海外ゴルフトレンド連載 第5回
ゴルフウェアを選ぶとき、「コースの外でも着たい」と思ったことはないだろうか。日本ではパーリーゲイツやビームスゴルフが「おしゃれなゴルフウェア」の代名詞だ。機能性とデザインの両立は進んでいるし、ブランド数も多い。ところが海外、特に米国では、まったく別の文脈からゴルフファッションが爆発的に拡大している。ジョーダンブランドとのコラボ、スケーターやヒップホップのカルチャーとの融合 — 「ゴルフ場でしか着ない服」という前提そのものが崩壊しつつある。
同時に、ゴルフの情報源もテレビ中継からYouTubeへ移行した。登録者290万人のRick Shiels、年間7,500万再生のBob Does Sports。PGA TourもLIVも、こうしたクリエイターを公式大会に組み込み始めた。ゴルフへの入口が「コース」から「スマホの画面」と「ストリートで着る服」に移った — その構造変化を、データで読み解く。
この記事でわかること
- Malbon Golf売上+50%、Eastside Golf売上+235% — ストリートウェア系ゴルフブランドの急成長データ
- タイガー・ウッズの新ブランド「Sun Day Red」が750超の小売店舗で展開を開始した背景
- YouTubeゴルフ動画が年間45.4万本に達し、上位5チャンネルの月間再生数が5,000万を超える現状
- PGA Tour「Creator Classic」とLIV「The Duels」 — ツアー団体がクリエイターを公式に取り込んだ理由
- 日本のゴルフファッション市場に「スニーカーカルチャー連動」が欠けている構造差
ストリートウェア系ゴルフブランドの急成長 — Malbon・Eastside Golf・Sun Day Red
ストリートウェア系ゴルフブランドとは、スケートボード・ヒップホップ・スニーカーカルチャーの文脈をゴルフウェアに持ち込んだ新興ブランド群を指す。従来のゴルフアパレル(ポロシャツ+チノパン)とは異なり、フーディ、スウェット、ジョガーパンツなど「コースの外でもそのまま着られる」デザインが特徴だ。2024年以降、売上・資金調達・ブランド提携のすべてで加速度が増している1。
| ブランド | 概要 | 直近の主要数字 |
|---|---|---|
| Malbon Golf | LA発。バケットハットのロゴで知られるライフスタイル系ゴルフブランド | 2024年Q2-Q3売上+50%、2025年に2,800万ドルの資金調達1 |
| Eastside Golf | 黒人ゴルファー2名が創業。ジョーダンブランド・ナイキ・メルセデスと提携 | 2024年Q3売上+235%1 |
| Bogey Boys | グラミー受賞ラッパーMacklemore(マックルモア)が立ち上げたゴルフブランド | セレブリティ×ゴルフの象徴として認知拡大中1 |
| Sun Day Red | タイガー・ウッズがTaylorMadeと共同で立ち上げた新ブランド | 750超のグリーングラス店舗・PGA Tour Superstoreで小売展開開始2 |
このほかにも、Bad Birdie(大胆なプリント柄で知られる)、MANORS(英国発のミニマルデザイン)、Quiet Golf(ストリートアート寄り)、Metalwood Studio(インディー系)など、従来のゴルフアパレル市場にはいなかったプレーヤーが次々と参入している1。
なぜストリートウェア×ゴルフが急成長しているのか
成長の背景には3つのドライバーがある。
第一に、コースのドレスコード緩和。米国では多くのパブリックコースが襟付きシャツの義務を撤廃し、フーディやジョガーパンツでのプレーが許容されるようになった。服装の自由度が上がれば、ブランドの選択肢も広がる。
第二に、スニーカーカルチャーとの接続。Eastside GolfがJordan Brandとコラボしたゴルフシューズは、スニーカーヘッズ(スニーカー収集家)のコミュニティで即完売になった。ゴルフに興味がなかった層が「靴」をきっかけにコースに立つ — この導線は従来のゴルフマーケティングにはなかった1。
第三に、Z世代の自己表現欲求。ゴルフを「紳士のスポーツ」として受け入れるのではなく、「自分のスタイルでやるスポーツ」として再定義する。ストリートウェアブランドはその器になっている。
Sun Day Red — タイガーが仕掛けた「ゴルフ×ライフスタイル」の大型実験
Sun Day Redは、タイガー・ウッズが2024年にTaylorMadeと共同で立ち上げたブランドである。ナイキとの27年間のパートナーシップ終了後の新展開として注目を集めた2。
特筆すべきは流通規模だ。初期SNSエンゲージメントではLululemonに次ぐ2位を記録し、2025年からは750を超えるグリーングラス店舗(ゴルフ場併設のプロショップ)やPGA Tour Superstoreで本格的な小売展開を開始した2。タイガーという個人ブランドの力で、ゴルフウェアとアスレジャー(運動着と日常着の中間)の境界線をさらに曖昧にしている。
YouTubeゴルフクリエイター経済圏 — 年間45.4万本の動画、月間5,000万再生
YouTubeにおけるゴルフコンテンツの経済圏とは、個人クリエイターがレッスン・ラウンド動画・企画動画を制作し、広告収入・スポンサーシップ・自社ブランド販売で収益化する仕組みを指す。2024年、YouTubeに投稿されたゴルフ動画は45万4,000本で、前年比+27,000本の増加。上位5チャンネルの合計登録者数は1,000万人超、月間再生数は5,000万回超に達している3。
| チャンネル | 概要 | 規模 |
|---|---|---|
| Rick Shiels | 英国のPGAプロ。用具レビューとレッスンが主力 | 登録者290万人超。2025年にLIV Golfと専属契約3 |
| Good Good | 米国の若手グループ。エンタメ寄りのマッチプレー動画が人気 | 登録者150万人超。自社D2Cアパレルブランドも展開3 |
| Bob Does Sports | コメディアン出身。ゴルフの「ゆるさ」を前面に出したコンテンツ | 年間7,500万再生3 |
| Bryson DeChambeau | 元PGAツアー選手(現LIV)。YouTubeに本格参入 | Episode 1が460万再生4 |
注目すべきは、これらのクリエイターがPGA Tour公式コンテンツよりも高いエンゲージメントを記録している点だ3。テレビ中継の視聴率が伸び悩む一方で、YouTubeゴルフは「若年層がゴルフに触れる最初の接点」として機能している。
クリエイターが作る「ゴルフの入口」
従来、ゴルフへの入口は「友人・家族に連れられてコースに行く」か「テレビでトーナメントを観る」のどちらかだった。YouTubeクリエイターは第三の導線を作った。
Good Goodの動画を観た20代が「自分もやってみたい」と思い、Bob Does Sportsを観た層が「ゴルフって堅くないんだ」と認識を改める。Rick Shielsの用具レビューで「最初の1本」を選ぶ。この一連の流れが、テレビ離れした世代をゴルフに引き込んでいる。
さらに、Good Goodは自社アパレルブランド「Breezy」を展開し、Rick Shielsはスポンサー契約にとどまらずLIVとの専属配信契約に進んだ。クリエイターは単なるインフルエンサーではなく、メディア企業として機能し始めている3。
PGA TourとLIVが「クリエイター公式大会」を新設した意味
2024年、ゴルフ業界に新しい形式の大会が登場した。YouTubeクリエイターが主役の公式トーナメントである。PGA TourもLIVも、クリエイターを「外部の宣伝役」ではなく「コンテンツ戦略の中核」として組み込む方向に舵を切った4。
| 大会名 | 主催 | 概要 |
|---|---|---|
| Creator Classic | PGA Tour | 2024年East Lakeで初開催。2025年は3大会(Players、Truist、Tour Championship)に拡大4 |
| The Duels | LIV Golf | 2025年に5大会開催、賞金25万ドル4 |
| Pro Shop | PGA Tour出資 | クリエイターコンテンツの制作・配信プラットフォーム4 |
PGA Tourは「Creator Council」を設置し、Bob Does Sports、Bryan Bros(元PGAツアー選手の兄弟)、Paige Spiranac(元プロゴルファー・インフルエンサー、SNSフォロワー数でゴルフ界最大)らをメンバーに起用した4。
LIV側もRick Shielsとの専属契約に加え、The Duelsでクリエイター対プロ選手のマッチプレーを企画。Bryson DeChambeauのYouTubeチャンネルはLIVの事実上の公式メディアとして機能しており、Episode 1は460万再生を記録した4。
PGA TourとLIVはツアー統合交渉で対立を続けているが、「クリエイターを公式に取り込む」という戦略では完全に一致している。若年層へのリーチを持つクリエイターなしには、ゴルフの将来の視聴者・参加者を確保できないという危機感が共通しているためだ。
ゴルフ文化の入口が「コース」から「SNS・YouTube・ストリート」に移った
ストリートウェアブランドとYouTubeクリエイターに共通するのは、「コースの外」からゴルフへの入口を作っているという点だ。
Malbon Golfのフーディを街で着る → ゴルフに興味が湧く → Good Goodの動画を観る → コースに行く。この導線は、従来の「コースに行く → ウェアを買う → 深くハマる」とは完全に逆向きだ。
米国のゴルフ参加者は2024年に4,810万人に達しているが、そのうち1,900万人は「オフコースのみ」の参加者だ(NGFデータ)。つまり全体の約40%は、コースに一度も足を運ばずに「ゴルフ」を消費している。ストリートウェアとYouTubeは、このオフコース層が最初に接触するゴルフ文化のレイヤーとして機能している。
日本のゴルフファッションに欠けている「スニーカーカルチャー連動」
日本のゴルフアパレル市場は独自の強みを持っている。パーリーゲイツ、マスターバニー、ジャックバニー、ビームスゴルフ、ニューエラゴルフ — デザイン性が高く、品質も安定しており、若い女性ゴルファーの増加とも連動して市場は堅調だ。
しかし、海外で起きている「スニーカーカルチャーとの融合」は日本市場にはほぼ到達していない。Eastside Golfのジョーダンコラボゴルフシューズは日本でも一部のスニーカーショップで話題になったが、ゴルフ市場の文脈では語られていない。
構造差を整理すると以下のようになる。
| 観点 | 米国 | 日本 |
|---|---|---|
| ブランドの出自 | ストリート・ヒップホップ・スケート文化から参入 | ゴルフ業界内・アパレル業界内から派生 |
| コラボ先 | Jordan、Nike、Mercedes、TAG Heuer | 国内ファッションブランド中心 |
| 着用シーン | コース内外の境界なし | 基本的にコース内が前提 |
| ドレスコード | パブリックコース中心に大幅緩和 | 多くのコースで襟付き必須が継続 |
| YouTubeクリエイター連携 | D2Cブランド展開・大会主催レベル | 個人レベルのスポンサー契約が主流 |
日本のゴルフファッションは「ゴルフ場で映える服」として十分に洗練されている。ただし、「ゴルフに興味のなかった層をファッションから引き込む」という機能は、まだほとんど果たせていない。海外で起きている変化の本質は、ウェアのデザインではなく「誰にリーチするか」の設計思想にある。
まとめ — コース外カルチャーが変えるゴルフの3つの構造
- ゴルフファッションの入口が「コース外」に移った。 Malbon(売上+50%)、Eastside Golf(売上+235%)、Sun Day Red(750超店舗展開)の急成長は、「ゴルフ場で着る服」から「街でも着たい服」への需要シフトを示している。スニーカーカルチャーとの融合が新規参入層を生んでいる。
- YouTubeクリエイターが「ゴルフの最初の接点」になった。 上位5チャンネル登録者1,000万人超、月間5,000万再生超。年間45.4万本のゴルフ動画が投稿され、PGA Tour公式よりも高いエンゲージメントを記録している。テレビを見ない世代にとって、YouTubeがゴルフを知る最初の場所だ。
- ツアー団体がクリエイターを公式に組み込んだ。 PGA Tour Creator Classic(2025年3大会)、LIV The Duels(5大会)、Creator Council設置。対立するPGA TourとLIVが唯一合意している戦略が「クリエイター活用」であること自体が、この変化の不可逆性を示している。
FAQ — ゴルフ×ストリートウェア・YouTube経済圏の疑問
Q. Malbon Golfはどこで買えるのか?日本での入手方法は?
A. 公式オンラインストア(malbongolf.com)で日本への国際配送に対応している。また、一部のセレクトショップやゴルフ専門ECサイトでも取り扱いがある。ただし、日本国内の実店舗での常設展開は2026年時点では限定的だ。
Q. YouTubeゴルフクリエイターは実際にどの程度の収益を上げているのか?
A. 正確な収益は非公開だが、Rick ShielsのLIV専属契約、Good Goodの自社アパレル「Breezy」、Bob Does Sportsの年間7,500万再生から推定される広告収益を考えると、トップ層は年間数百万ドル規模の収益構造を持っていると推測される。スポンサー契約、D2Cブランド、イベント収益を合算した複合モデルが主流だ。
Q. PGA Tour Creator Classicはプロの大会とどう違うのか?
A. YouTubeクリエイターが出場する招待制の公式イベントで、PGAツアーの正規トーナメントとは別枠で開催される。2024年にEast Lakeで初開催され、2025年はPlayers、Truist、Tour Championshipの3大会に拡大した。PGAツアーが出資する「Pro Shop」がコンテンツ制作を担い、クリエイターの配信チャンネルとツアーの公式配信の両方で視聴できる。
Q. 日本のゴルフYouTuberと海外クリエイターの規模差はどの程度か?
A. 日本のゴルフYouTubeも成長しているが、規模の桁が異なる。米国のトップ5チャンネルは合計1,000万人超の登録者と月間5,000万再生を持ち、D2Cブランド展開や大会主催にまで発展している。日本では個人レベルのスポンサー契約が主流で、ツアー団体がクリエイターを公式に組み込む動きはJGTO・JLPGAともに未着手だ。
Q. ストリートウェア系ブランドの台頭で、従来のゴルフアパレルは衰退するのか?
A. 衰退というより「併存」が現実的な見方だ。Titleist、FootJoy、Callawaなどの伝統ブランドは既存ゴルファー向けの需要を引き続き満たしている。ストリートウェア系ブランドが担っているのは「これまでゴルフに来なかった層」への入口機能であり、市場全体のパイを拡大する方向に作用している。
参照元
すべてのソースは2026年5月8日にアクセス・確認した。
[1] [↩] Front Office Sports. “Flashy Golf Apparel Brand Malbon Notches $28 Million Raise.” 2025年. / Complex. “If You’re a Golfer Who Loves Streetwear, These Brands Are For You.” / Particl. “DTC Golf Report” — Eastside Golf Q3 +235%, Malbon Q2-Q3 +50%. アクセス日: 2026年5月8日.
https://frontofficesports.com/flashy-golf-apparel-brand-malbon-notches-28-million-raise
[2] [↩] Golf Digest. “Why Tiger Woods Got New Clothes: Sun Day Red × TaylorMade.” / 初期SNSエンゲージメントでLululemonに次ぐ2位、750超店舗での小売展開開始. アクセス日: 2026年5月8日.
https://www.golfdigest.com/story/why-tiger-woods-got-new-clothes-sun-day-red-taylormade
[3] [↩] PGA Tour. “How YouTube Creators Made Their Mark in Professional Golf.” 2024年8月21日. / Digiday. “Brand Deals Surge for Golf Creators.” / Tubular Labs調査: 2024年YouTubeゴルフ動画45.4万本(前年比+27,000). / GolfWRX. “What Does the Future of YouTube Golf Look Like?” アクセス日: 2026年5月8日.
https://www.pgatour.com/article/news/latest/2024/08/21/how-youtube-creators-made-their-mark-in-professional-golf
[4] [↩] Front Office Sports. “PGA Tour, LIV Golf Capitalized YouTube Influencers.” / Golf.com. “PGA Tour 3 Creator Classic 2025.” / Golf Monthly. “PGA Tour Announces Creator Series With Golf Influencers.” — Creator Classic 2025年3大会拡大、LIV The Duels 5大会$250K、Bryson DeChambeau Ep.1 460万再生、Creator Council構成. アクセス日: 2026年5月8日.
https://frontofficesports.com/pga-tour-liv-golf-capitalized-youtube-influencers