
従業員3000人規模の製造業で、オンプレミスからAzureへ数年がかりで移行してきた情シス担当者を想定する。仮想デスクトップ、メッセージング基盤、画像認識API、地図表示など複数のAzureサービスを本番で使い続けており、棚卸し担当は数名しかいない。Microsoftのライフサイクルページに並ぶ2026年のAzure関連の退役・変更46件のうち、23件が9月に集中している[1]。2026年9月22日時点で、このうち9/13〜9/21の6日付13件はすでに退役日を過ぎ、残る10件が9/30に並ぶ。退役日を過ぎた項目をまだ使っていれば、影響はもう出ているかもしれない。本稿は、過ぎた締切の確認と9/30の最終点検を分けて、点検の優先順位の付け方を示す。
予備知識
- 退役とサポート終了: Microsoftの一覧は「Retirement」の欄に項目を並べるが、中身は2種類ある。呼び出せなくなるものと、動作は続くがサポートや更新が止まるものだ。どちらに当たるかは項目ごとの告知で確かめる必要がある。
- SDK: アプリからAzureサービスを呼び出すためのライブラリ群。旧世代だけ先に退役することがある。
- APIバージョン: 同じサービスでも仕様が世代ごとに分かれ、旧世代だけ先に締切を迎える場合がある。サービス名は残るため見落としやすい。
- Service Retirement workbook: Azure Advisorに用意されたテンプレート。退役予定のサービスと、影響を受ける自社リソースを一覧にできる。
9月に23件、2026年の退役の半分が集まる
Microsoft公式ライフサイクルページの「Additional Azure Changes」表を項目ごとに数えると、2026年は3月から11月にかけて46件が並び、うち23件が9月に集中する[1]。3月も14件あり、3/31だけで9件が重なる。9月はそれが9/13から9/30まで7つの日付に分かれて続く点が違う。
| 日付 | 主な対象 | 件数 | 9/22時点 |
|---|---|---|---|
| 9/13 | Computer Vision API v1.0〜v3.1 | 5 | 退役日を経過 |
| 9/14 | Azure Functions 1.0、Monitor Data Collector API、AKS-Engineの監視サポート | 3 | 退役日を経過 |
| 9/15 | アクティビティログの旧コネクタ、Azure Maps Gen1価格レベル | 2 | 退役日を経過 |
| 9/17 | Azure Maps Render V1 | 1 | 退役日を経過 |
| 9/19 | Azure Maps Web SDK v1.xx | 1 | 退役日を経過 |
| 9/21 | SMART on FHIR Proxy | 1 | 退役日を経過 |
| 9/30 | Service Bus旧SDK・SBMP、AVD(classic)、API for FHIRなど | 10 | これから |

9月分の内訳を見ると、半分以上はすでに締切を過ぎている。点検の順番は、この「過ぎた13件」と「9/30の10件」を分けて考える。
移行先の構成を含め、Azureの設計と運用を体系的に押さえ直すなら次の一冊が土台になる。
退役日を過ぎた13件——止まったものと、動き続けるもの
9/13〜9/21の項目は、サービス全体ではなく旧バージョンや旧価格レベルの退役が中心だ[1]。9/13にはComputer Vision APIのv1.0からv3.1までの5バージョンが一度に対象になった。サービス名は残るため、「Computer Visionはまだ使える」と受け止めていると見落とす。
Azure Mapsは1製品で9月に4回の締切がある。Gen1価格レベルが9/15、Render V1が9/17、Web SDK v1.xxが9/19に退役日を迎え、Web SDK v2の旧サブバージョン(v2.0〜v2.0.32)が9/30に続く[1]。地図機能を画面に組み込んだだけのチームほど、どのバージョンを使っているかを把握していない。

退役日を過ぎた後の扱いは項目ごとに違う。Azure Monitor Data Collector APIは9/14でサポートが終わったが、Microsoftのドキュメントは取り込み自体は引き続き機能すると明記し、Logs Ingestion APIへの移行を求めている[4]。止まっていないから安全というわけではなく、サポート外の経路でログを集め続けている状態になる。逆に、呼び出しが失敗するようになった項目を使っていれば、エラーはすでに出ているはずだ。退役日を過ぎた13件は、「使っているか」に加えて「今どう動いているか」まで確認する。
9/30の10件——製品ごと終わるものと、一部だけ終わるもの
9/30の10件は性格が分かれる。Azure API for FHIRとAzure FXT Edge Filerは、機能の一部ではなく製品そのものが退役する[1]。API for FHIRは2025年4月から新規顧客のデプロイが認められておらず、Azure Health Data ServicesのFHIRサービスへの移行が案内されている[5]。
Azure Virtual Desktop(classic)は、Azure Resource Managerに対応する前の旧版だ。新規テナントの作成は2023年9月30日に停止済みで、既存資源の管理・移行・サポートは2026年9月30日までとなる[3]。Microsoftは、サービスの中断を避けるため期日までにAzure Virtual Desktopへ移行するよう求めている[3]。
Service Busは、旧SDKとSBMPプロトコルを分けて読む必要がある[2]。9/30以降に使えなくなるのはSBMPプロトコルだ。WindowsAzure.ServiceBusをAMQPで使う場合と、Microsoft.Azure.ServiceBus、com.microsoft.azure.servicebusは動作を続けるが、サポートと更新が止まる[2]。見落としやすいのはEvent Hubsだ。以前はEvent HubsもWindowsAzure.ServiceBusを使っていたため、Service Busを使っていなくても、このライブラリをEvent Hubsで使い続けていれば移行が必要になる[2]。管理APIの旧バージョン(2014-09、2015-08、2016-07)も同じ日に退役する[1]。

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点検の手順と優先順位
影響の洗い出しは、課金明細ではなくリソース単位の一覧で行う。Azure AdvisorのService Retirement workbookは、退役予定のサービスごとに退役日と影響を受ける自社リソースの数を示し、「Impacted Services」「All Services」「Retired Services」の3つの表示を切り替えられる[6]。サブスクリプションやリソースグループで絞り込み、結果をエクスポートして共有することもできる[6]。Service Healthの正常性アドバイザリにも「Impacted Resources」タブがあり、影響リソースをCSVで出力できる[7]。ただし、どちらも対象は一部のサービスに限られるとMicrosoft自身が注記している[6][7]。

SDKとプロトコルはポータルからは見えにくい。アプリのリポジトリで、NuGetやMavenの依存関係にWindowsAzure.ServiceBus、Microsoft.Azure.ServiceBus、com.microsoft.azure.servicebusが残っていないかを検索するのが確実だ。
優先順位は次の順に付ける。
- 退役日を過ぎた13件のうち、使っていたもの。止まっているか、サポート外のまま動いているかを確かめる
- 9/30の10件のうち、本番トラフィックに直結するもの。SBMPを使う通信、AVD(classic)、API for FHIRが該当する
- 9/30以降もサポート外で動き続けるもの。期日には止まらないが、移行計画を変更管理に載せる

退役対応のような突発的な変更を、変更管理の手順にどう乗せるかは次の一冊が整理している。
SIer運用のAzure環境で見落としが起きる場所
日本企業のAzure環境は、構築と運用をSIerに委託している例が多い。退役の通知はService Healthや管理者宛のメールで届くため、サブスクリプションの管理権限がSIer側にあると、通知が社内に回らない。workbookもリソースを見る権限がなければ開けないので、SIerに一覧の出力を依頼し、自社の資産台帳と突き合わせる段取りが要る。
もう1つは時期だ。3月決算の企業では、9月30日は上期末にあたる。期末前後に本番環境の変更を控える運用をとっている場合、9/30の対象を期日直前に移行する余地はさらに狭くなる。
| 観点 | 見落としが起きる理由 | 対応 |
|---|---|---|
| 通知 | 管理権限がSIer側にあり、社内に届かない | 退役通知の転送先を委託契約で決めておく |
| 影響範囲 | SDKやプロトコルはポータルに出ない | アプリの依存関係をSIerと自社の両方で確認する |
| 変更の時期 | 9/30が上期末と重なる | 期末の変更凍結と移行作業が重ならないか日程を確認する |
SIer(システムインテグレーター)やMSP(マネージドサービスプロバイダー)にMicrosoft 365・Entra ID環境の運用を委託している企業は多い。数千人規模のテナントで、日々の設定変更や障害対応を委託先が代行している場合、「[…]
情シス部門の次の一手: Service Retirement workbookの「Retired Services」と「Impacted Services」を開き、退役日を過ぎた13件と9/30の10件に当たる自社リソースを一覧にする。
意思決定者の判断材料: 期日までに移行が終わらない項目を、止まるもの(SBMPなど)と動き続けるものに分け、後者をサポート外で動かす期間を許容するかを決める。
まとめ
2026年のAzureの退役・変更46件のうち23件が9月に集中し、9月22日時点で13件はすでに退役日を過ぎた。残る10件は9/30に並び、API for FHIRのように製品ごと終わるものと、Service Bus旧SDKのように動き続けるがサポートが止まるものが混在する。点検は、過ぎた締切の稼働確認から始め、9/30の本番直結項目、サポート外で動き続ける項目の順に進める。影響の洗い出しには、課金明細ではなくService Retirement workbookとアプリの依存関係を使う。
よくある質問(FAQ)
Q. Azureの退役情報はどこで確認できますか。
A. 全体の一覧はMicrosoftのライフサイクルページ[1]、自社リソースへの影響はAzure AdvisorのService Retirement workbook[6]とService Healthの正常性アドバイザリ[7]で確認する。
Q. 対象サービスを使っているか分からない場合はどうすればよいですか。
A. Service Retirement workbookで影響リソースを一覧にし[6]、SDKはアプリの依存関係(NuGetやMavenのパッケージ)で確認する。課金明細はリソースと料金の単位で集計されるため、APIバージョンやSDKの特定には向かない。
Q. 退役日を過ぎた項目を使い続けるとどうなりますか。
A. 項目ごとに異なる。SBMPプロトコルのように使えなくなるものもあれば[2]、Data Collector APIのようにサポートが終わっても取り込みが続くものもある[4]。個別の告知ページで扱いを確認する。
出典
[1] Microsoft Learn「Ending Support in 2026」https://learn.microsoft.com/en-us/lifecycle/end-of-support/end-of-support-2026[2] Microsoft Tech Community「Some Azure Service Bus SDK libraries will be retired on 30 September 2026」https://techcommunity.microsoft.com/blog/messagingonazureblog/some-azure-service-bus-sdk-libraries-will-be-retired-on-30-september-2026%E2%80%94migrat/3917853
[3] Microsoft Learn「Azure Virtual Desktop (classic) retirement」https://learn.microsoft.com/en-us/previous-versions/azure/virtual-desktop-classic/classic-retirement
[4] Microsoft Learn「Azure Monitor HTTP Data Collector API」https://learn.microsoft.com/en-us/azure/azure-monitor/logs/data-collector-api
[5] Microsoft Learn「Migration strategies for moving from Azure API for FHIR」https://learn.microsoft.com/en-us/azure/healthcare-apis/fhir/migration-strategies
[6] Microsoft Learn「Service Retirement Workbook」https://learn.microsoft.com/en-us/azure/advisor/advisor-workbook-service-retirement
[7] Microsoft Learn「Impacted Resources from Azure Health Advisories」https://learn.microsoft.com/en-us/azure/service-health/impacted-resources-retirements


