
データセンターや本社とAWSを専用線でつなぎ、基幹システムのバックアップやデータ連携を毎月流している従業員数千人規模の日本企業では、ネットワーク担当が転送料の予算化に悩んできた。回線は年額の固定費で稟議を通せても、AWSから社内へデータを戻すたびにかかる転送料は月ごとに変わり、予算の上振れ説明がネットワーク担当と予算責任者の負担になっていた。
AWSは2026年9月15日、AWS Direct Connect(以下DX、オンプレミスとAWSを専用線でつなぐサービス)に定額料金を追加した[1]。対象は10Gbpsと100Gbpsの専用接続だけで、選んだ地理ティアの範囲ならAWSから外へ出るデータの転送料がゼロになる[1][3]。料金は接続ごとに設定し、従来の従量課金といつでも切り替えられる[1]。
本稿は、東京・大阪のDXロケーションの公開価格から、月間何TBで定額が得になるかを計算し、定額に含まれない費用と冗長構成(ポートペア)の見直し点を整理する。結論を先に書くと、東京リージョンと東京のDXロケーションを結ぶ10G接続では、月約119TBが分岐点になる。
予備知識
- 専用接続: 企業がDXロケーションに自社専用の物理ポートを確保する接続。1G・10G・100Gなどがある
- ホスト型接続: DXパートナー(通信事業者など)が自社のポートを分けて提供する接続
- DTO(Data Transfer Out): AWSから外へ出るデータの転送料。DXでは1GBごとに課金され、AWSへ入るデータは無料
- DXロケーション: AWSのネットワーク機器が置かれたデータセンター。東京のEquinix TY2など
専用接続とホスト型接続の違いや、Direct Connect gatewayを使った冗長設計を体系立てて確認したい担当者に向く一冊。
定額料金で何が変わったのか——10G・100G専用接続の転送料がゼロに
定額料金は、ポートの時間料金と転送料を1つの時間単価にまとめる料金体系だ。月額は帯域とティアごとの時間単価×時間数で決まり、転送量が10TBでも500TBでも同じになる[3]。
ティアは、通信元のAWSリージョンとDXロケーションの距離で5段階に分かれる[3]。AWSの価格表(Price List API)を見ると、東京のEquinix TY2と大阪のKDDI Telehouse Osaka 2では、東京リージョンと大阪リージョンがTier 1、シンガポールと米国の4リージョンがTier 3、ソウルやフランクフルトはTier 4に分類されている[6]。国内リージョンだけを使う企業なら、最も安いTier 1で足りる。
| 帯域・ティア(東京・大阪のDXロケーション) | 時間単価 | 月額(730時間) | 円換算 |
|---|---|---|---|
| 10G・Tier 1 | 10.96ドル | 8,000.80ドル | 約124万円 |
| 10G・Tier 2 | 17.12ドル | 12,497.60ドル | 約194万円 |
| 10G・Tier 3 | 23.29ドル | 17,001.70ドル | 約264万円 |
| 100G・Tier 1 | 102.74ドル | 75,000.20ドル | 約1,163万円 |
※1ドル=155円換算。Tier 4とTier 5のポート料金は価格表に掲載がなく、料金ページは営業窓口への問い合わせを案内している[2][6]。
10G・Tier 1の10.96ドル(約1,699円、1ドル=155円換算)は、料金ページが示す米国の例と同じ単価だ[2]。中国リージョンは対象外である[1]。

オンプレミスとAWSをつなぐネットワークを、企業システム全体の設計の中でどう位置づけるかを考える土台になる。
月間何TBで得になるか——東京の料金で損益分岐を計算する
損益分岐は、定額の月額と従量課金のポート料金の差額を、1GBあたりの転送料で割れば求まる。東京リージョンから日本国内のDXロケーションへの転送料は1GBあたり0.041ドル(約6.4円)、日本の10G専用接続のポート料金は1時間2.142ドル(約332円)だ[4][6]。
- 分岐転送量(GB)=(定額の月額-従量課金のポート月額)÷0.041ドル
- 10Gポート2本で冗長化している場合: (8,000.80-3,127.32)÷0.041=約118,865GB=約119TB
- 10Gポート1本の場合: (8,000.80-1,563.66)÷0.041=約157,003GB=約157TB
1TBは1,000GBで計算した。月119TBは平均約362Mbpsを流し続ける量で、10G回線の月平均使用率では約3.6%に当たる。

米国の例と比べると、日本のほうが分岐点は低い。米国の試算では転送料を1GBあたり0.02ドルとし、ポート2本の分岐点を月235TBとしている[7]。日本の転送料はその約2倍なので、少ない転送量で元が取れる。
100Gでは、日本の従量課金が1時間22.50ドルなので、2本構成との比較で分岐点は月約1,028TBになる[4][6]。
数百台から数千台のオンプレミスサーバーを抱え、その一部をAWS Systems Manager(以下SSM、AWSのサーバー運用管理サービス)で管理している日本企業のインフラ担当にとって、2026年9月30日から予算の組み方が変わった。年[…]
定額に含まれない費用は何か——ティア外リージョン・SiteLink・Transit Gateway
定額でゼロになるのは、選んだティアのリージョンから出る転送料とポート料金だけだ。それ以外の費用は従来どおり別に請求される[3]。
| 費目 | 定額に含まれるか | 請求元 |
|---|---|---|
| ポート料金 | 含まれる | AWS |
| 選んだティアのリージョンからの転送料 | 含まれる | AWS |
| ポートペアの2本目 | 含まれる | AWS |
| ティア外のリージョンからの転送料 | 含まれない | AWS(通常の転送料) |
| SiteLink(DXロケーション間を直接つなぐ機能)の転送料 | 含まれない | AWS(SiteLinkの料金) |
| Transit Gatewayのデータ処理料金 | 含まれない | AWS |
| 構内配線とコロケーション費用 | 含まれない | コロケーション事業者・DXパートナー |
| 自社拠点からDXロケーションまでの回線 | 含まれない | 通信事業者 |
見落としやすいのは、Direct Connect gatewayやTransit Gateway(複数のVPCやリージョンを束ねる中継機能)で複数リージョンにつなぐ構成だ。ティア外のリージョンからも定額の接続へ通信が流れ得る[3]。たとえば東京のDXロケーションでTier 1を選び、米国リージョンの通信も同じ接続で受けると、米国分は通常の転送料で請求される。
上位のティアは下位のリージョンをすべて含むので、ティア外の転送料と上位ティアとの差額を比べて決める[3]。
2024年1月、Google Cloudは、自社のサービスをやめて他のクラウドやオンプレミスへ移る顧客について、移行時のデータ転送料を無料にすると発表し、全世界の顧客に適用するとした[1]。同じ1月の11日には、欧州でEUデータ法が発効し[…]
ポートペアで冗長構成はどう変わるか——2本目は無料、使える帯域は1本分
ポートペアは、別々の機器または別々のロケーションに置いた2本の専用接続を1組として扱う仕組みだ。2本目の接続は追加料金なしで付く[5]。
注意したいのは使える帯域だ。10Gのポートペアで使えるのは10Gで、20Gにはならない[5]。2本とも通信を流せるが、実効帯域は1本分に制限される[5]。20Gが必要な場合の構成は公式に定額の例がなく、User Guideが示す「単独の接続を2本別々に立てる」形を含めて、AWSに見積もりを確認したい。
ペアを組むには、2本の接続を回復性グループ(resiliency group)という論理的なまとまりに入れる[5]。条件は、両方が定額で、同じ速度・同じティアであることだ[5]。2本は同じロケーションでなくてよく、別ロケーションで組めば設備全体の障害にも備えられる[5]。東京のEquinix TY2と大阪のKDDI Telehouse Osaka 2はどちらもTier 1が東京・大阪リージョンを含むため、東西でペアを組む設計も条件上は成り立つ[6]。
運用上の制約もある。料金体系の切り替えは1接続あたり6か月の間に3回までで、同じアカウントの同じDXロケーションでは全接続の料金体系をそろえる必要がある[5]。帯域は作成後に変えられない[5]。
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キャリア閉域網のホスト型接続は定額の対象になるか
ならない。定額料金は専用接続だけが対象で、DXパートナーが提供するホスト型接続は対象外だ[3][5]。日本のDXロケーションでも、ホスト型接続は50Mから10Gまで価格表に並ぶが、どの速度でも定額は選べない[6]。
通信事業者の閉域網サービス経由でAWSにつなぎ、回線と保守をまとめて契約している企業は、この構成に当たることが多い。定額を使うには専用接続への移行が前提になる。
| 観点 | 定額料金の前提 | 閉域網経由のホスト型接続で起きること |
|---|---|---|
| 接続の種類 | 10G・100Gの専用接続 | 対象外。専用接続へ移行が必要 |
| 冗長構成 | ポートペアで2本目が無料 | 事業者の冗長メニューと二重の設計になる |
| 回線契約 | AWS側は時間単位で切り替え可能 | 事業者との契約期間と解約条件が制約になる |
| 予算 | 月額固定で見積もりやすい | 回線費は固定、転送料は変動のまま残る |
| 障害時の窓口 | AWSと自社で役割を分ける | 事業者の一括保守から窓口が分かれる |
専用接続へ移ると、DXロケーションまでの回線と構内配線を自社で手配する必要がある[3]。これまで事業者に任せていた障害切り分けも、AWS・コロケーション事業者・回線事業者の3者に分かれる。

月119TBを下回る転送量なら、移行の手間に見合う削減は出ない。
IT部門の判断としては、現行の接続種別と直近12か月の月別転送量を棚卸しし、分岐点との差を出す。決裁側の判断としては、転送料の削減額と、移行に伴う回線契約の見直しや保守体制の変更を並べ、専用接続への移行を投資として承認するかを決める。

まとめ
定額料金は、10G・100Gの専用接続で転送量が多い企業ほど得をする仕組みだ。東京の公開価格では、10Gポート2本の従量課金と比べて月約119TB、平均約362Mbpsが分岐点になる。日本の転送料は1GBあたり0.041ドルと米国の例の約2倍なので、米国の試算より低い転送量で元が取れる。
IT部門の次の一手は、AWSの請求明細からDXの転送料を接続別・通信元リージョン別に集計し、月119TBとティアの範囲に照らして切り替え対象を棚卸しすることだ。決裁側の判断材料は、定額の月額約124万円と現行の月額を並べ、転送料の変動がなくなる効果と、ティア外の転送料やTransit Gatewayの料金が残るリスクを比べることになる。
料金体系は6か月に3回まで切り替えられるので、試しに定額にして実額を確かめる判断もできる。
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よくある質問(FAQ)
Q. 1Gの専用接続でも定額にできますか。
A. できない。定額の対象は10Gと100Gの専用接続だけだ。
Q. 定額に切り替えたあと、従量課金に戻せますか。
A. 戻せる。料金体系は接続ごとに設定し、6か月の間に3回まで切り替えられる。
Q. ポートペアにすると回線の速度は2倍になりますか。
A. ならない。10Gのポートペアで使える帯域は10Gで、2本目は障害や保守のときの予備になる。
出典
[1] AWS What’s New「AWS Direct Connect announces flat-rate pricing」(2026-09-15) https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2026/09/aws-direct-connect-announces-flat-rate-pricing/[2] AWS Direct Connect Flat-Rate Pricing https://aws.amazon.com/directconnect/pricing/flat-rate/
[3] AWS Direct Connect Pricing Guide「Flat-rate pricing」 https://docs.aws.amazon.com/directconnect/latest/PricingGuide/pricing-flat-rate.html
[4] AWS Direct Connect Pricing https://aws.amazon.com/directconnect/pricing/
[5] AWS Direct Connect User Guide「Flat-rate billing for dedicated connections」 https://docs.aws.amazon.com/directconnect/latest/UserGuide/flat-rate-connections.html
[6] AWS Price List API「AWSDirectConnect」(2026-09-17公開版) https://pricing.us-east-1.amazonaws.com/offers/v1.0/aws/AWSDirectConnect/current/index.json
[7] Simon Painter「Direct Connect goes flat rate」 https://www.simonpainter.com/direct-connect-goes-flat-rate/


