ベトナム・東南アジアが「アジアのゴルフ聖地」になりつつある — 9年連続受賞の裏側と日本人ゴルファーへの示唆

この記事でわかること

  • ベトナムが「アジア最優秀ゴルフデスティネーション」を9年連続受賞(2017〜2025年)した背景と意味
  • コース数約100→2030年200コース目標という開発計画の全体像
  • タイガー・ウッズ設計コースやトランプ・ゴルフなど、注目の新規コースの動向
  • 中国人ゴルファー85%増・韓国人減少という観光客構成の構造変化
  • タイ・カンボジア・インドネシアを含む東南アジア全体のゴルフツーリズム地図
  • 日本人ゴルファーがベトナム・東南アジアでプレーする際の実務情報(ベストシーズン・ビザ・費用)

「ダナンでゴルフ」という選択肢は、日本人ゴルファーの間でもう珍しいものではなくなった。直行便で約5時間半、グリーンフィーは日本の半額以下、リゾートホテルと組み合わせた3泊4日のパッケージも充実している。だが、こうした個人旅行の視点だけでは見えない、もっと大きな構造変化が起きている。ベトナムが「アジアのゴルフ聖地」としての地位を急速に固めつつあるのだ。

World Golf Awards(ゴルフ版のアカデミー賞と呼ばれる国際ゴルフ旅行業界の表彰制度)で、ベトナムは「Asia’s Best Golf Destination」を2017年から2025年まで9年連続で受賞した1。タイでもインドネシアでもなく、ベトナムだ。この記事では、受賞の裏側にある政策・投資・観光客構成の変化を掘り下げ、東南アジア全体のゴルフツーリズムの構図を整理する。

9年連続「アジア最優秀ゴルフデスティネーション」— 受賞が意味するもの

World Golf Awardsは、世界のゴルフツーリズム業界で最も権威ある表彰の一つだ。ゴルフ旅行の専門家(ツアーオペレーター、メディア、業界関係者)と一般ゴルファーの投票によって選出される。ベトナムは2017年に初受賞して以来、2025年まで9年連続でアジア部門のトップを維持している1

9年連続という数字は、一過性のブームではなく構造的な強みが背景にあることを示している。具体的には、(1) コース品質と多様性の向上、(2) 政府主導のゴルフツーリズム推進策、(3) インフラ整備(特にダナン国際空港の長距離路線拡充)の3つが重なった結果だ。単に「コースが安い」「天気がいい」という話ではない。

コース開発の爆発的拡大 — 100コースから200コースへの倍増計画

ベトナム国内のゴルフコースは2024年時点で約100コース。これだけでも2010年代前半の約40コースから2.5倍に増えているが、ベトナム政府は2030年までに200コースへの倍増を目標に掲げている2。年間15〜20コースの新設ペースが続く計算だ。

注目すべきは、新設コースの「格」が上がっていることだ。単なるリゾート併設の9ホールではなく、世界的に名前の通った設計者・ブランドが参入している。

コース名 所在地 特徴
Vinhomes Green Paradise ハイフォン タイガー・ウッズのTGR Design初のベトナム設計。ベトナム最大財閥Vingroup傘下3
Trump Golf(計画中) フンイエン省 トランプ・オーガニゼーションによるベトナム初進出。36ホール規模4
Ba Na Hills Golf Club ダナン Luke Donald設計。標高差を活かした山岳コース。World Golf Awards受賞歴あり
Montgomerie Links ダナン Colin Montgomerie設計。海沿いリンクスコース。日本人ゴルファーの利用も多い
Laguna Lăng Cô フエ近郊 Nick Faldo設計。山・海・ラグーンの3景観を持つリゾートコース
KN Golf Links カムラン Greg Norman設計。ニャチャン空港から車20分のリンクスコース

タイガー・ウッズ設計のVinhomes Green Paradiseは象徴的だ。ウッズのTGR Designは世界でも設計案件を厳選しており、ベトナムを選んだこと自体が同国の市場ポテンシャルに対する評価を表している3。Vingroupはベトナム最大の民間企業グループで、不動産・自動車(VinFast)・リゾートを手がけるコングロマリットだ。ゴルフコースは同グループの大型複合リゾート開発の一部として位置づけられている。

ゴルフツーリズム収入6億ドル→10億ドル — 観光客構成の地殻変動

ベトナムのゴルフツーリズム収入は2022年の推定6億ドルから、2025年には10億ドル規模に拡大したとされる5。3年で1.7倍というペースは、コロナ後のリバウンド需要だけでは説明がつかない。最大の要因は、観光客の国別構成が大きく変わったことだ。

具体的には、中国人ゴルフ観光客が前年比85%増という急伸を見せた6。背景にはいくつかの構造的要因がある。

  • 中国国内のゴルフ規制:2017年以降、中国政府は環境保護を理由に100以上のゴルフ場を閉鎖。新設も事実上凍結されている。中国のゴルファー人口(推定300〜400万人)に対してコース供給が圧倒的に不足しており、海外に出るしかない状況が続いている
  • 地理的近さ:中国南部(広州・深圳)からハノイ・ダナンへのフライトは2〜3時間。週末ゴルフ旅行が成立する距離だ
  • ビザ緩和:ベトナムは2023年に中国人向けの電子ビザを導入し、滞在可能日数も延長した

一方で、かつてベトナムゴルフツーリズムの主力だった韓国人観光客は減少傾向にある6。韓国人ゴルファーのベトナム志向が弱まったというよりも、タイやフィリピンなど選択肢が分散した結果だ。ただし、この韓国人の減少を中国・インド・日本からの流入が十分に補っている。

日本のゴルフメディアは韓国人観光客の動向に注目しがちだが、実態としては中国マネーの流入と、それに対応するベトナム側のラグジュアリー路線へのシフトのほうが、はるかに大きなトレンドだ。

東南アジア全体のゴルフツーリズム地図 — タイ・カンボジア・シンガポールとの比較

ベトナムだけを見ていると全体像を見失う。東南アジアのゴルフツーリズムは、国ごとに異なるポジションで棲み分けが進んでいる。

タイ・カンボジア・ベトナムの3か国だけで、2024年時点のゴルフコース数は合計924に達する7。内訳はタイが約580、ベトナムが約100、カンボジアが約30、残りがラオス・ミャンマーなどだ。タイはコース数では圧倒的だが、新規開発のペースと「高級路線」への投資ではベトナムが勢いで上回っている。

コース数(2024年概算) ポジション 日本からの直行便
タイ 約580 老舗・コスパ型。バンコク周辺に集中。中級者向けパッケージが充実 あり(約6.5時間)
ベトナム 約100 急成長・ラグジュアリー路線。ダナン中心。World Golf Awards常連 あり(約5.5時間)
カンボジア 約30 穴場・新興。シェムリアップ周辺。Nick Faldo設計のAngkor Golf Resortが代表 経由便のみ
インドネシア(バタム島) 約10(バタム島) シンガポールからフェリー45分。シンガポール在住ゴルファーの受け皿 経由便のみ

シンガポールのコース閉鎖とバタム島への波及

東南アジアのゴルフ地図を語る上で見逃せないのが、シンガポールの動きだ。国土面積が東京23区ほどしかないシンガポールでは、ゴルフ場の土地を住宅開発に転用する動きが加速している。2024年には名門マリーナベイ・ゴルフコースの閉鎖計画が報じられ、市内のゴルフコースは今後さらに減少する見通しだ8

その受け皿として急浮上しているのが、インドネシアのバタム島だ。シンガポールからフェリーでわずか45分。グリーンフィーはシンガポール国内の3分の1以下で、すでにシンガポール在住の駐在員やローカルゴルファーの「週末ゴルフ先」として定着しつつある。日本人ゴルファーにとって直接的な影響は小さいが、「アジアのゴルフ需要がどこに流れているか」という文脈では重要なピースだ。

日本人ゴルファーが知っておくべき実務情報

ベトナムゴルフを検討する日本人ゴルファー向けに、実務的な情報を整理する。

ベストシーズン

ベトナムは南北に長い国土を持つため、地域によってベストシーズンが異なる。ダナン(中部)は2〜8月が乾季でゴルフに適している。9〜1月は雨季に入り、特に10〜11月は台風の影響を受けることがある。ホーチミン(南部)は11〜4月が乾季だ。

ビザ

日本国籍の場合、45日以内の滞在であればビザ不要(2023年の改正で15日→45日に延長9)。ゴルフ旅行の一般的な日程(3〜7日間)であれば、ビザの心配は不要だ。

費用感

項目 目安
グリーンフィー(18ホール) 5,000〜15,000円(コース・曜日による)
キャディフィー 1,500〜3,000円(キャディ必須のコースが多い)
カート 2,000〜4,000円(2人乗り)
航空券(東京⇔ダナン往復) 40,000〜80,000円(LCC〜レガシー、時期による)
リゾートホテル(1泊) 8,000〜25,000円

グリーンフィーだけを見ると日本の半額以下のコースが多いが、キャディフィー・カート代が別途かかる点に注意が必要だ。トータルで見ると「日本の地方コースと同程度か、やや安い」という感覚になる。ただし、その価格でNick FaldoやGreg Norman設計のコースをプレーできることを考えれば、コストパフォーマンスは高い。

ダナン国際空港の拡充

ダナン国際空港は長距離路線の拡充を進めており、日本からの直行便も増加傾向にある10。成田・関空・中部からの直行便が就航しており、今後さらなる増便が見込まれている。空港からダナン市内のゴルフコースまでは車で30分〜1時間圏内だ。

まとめ — ベトナム・東南アジアのゴルフツーリズムから見えること

本稿の要点を3つにまとめる。

  1. ベトナムは9年連続「アジア最優秀ゴルフデスティネーション」を受賞し、コース数を2030年までに200に倍増させる計画を進めている。 タイガー・ウッズ設計やトランプ・ゴルフなどビッグネームの参入は、同国がアジアのゴルフ市場で確固たる地位を築きつつあることの証左だ。
  2. 観光客構成は中国人ゴルファーの急増(前年比85%増)によって大きく変化しており、ベトナム側もラグジュアリー路線にシフトしている。 中国国内のゴルフ場閉鎖政策が続く限り、この流れは加速する。日本のメディアが報じる「韓国人観光客の動向」は、全体像の一部にすぎない。
  3. 東南アジア全体で見ると、タイ(コスパ・老舗)、ベトナム(高級・急成長)、カンボジア(穴場)、インドネシア・バタム(シンガポール溢出需要の受け皿)という棲み分けが明確になりつつある。 日本人ゴルファーにとって、目的に応じた使い分けがしやすい環境が整ってきた。

日本の国内ゴルフ場はプレー人口の減少と会員の高齢化に直面している。一方、東南アジアでは投資マネーが流入し、世界的な設計者によるコースが次々と開業している。国内のラウンド費用が上がり続ける中、「同じ予算で海外の名門コースをプレーする」という選択肢は、今後ますます現実的なものになるだろう。

FAQ — ベトナム・東南アジアゴルフ旅行に関するよくある疑問

Q1. ダナンのゴルフコースは英語が通じるのか?

A. 主要なリゾートコース(Montgomerie Links、Ba Na Hills、BRG Da Nang等)では英語対応のスタッフが常駐しており、予約・受付・レストランとも英語で問題ない。キャディは英語が片言の場合もあるが、ゴルフ用語(距離・番手・方向)は通じる。日本語対応は一部の日系旅行会社経由の予約に限られる。

Q2. ベトナムでゴルフをする際にキャディは必須なのか?

A. ほぼ必須だ。ベトナムのゴルフ場は雇用創出の観点からキャディ制度を維持しており、大半のコースでキャディ帯同が義務づけられている。キャディフィーは1,500〜3,000円程度で、チップ(200,000〜300,000ドン=約1,200〜1,800円)を渡すのが慣例だ。

Q3. タイとベトナム、ゴルフ旅行先としてどちらが良いのか?

A. 目的による。コース数と選択肢の多さを重視するならタイ(約580コース)。コースの質・新しさ・リゾート体験の統合度を重視するならベトナム。タイはバンコク周辺に中級価格帯のコースが集中しており「たくさんラウンドしたい」人向け、ベトナムのダナン周辺は「名門コース×リゾート滞在」を1か所で完結させたい人向けだ。

Q4. 中国人観光客の増加で予約が取りにくくなっているのか?

A. 人気コースのピークシーズン(12〜3月)は混雑が増している。特に旧正月(春節)前後はコース・ホテルとも予約が集中する。日本人ゴルファーは春節を避けた2〜3月または4〜5月を狙うのが現実的だ。平日であれば直前予約でも問題ないことが多い。

Q5. ベトナムのゴルフ場にドレスコードはあるのか?

A. ある。日本のゴルフ場と同様、襟付きシャツ・ゴルフシューズが基本だ。ジーンズ・サンダル・タンクトップは不可。リゾートコースでも入場時のチェックは行われる。日本のゴルフ場のドレスコードに慣れていれば、特に追加の準備は不要だ。


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出典・参考

  1. World Golf Awards — “Vietnam: Asia’s Best Golf Destination” 2017–2025(9年連続受賞)
  2. Vietnam National Tourism Administration — ゴルフ観光開発計画(2030年目標:200コース)
  3. TGR Design / Vingroup — Vinhomes Green Paradise Golf Course(タイガー・ウッズ設計、ハイフォン)
  4. Trump Organization — Vietnam Golf Development(フンイエン省、36ホール計画)
  5. Vietnam Golf Tourism Revenue: $600M (2022) → $1B (2025)(業界推計)
  6. ベトナム・ゴルフツーリズム観光客統計 — 中国人観光客前年比85%増、韓国人観光客の減少傾向
  7. Asia Pacific Golf Group — Southeast Asia Golf Course Directory 2024(タイ・カンボジア・ベトナム計924コース)
  8. シンガポール都市再開発庁(URA) — Marina Bay Golf Course 土地転用計画
  9. ベトナム入国管理局 — 日本国籍のビザ免除期間延長(15日→45日、2023年8月施行)
  10. ダナン国際空港 — 国際線路線拡充計画(日本直行便増便含む)
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