商品、取引時間の拡大を挙げている[9]。いずれも協会の説明では「期待」の段階だ。今回の計画では、投資家が機器リースの原資を集めるトークン化証券や、個別店舗の所有権の一部をトークンの形で購入し、その資金が加盟店候補に届く[1]。
ポリマスが手がけるようなトークン化・デジタル証券の仕組みを、法務・会計・税務の実務目線で解説する一冊。
TruGolf Linksとポリマスが発表した2つの資金調達策はどんな仕組みか
TruGolf Linksが発表したのは、ポリマスの基盤を使う2つの取り組みだ[1]。1つは機器リースで、資格を満たすフランチャイズ候補者がTruGolfの製品一式をリースで導入できるようにする。リースの原資は、ポリマスの基盤上で募集するトークン化証券で集める[1]。もう1つは店舗の部分所有権で、候補者がポリマスの基盤上で募集を組成し、投資家が個別のTruGolf Links店舗の所有権の一部に出資できるようにする。こちらは「初期段階」の計画と説明されている[1]。

TruGolf Links Franchising最高開発責任者(CDO)のベン・リタリエン氏は「フランチャイズ業界が慢性的に抱える課題は資金調達だ」と述べ、機器リースは「フランチャイズ候補者にとって重要な橋渡しになる」とした[1]。ポリマスで事業開発を統括するマット・アンデルマン氏も「当社のプラットフォームと専門知識により、特にリージョナル・デベロッパー(一定地域内で複数店舗を順次開発する権利を持つ加盟形態)を目指す加盟希望者にとって、金融市場が身近なものになる」とコメントした[1]。発表時点で、調達する金額や対象となる候補者数は示されていない[1]。

加盟金だけでなく総投資額まで見据えた資金計画をどう立てるか、投資家目線でフランチャイズ加盟を解説する一冊。
なぜゴルフシミュレーターFCの加盟店は資金調達に苦労するのか
TruGolf Linksのフランチャイズ条件を見ると、資金調達の壁の大きさが分かる[4]。
| 項目 | 単独店舗(シングルユニット) | リージョナル・デベロッパー(先着10枠) |
|---|---|---|
| 本部に払う初期費用 | 加盟金4万5,000ドル(約698万円) | 人口100万人あたりのテリトリー料7万5,000ドル(約1,163万円) |
| 総投資額の目安 | 68万9,745ドル(約1億691万円) | — |
| 必要な流動資産 | 10万ドル(約1,550万円) | 25万ドル(約3,875万円) |
| 必要な純資産 | 50万ドル(約7,750万円) | 100万ドル(約1億5,500万円) |
| その他の条件 | ロイヤリティ6%、契約期間10年 | 6年間で10店舗を開発。開発した店舗の加盟金とロイヤリティの50%を受け取る |
凡例: —=本稿で確認していない項目。円換算は1ドル=155円。
加盟金だけを見れば約700万円だが、単独店舗の総投資額の目安はその約15倍に膨らむ[4]。TruGolf Links自身は融資を提供しておらず、資金面は提携業者を紹介する形をとっている[4]。加盟金と総投資額の差を誰が埋めるのかが、リタリエン氏の言う「慢性的な課題」の中身だ。
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証券トークン化は加盟店の資金調達をどう変えるのか
証券トークン化で加わるのは、融資とは別に、投資家から直接資金を集める経路だ。ポリマスが手がける独自ブロックチェーン「Polymesh(ポリメッシュ)」は、本人確認やコンプライアンスの仕組みを基盤層に組み込んでおり、規制対象の証券をトークンとして扱える設計になっている[2]。
従来の経路では、加盟店が金融機関の融資やリースを個別に取り付ける。トークン化型では、ポリマスの基盤で募集したトークン化証券を投資家が購入し、その資金が機器リースや店舗への出資という形で加盟店候補に届く[1]。加盟店候補にとっては、融資とは別の調達経路が加わることになる。
店舗の部分所有権について、リタリエン氏は「これまでも従来の手法で行われてきた」と述べたうえで、その手続きをトークン化した市場に移す点を新しさに挙げている[1]。店舗の持分を外部の投資家に開く設計は、加盟店主の自己資金の負担を軽くする一方、投資家が得る権利や店舗運営への関与をどう定めるかという論点を伴う。発表時点で、その中身は示されていない[1]。
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この資金調達策はいつ実現するのか、実現性のハードルは何か
2つの取り組みは、ポリマス買収の完了を前提に2027年第1四半期までに整える計画だ[1]。その買収の完了見込みは、1か月で1四半期後ろにずれた。8月18日の買収発表では2026年第3四半期の完了を見込んでいたが[2]、9月18日の発表では「2026年第4四半期末まで」に変わっている[1]。変更の理由は説明されていない。
最大の障害は、完了条件の1つである時価総額だ。買収発表は、TruGolfの上場証券の時価総額が10営業日連続で1,000万ドル(約15.5億円)以上を維持することを完了条件に挙げている[2]。これに対しTRUGの時価総額は、9月の終値ベースで約71万〜126万ドルの間で推移し、9月21日は約83万ドル(約1.3億円)だった[3]。条件を満たすには時価総額を約12倍にする必要がある。買収発表日の約210万ドルが発表以降で最も高く、それでも条件の約5分の1にとどまる[3]。前回の記事で取り上げた8月28日時点の約89万ドルから、状況はほとんど変わっていない[3]。9月18日の発表は、完了条件の「充足または放棄(waiver)」を前提に完了を見込むと書いているが、時価総額の条件をどう扱うかには触れていない[1]。

さらに、2つの取り組みはどちらも金額や対象条件が示されておらず、部分所有権は「初期段階」の計画にとどまる[1]。発表文自身も、証券関連の法令に沿って募集を組成できるか、投資家が集まるか、買収が予定どおり完了するかをリスク要因に挙げている[1]。買収の完了、規制への対応、トークンを購入する投資家の確保という段階を経て、初めて加盟店候補がこの資金を使えるようになる。
日本のゴルフフランチャイズは証券トークンで加盟店の資金調達をしているのか
公開情報では、そうした事例は確認できなかった。国内の加盟店が開業時に使える公的な融資には、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(開業後おおむね7年以内まで対象、融資限度額7,200万円)がある[5]。
国内のインドアゴルフFCでは、機器リースの役割を通常のリースが担っている例がある。マイゴルの1打席の開業資金は、全額自己資金なら1,400万円、シミュレーターの設備費と内装工事費をリースにすると670万円になる(税抜きの目安)[6]。5打席以上を全額自己資金で開く場合でも3,600万円で[6]、TruGolf Linksの単独店舗の総投資額の目安(約1億691万円)[4]の約3分の1にあたる。
証券トークン(セキュリティ・トークン、ST)は、国内でも不動産以外に使われ始めている。丸井グループはエポスカード会員に販売先を限り、ブロックチェーンで管理する社債「デジタル債」を2020年から発行しており、2026年1月に募集を始めた第5回債は1億4,000万円程度だ[7]。野村ホールディングスなど4社は2025年12月、国内のベンチャーキャピタル(VC)ファンドに出資するSTを約80億円発行した。購入できるのは一定の基準を満たす特定投資家に限られる[8]。どちらも発行体は上場企業や大手金融グループで、販売先を絞っている[7][8]。加盟店のような個別の事業者が、店舗の設備や持分を裏付けにトークンを発行した例は、公開情報では確認できなかった。
| 項目 | 米国(TruGolf Links) | 日本 |
|---|---|---|
| 加盟店の開業資金の調達 | 本部は融資を提供せず、提携業者を紹介[4] | 日本政策金融公庫の新規開業向け融資(限度額7,200万円)[5] |
| 機器リース | トークン化証券を原資にする計画(2027年第1四半期までに整備)[1] | 通常のリースで開業資金を抑える例がある[6] |
| トークン化で集める金額 | 非公表[1] | 丸井グループのデジタル債1億4,000万円程度、野村などのVCファンドST約80億円[7][8] |
| 店舗の持分の小口化 | 初期段階の計画[1] | 公開情報では確認できなかった |
凡例: 非公表=公開されていない項目。
まとめ
TruGolf Linksとポリマスが発表した2つの資金調達策は、フランチャイズ業界が長年抱える資金調達の壁に、証券トークン化という経路を持ち込む試みだ。ただし実現には、8月に発表された買収の完了が前提になる。その完了見込みは1か月で第3四半期から第4四半期末へずれ、完了条件の時価総額1,000万ドルに対して、9月21日時点の時価総額は約83万ドルにとどまる。フランチャイズや投資判断に関わる読者には、加盟金の約15倍に膨らむ総投資額が、この計画がなぜ必要とされているかを示す数字になる。時価総額と完了条件の差は、計画が実現するかを測る数字になる。次の節目は、年末までに買収が完了するかどうかだ。
よくある質問(FAQ)
Q. 証券トークンは暗号資産と同じものですか。
A. 同じではない。証券トークンは株式や社債などの権利を表すもので、日本では金融商品取引法で規制される。暗号資産に当たるトークンは資金決済法の対象だ[9]。米国でもSECの委員が、トークン化された証券は証券だと述べている[10]。
Q. この資金調達策はもう使えますか。
A. 使えない。2027年第1四半期までに整える計画だが、前提となるTruGolfによるポリマス買収が完了していない。完了見込みは2026年第4四半期末で、8月の発表時点の第3四半期から後ろにずれている[1][2]。
Q. 店舗の部分所有権を買うと、店舗運営に関与できますか。
A. 発表時点では示されていない。部分所有権は「初期段階」と説明されている計画で、投資家が得る権利の中身は公表されていない[1]。
Q. 日本のゴルフ場やインドアゴルフFCでも同様の資金調達は起きますか。
A. 国内のゴルフFCが証券トークンで加盟店の資金を集めた例は、公開情報では見当たらなかった。国内で確認できたSTは上場企業や大手金融グループが販売先を絞って発行したもので[7][8]、インドアゴルフFCでは通常のリースで開業資金を抑える例がある[6]。
出典
- TruGolf Links Announces New Initiatives with Polymath to Develop Financing Opportunities for Franchisees, PR Newswire, 2026-09-18. https://www.prnewswire.com/news-releases/trugolf-links-announces-new-initiatives-with-polymath-to-develop-financing-opportunities-for-franchisees-805481948.html
- TruGolf to Acquire Polymath Research Inc., Bringing Tokenization Innovator to the Public Markets on Nasdaq, GlobeNewswire, 2026-08-18. https://www.globenewswire.com/news-release/2026/08/18/3346829/0/en/trugolf-to-acquire-polymath-research-inc-bringing-tokenization-innovator-to-the-public-markets-on-nasdaq.html
- TruGolf Holdings (TRUG) Market Cap & Net Worth, StockAnalysis.com(2026-09-21確認). https://stockanalysis.com/stocks/trug/market-cap/
- TruGolf Links Franchising, https://franchise.trugolflinks.com/pages/franchising
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」 https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html
- マイゴル「開業資金・収支モデル紹介」 https://mygol.co.jp/model/
- 丸井グループ「<応援投資>エポスカード会員さま向けデジタル社債 第5回デジタル債募集開始のお知らせ」2026-01-26. https://www.0101maruigroup.co.jp/nr/26_0126_1
- 野村ホールディングス・野村アセットマネジメント・野村信託銀行・BOOSTRY「国内初の特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)を活用した国内VC受益権のセキュリティ・トークンの発行手続きが完了」2025-12-02. https://www.nomura-trust.co.jp/news/detail/newsrelease_20251202.pdf
- 日本STO協会「STOの紹介」 https://jstoa.or.jp/investor/sto/
- Hester M. Peirce「Enchanting, but Not Magical: A Statement on the Tokenization of Securities」米証券取引委員会(SEC), 2025-07-09. https://www.sec.gov/newsroom/speeches-statements/peirce-statement-tokenized-securities-070925

