スコットランドの名門The Glen、会員が米系投資会社の125年運営案を拒否

スコットランド東部、エディンバラの東にあるイースト・ロージアン地方の町ノースバーウィックで、ゴルフ場「The Glen Golf Club(ザ・グレン)」の会員が米国資本の投資会社との交渉を打ち切った[1][2]。相手はThe Ancient Links Golf Company(TALGC)という2025年設立の会社で、スコットランドの歴史あるクラブの運営を引き受けて投資する事業をしている[1][4]。会員投票の結果は反対273票、賛成221票で、2026年10月初めに報じられた[1][2]。

コースの土地はイースト・ロージアン議会(日本の県と市の中間にあたる地方自治体)の所有で、会員制クラブが運営してきた[3]。TALGCの案は、この運営を125年の長期契約で引き受けるものだった[2][3]。

ゴルフをする側で変わり得たのは予約とプレー料金だ。案にはビジターの受け入れ数を年7,000人から1万人前後へ増やす想定が含まれ、会員はティータイムの取り合いとビジター料金の値上げを心配した[1][3]。ビジネス側の論点は、公有地のクラブに外部資本を入れるかを誰が決めるかにある。本稿は投資側の提案と会員の懸念を整理し、所有と運営の決め方を日本の会員制と比べる。

The Glenの会員投票では何が否決されたのか

否決されたのは、TALGCとの交渉を先へ進めるかを問う動議だ[1][2]。クラブの運営委員会が開いた臨時総会で、会員はオンライン、郵送、会場のいずれかで投票した[2]。

地元紙イースト・ロージアン・クーリエによると、反対273票、賛成221票、棄権4票で、投票率は会員の69.7%だった[2]。差は52票で、賛成も4割を超えている。

この否決で、The GlenとTALGCの交渉は打ち切りとなった[1]。案の中身に入る前の段階で、会員が交渉そのものを止めた形だ。

交渉継続の動議は反対273票が賛成221票を52票上回り否決された

投票の前から会員は二つに割れていた。反対派は「Friends of the Glen」を名乗って懸念を発信し、賛成派は「The Silenced of the Glen」という名前で反対派のやり方を批判した[1]。7月20日の地元紙の報道では、案は9月2日に予定された臨時総会で、投票した会員の3分の2の賛成を得なければ進めないとされていた[3]。投票後の記事によると、投票は9月30日の臨時総会で締め切られた[2]。

The Glenは1906年創設のクラブで、2031年に125周年を迎える[2][3]。クラブはそれに向けて、コースと施設を自前で改善する長期計画「Project 2031」を掲げている[2]。TALGCは同じイースト・ロージアンのロングニドリー・ゴルフクラブにも話を持ちかけたが、こちらも受け入れられなかった[2]。

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米系投資会社TALGCはThe Glenに何を提案していたのか

TALGCの案は、クラブが議会から125年のコース賃借権を得て、それをTALGCに転貸する仕組みだった[3]。TALGCは日常の運営と費用、設備や運営上のリスクを引き受け、クラブに毎年収入を支払い、職員も全員引き継ぐとしていた[3]。TALGCの経営陣には、スコットランドの名門コース、カーヌスティ・リンクスの元幹部も加わっている[5]。

議会が所有する土地をクラブが125年賃借し、TALGCに転貸してTALGCが運営と投資を担う流れ
TALGC案での土地・賃借・運営の流れ(East Lothian Courierの報道をもとに作成)

投資額は報道によって違う。業界誌ザ・ゴルフ・ビジネスは約800万ポンド(約16億6,400万円。1ポンド=208円換算[11])のパッケージと書いた[1]。地元紙は7月の記事で400万〜500万ポンド(約8億3,200万〜10億4,000万円)[3]、投票の記事では500万ポンド(約10億4,000万円)としている[2]。投票の記事は案が初めて示されたのを8月としているが[2]、同紙は7月20日の時点で案の中身を報じている[3]。

項目提案の内容
投資額約800万ポンド(業界誌)/500万ポンド(地元紙)
契約期間125年
使い道管理棟の刷新、バンカー改修、散水設備、練習場、クラブハウス改装など
年会費最初の5年は値上げを年40ポンドまでに抑え、2027年に840ポンド、2031年に1,000ポンド
会員の同伴者料金2027年20ポンドから2030年30ポンドへ

使い道と料金は地元紙の7月の報道による[3]。年会費の上限は2027年が約17万5,000円、2031年が約20万8,000円にあたる。

スコットランド発祥のゴルフがどんな文化と慣習を背負っているかを、ビジネスの場で話せる水準で押さえたい読者向け。

The Glenの会員はなぜビジター料金とティータイムを懸念したのか

反対派の懸念は三つあった。観光客を入れるために会員のティータイムが削られること、ビジター料金の値上げ、そして投資家がいずれリターンを求めて運営を変えることだ[1]。

The Glenは海沿いの景観で知られ、公式サイトはイースト・ロージアンで最も人気のあるコースの一つと紹介している[6]。案では、年7,000人ほどのビジターを1万人前後に増やす必要があると見込んでいた[3]。ビジターを4割あまり増やす計算で、その分のティータイムを会員の枠とどう分けるかが問われる。

海に面した崖の上にあるThe Glen Golf Clubのグリーンと、沖に浮かぶ島々
フォース湾に面したThe Glen Golf Clubのグリーン。沖に島が見える(画像:The Glen Golf Club公式サイトより)

会員に配慮した条件も並んでいた。11月1日から3月1日まではビジターのプレーを受け付けず、会員は8日前からティータイムを予約できるようにする[3]。現在の予約開始は7日前で、会員枠は満員、入会待ちは2年に及ぶ[3]。

それでも反対票が上回った。地元紙は、125年という契約期間、交渉の透明性、クラブに残る決定権が争点だったと伝えている[2]。会員からは、借金が膨らむおそれや地元のプレーヤーにとっての料金負担を指摘する声も出ていた[3]。TALGCが地域での足場づくりを狙っているとみる会員もいた[3]。

筆者の見立てでは、料金の上限は最初の5年分しか示されていない。残り120年の料金と予約枠を誰が決めるのかが、会員の判断を左右したと考える。

名門クラブは何を守るのか

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TALGCはほかのスコットランドの歴史的クラブで何をしているのか

TALGCは歴史的なリンクス(海沿いの砂地に造られたコース)を守ることを掲げて2025年に設立された[4]。同じスコットランドのScotscraig(スコッツクレイグ、ファイフ地方テイポート)とForfar(フォーファー、アンガス地方)で運営を引き受けている[1]。どちらも19世紀の名設計家オールド・トム・モリスが関わったコースだ[1]。

TALGCがScotscraigの運営を引き受け、2025年10月にForfarの会員が提携を承認、2026年6月にMontroseで年3万ポンドの賃借を提案、2026年10月にThe Glenの会員が否決した流れ
TALGCのスコットランドでの動き(各報道をもとに作成)

フォーファーは費用を削りビジター収入を増やしても3年続けて赤字で、会員は2025年10月に提携を承認した[4]。創設155年のクラブで、TALGCが運営に関わる3つ目のクラブとされる[4]。TALGCは更衣室への投資や飲食、コースの改善を進めるとしている[4]。スコッツクレイグでは100万ポンド(約2億800万円)をかけた厨房の改修を行った[1]。

モントローズ(アンガス地方)のコースは自治体が地域住民のために持つ共有財産にあたる[1]。TALGCは年3万ポンド(約624万円)の賃料での長期賃借を提案し、地元当局は8週間の住民意見募集を予定した[5]。

現在は年2万7,000ポンド(約562万円)が共有財産の基金に支払われており、提案額はこれをやや上回る[5]。

業績が苦しいクラブは提携を受け入れ、満員で待ちが出ているThe Glenは断った。資金が足りているクラブほど外部資本に頼る理由が薄いと筆者は考える。

自治体の土地とクラブ

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日本のゴルフ場で会員は経営に口を出せるのか

日本のゴルフ場の多くでは、会員が経営に加わる権利は小さい。国税庁税務大学校の論文によると、会員制ゴルフ場には社団法人制、株主制、預託金制があり、預託金制は会員の経営への関与が小さい[7]。

社団法人制では会員が総会の議決権や役員の選出権を持ち、株主制でも株主として運営に関与できる[7]。これに対し預託金制は、多くの会員から巨額・長期の資金を集められることから、昭和30年代後半からほとんどのゴルフ場建設に使われた[7]。1998年の同校の論文は、預託金の総額を9兆5,000億円としている[8]。

比較項目The Glen(スコットランド)日本の預託金制ゴルフ場
会員の主な権利総会での投票施設の優先利用権と預託金の返還請求権
会員の立場クラブの構成員として投票事業者との施設利用契約
外部資本の受け入れ会員投票で否決運営会社の株式売買で決まる

運営会社の持ち主も株式の売買で変わる。国内最大のアコーディア・ゴルフ(2024年11月末に173コース)は、米投資会社フォートレス・インベストメント・グループの関連事業体が運用するファンドの傘下にあった[9]。2025年1月31日に遊技機大手の平和が親会社株式の取得を完了し、子会社のPGMの148コースと合わせて321コースのグループになった[9][10]。

会員の負担と退出

2026年、年会費を値上げするゴルフ場は211コースに達する見込みだ。2025年の93コースを大幅に超える見込みだ[1]。年会費とは、プレーの都度払うグリーンフィーとは別に、会員が資格維持のために毎年払う固定費を指す。値上げの引き金を引い[…]

まとめ

The Glenの会員は、500万〜800万ポンドと報じられた投資と引き換えに125年の運営を任せる案を、273対221で退けた[1][2]。満員で入会待ちが2年あるクラブにとって、外部資金の必要性は大きくなかった。

スコットランドへのゴルフ旅行を考える人は、名門コースのビジター枠と料金がクラブの所有と運営の形で変わる点を押さえておくとよい。投資や提携を検討する人には、資金の多さより、意思決定の権利を何年、誰に渡すかが合意の分かれ目になったことが判断材料になる。赤字のフォーファーは受け入れ、満員のThe Glenは断ったという差も、提携の条件を考えるうえで見ておきたい。TALGCはほかのクラブとも話を続けており、次の投票の結果も注目される。

よくある質問(FAQ)

Q. The Glenのビジター料金は上がるのか。
A. 今回の否決でTALGCとの交渉は終わったため、案に沿った運営の変更は起きない[1][2]。今後の料金はクラブ自身が決める。

Q. The Glenはどこにあるゴルフ場か。
A. スコットランドのイースト・ロージアン地方ノースバーウィックにある海沿いのコースで、エディンバラの東に位置する[1][6]。土地は地元のイースト・ロージアン議会が所有している[3]。

Q. 日本のゴルフ場でも会員投票で外部資本を断れるのか。
A. 日本で多い預託金制では会員は経営に加わる権利が小さく、運営会社の持ち主は株式の売買で変わる[7][9]。会員が総会で議決権を持つのは社団法人制など一部の形態に限られる[7]。

出典

  1. The Golf Business「Members vote to end talks with American-led investors at The Glen」(2026年10月2日) https://thegolfbusiness.co.uk/2026/10/members-vote-to-end-talks-with-american-led-investors-at-the-glen/
  2. East Lothian Courier「Glen Golf Club members reject controversial multi-million pound partnership proposal」(2026年10月1日) https://www.eastlothiancourier.com/news/26597198.glen-golf-club-members-reject-multi-million-pound-proposal/
  3. East Lothian Courier「The Glen Golf Club members set to vote on historic deal」(2026年7月20日) https://www.eastlothiancourier.com/news/26293787.glen-golf-club-members-set-vote-historic-deal/
  4. The Golf Business「Ancient Links Golf Company secures future of historic Scottish golf club」(2026年3月) https://thegolfbusiness.co.uk/2026/03/ancient-links-golf-company-secures-future-of-historic-scottish-golf-club/
  5. Invest in Angus「£30k a year Montrose Links takeover plan by new Forfar golf club operator」(2026年6月20日) https://investinangus.com/30k-a-year-montrose-links-takeover-plan-by-new-forfar-golf-club-operator/
  6. The Glen Golf Club 公式サイト https://www.glengolfclub.co.uk/
  7. 国税庁 税務大学校 論叢第77号「複合的権利に対する譲渡所得課税に関する考察」 https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/77/03/01.pdf
  8. 国税庁 税務大学校 論叢第32号「ゴルフ会員権を巡る法人課税上の諸問題」(1998年) https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/32/232/hajimeni.htm
  9. 株式会社平和「株式会社アコーディア・ゴルフの親会社であるPJC Investments株式会社の株式の取得(子会社化及び孫会社化)及び資金の借入に関するお知らせ」(2024年12月18日) https://www2.jpx.co.jp/disc/64120/140120241218540211.pdf
  10. 株式会社平和「株式会社アコーディア・ゴルフの親会社であるPJC Investments株式会社の株式の取得完了(略)に関するお知らせ」(2025年1月31日) https://www2.jpx.co.jp/disc/64120/140120250131559385.pdf
  11. European Central Bank「Euro foreign exchange reference rates」(2026年10月2日)。ユーロ/円とユーロ/ポンドの参照レートから1ポンド=208円を算出 https://www.ecb.europa.eu/stats/eurofxref/eurofxref-daily.xml