韓国ゴルフ場M&A凍結、取得税3倍がもたらした市場の分断

韓国で、会員制ゴルフ場(法人が会員権を発行して運営する高級コース)を巡るM&A市場が事実上止まっている。2026年、韓国政府は会員制ゴルフ場をM&Aなどで買収する際の取得税を、従来の4%から一気に12%へ引き上げた。一方、会員権を発行せず誰でも利用できる大衆制ゴルフ場の取得税は4%のまま据え置かれた。同じ「ゴルフ場」という一つの資産クラスが、税率という制度変更ひとつで二つに割れた格好だ。加えて済州島や湖南地方ではゴルフ場の供給が利用者数を上回る過剰状態が同時に進んでおり、税制と需給という二つの要因が資産価値の分断を加速させている。IT・経営に携わる読者にとっては、規制リスクが資産の流動性をどう左右するかを学べる事例になる。本稿では、具体的な税率と需給データから、この分断の実態を読み解く。

韓国の会員制ゴルフ場、取得税はなぜ12%に跳ね上がったのか

2026年施行の改正地方税法により、会員制ゴルフ場を売買などで引き継ぐ「承継取得」が、新設時と同じ重課税率の対象になった[1][2]。

従来の制度では、ゴルフ場を新しく造成し登録する場合にだけ重い税率がかかり、既存のゴルフ場をM&Aで買い取る「承継取得」は一般税率で済んだ。取得の方法によって税負担が変わる状態は課税の公平性を欠くとされ、2026年からは承継取得も新設と同じ扱いに統一された[2]。結果として、会員制ゴルフ場を買収する際の取得税は4%から12%へ、3倍に跳ね上がった。

大衆制ゴルフ場はこの対象に含まれず、取得税4%・固定資産税0.2〜0.4%という低い税負担を維持している[1][2]。

韓国の取得税は、もともとゴルフ場やヨットなど一部の資産を「贅沢品」とみなし、重い税率をかける枠組みを持つ。今回の改正は、この重課税の対象を新設時だけでなく承継取得にも広げた点が要点で、税率そのものの水準を新たに作ったわけではない。既存の重課ルールをM&Aの場面にも当てはめたことで、結果的に会員制ゴルフ場の取引コストが跳ね上がった。

区分取得税固定資産税
会員制ゴルフ場12%4%
大衆制ゴルフ場4%0.2〜0.4%
取得税改定からM&A凍結までの因果連鎖
取得税改定からM&A凍結までの因果連鎖
ガバナンス/ゴルフテック/ベンチャー

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取得税引き上げは韓国ゴルフ場M&A市場に何をもたらしたのか

結果として会員制ゴルフ場の買い手はほぼ姿を消し、非中核資産の売却で財務改善を図ろうとしていた企業の計画が宙に浮いている[1][2]。

会員権に伴う負債(数百億〜数千億ウォン規模)も取得税の課税標準に合算されるため、買収額の半分以上を税金として追加負担するケースも起こりうる[2]。売却側の企業にとっては、資金化を急ぎたい非中核資産が動かせない状態が続く。買収側にとっても、重い税負担を織り込んだ価格提示は難しい。

利用者数の動きにも差が出ている。昨年の会員制ゴルフ場の利用者数は前年比4.8%減の1530万人だった一方、大衆制ゴルフ場の減少幅は0.8%にとどまった[2]。会員制は税負担の重さに需要減少も重なり、資産としての魅力を落としている。

会員制ゴルフ場を売却対象に挙げていたのは、事業再編や財務改善を進める企業グループが中心だった。ゴルフ場という非中核資産を現金化してグループ全体の有利子負債を圧縮する動きが、取得税の引き上げで足止めされた形になる。売却が長引くほど、グループの資金繰り改善計画そのものが遅れるとの見方も出ている[2]。

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ゴルフテック/海外展開

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済州・湖南で何が起きているのか、ゴルフ場供給過剰の実態

韓国レジャー産業研究所が2026年6月15日発表した「レジャー白書2026」によると、済州島(韓国南端の島。済州特別自治道)と湖南地方(全羅道を中心とする韓国南西部)で、ゴルフ場の供給がすでに利用者数を上回っている[3]。

済州島は、全国のゴルフ場数に占める比率が利用者数に占める比率を2.3ポイント上回り、全国で最も供給過剰が深刻な地域となった。湖南地方も1.3ポイント上回り、済州島に次ぐ過剰地域だ[3]。逆にソウル首都圏はコース比率33.9%に対し利用者比率34.6%と、0.7ポイントの不足で全国2番目に厳しい。嶺南地方(釜山・大邱を含む韓国南東部)は全国で最も供給不足が深刻な地域とされる[3]。

地域コース比率と利用者比率の差状態
済州島+2.3pt全国最大の供給過剰
湖南地方+1.3pt供給過剰2位
ソウル首都圏-0.7pt供給不足2位
嶺南地方全国最大の不足幅供給不足1位
地域別 コース比率と利用者比率の差

このねじれの背景には、2022年の新型コロナ禍がある。海外ゴルフ旅行がほぼ止まっていた当時、首都圏のゴルファーが済州・湖南へ流入し、両地域でコース開発が進んだ。海外渡航が再開した現在、需要は元に戻りつつあるが、供給だけが積み上がったまま残っている[3]。

この需給ミスマッチは、取得税の重課と別の角度から会員制ゴルフ場の資産価値に効いてくる。済州・湖南で保有コースを抱える運営者は、値下げや会員募集の強化で稼働率を維持しようとするが、供給過剰の地域ではその効果が出にくい。嶺南地方のように供給が不足する地域とは対照的に、済州・湖南の資産は税制面の重課と需給面の過剰という二重の逆風を受けている。

ガバナンス/ゴルフテック

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会員制凍結と大衆制拡大が示す資産クラスの分断とは何か

税制が資産クラスの中に線を引き、同じゴルフ場でも流動性の有無が分かれている。会員制は取得税12%でM&Aが止まる一方、大衆制やパークゴルフ(公園などの公有地で楽しむ簡易型ゴルフ)のインフラ整備は各地で進む。

ソウル永登浦区では、既存コースに新設18ホールをつなげ、ソウルの区が運営する施設として初の36ホール・パークゴルフ場が2026年9月に開業予定だ[4]。地方自治体や大学、農協が主体となり、遊休地を使ったパークゴルフ場の新設が全国で相次いでいる[4]。

パークゴルフは会員権を発行せず、公有地や河川敷を活用して低コストで整備できる。取得税・固定資産税とも大衆制と同様の低い水準が適用されるため、自治体にとっては地域住民向けスポーツ施設として拡張しやすい資産になる。会員制ゴルフ場が税制面で身動きを取りにくくなる一方、公共性の高いゴルフ関連施設は税負担の軽さを追い風に増え続けている。

資産クラス間で分かれる流動性
資産クラス間で分かれる流動性

同じ資産クラスでも法制度上の分類ひとつで売買のしやすさが変わる。投資判断では、税制変更を「規制の有無」ではなく、資産をどう区分するかという制度設計の問題として読む視点が要る。取得税のような一見地味な変更が、資産の流動性そのものを止めうる点は、不動産やインフラ投資全般に通じる示唆になる。

規制リスクを読む際には、税率の水準だけでなく、どの取引形態に適用されるかを見る必要がある。今回の改正は、新設という限られた場面にしかなかった重課ルールを、M&Aによる取得という広い場面に広げた点が本質だ。適用範囲の拡大は、税率そのものの引き上げ以上に市場の動きを止める力を持つことが、今回の事例から読み取れる。

まとめ

韓国の事例が示すのは、税率という制度変更ひとつで、同じ資産クラスの中に流動性の高い区分と低い区分が生まれるという現実だ。会員制ゴルフ場は重い税負担で買い手を失い、非中核資産の売却を計画していた企業の対応は先送りが続く。済州・湖南の供給過剰、嶺南地方の供給不足という需給のねじれも解消されないままだ。読者にとっての教訓は、規制リスクを税率の数字だけでなく、適用範囲という制度設計の視点から読み解く姿勢にある。次にどの資産クラスで同様の分断が起きるか、制度変更の適用範囲に注目しておきたい。

よくある質問(FAQ)

Q1. 韓国の会員制ゴルフ場の取得税はいつから12%になったのか。
A. 2026年施行の改正地方税法により、会員制ゴルフ場を承継取得(M&Aによる買収)する際の取得税が、新設時と同じ重課税率12%に統一された。従来、承継取得は一般税率の4%だった[1][2]。

Q2. 大衆制ゴルフ場も同じように取得税が上がったのか。
A. 上がっていない。大衆制ゴルフ場の取得税は4%のまま据え置かれ、固定資産税も0.2〜0.4%と低い水準を維持している[1][2]。

Q3. 済州島のゴルフ場供給過剰はどの程度深刻か。
A. 「レジャー白書2026」によると、済州島は全国のコース比率が利用者比率を2.3ポイント上回り、全国で最も供給過剰が深刻な地域とされる。湖南地方も1.3ポイント上回り、2番目に深刻な状態にある[3]。

出典

[1] South Korea’s golf course M&As grind to halt after tax increase, KED Global, 2026-07-10 https://www.kedglobal.com/mergers-acquisitions/newsView/ked202607100014
[2] 세금 내고나면 손해…회원제 골프장 매수자가 사라졌다, 韓国経済新聞(Hankyung), 2026-07-10 https://www.hankyung.com/article/2026071085371
[3] Oversupply in Jeju, Shortages in Yeongnam… ‘Imbalance’ in South Korea’s Golf Course Distribution, The Asia Business Daily (Asiae), 2026-06-11 https://www.asiae.co.kr/en/article/2026061109400668719
[4] Korea’s New Park Golf Courses Open, from Seoul’s First 36-Hole Course to a University Debut, Seoul Economic Daily, 2026-07-04 https://en.sedaily.com/sports/2026/07/04/koreas-new-park-golf-courses-open-from-seouls-first-36-hole