2026年6月、ゴルフ界で長く最も愛された選手の一人、フィル・ミケルソン(Phil
Mickelson、米国の左利きゴルファー。愛称レフティ)の名前は、競技成績ではなく一連の不祥事報道で並んだ。報道どおりなら、1989年以降で初めて、彼がどのメジャーにも出場しない一年になる。
何が起きているのか。米国ゴルフ界で報じられた話は、確認された事実と、まだ一方の当事者の主張にとどまる疑惑(allegation)が入り混じっている。本記事はその全体像を一本で整理し、誰が・いつ報じたのかを押さえたうえで、どこまでが裏付けのある話で、どこからが「主張」なのかを線引きする。扱うのはすべて米国での出来事だ。
2026年のフィル・ミケルソンに何が起きたのか
2026年のミケルソンを巡る話は、大きく三つに分かれる。順に確からしさが違う点を、先に押さえておきたい。
- ホームコースのザ・ファームズ・ゴルフクラブ(The
Farms Golf
Club、カリフォルニア州ランチョサンタフェの会員制クラブ)で、女性従業員への「合意のない不適切な身体的接触」の疑いを受け、会員資格を失った。 - 元ツアー選手パット・ペレス(Pat
Perez)の元妻アシュリー・ペレス(Ashley
Perez)が、2015年に性的な誘いを受けたと実名で証言し、謝罪電話の録音を記者に提供した。 - これらは、賭博依存・インサイダー取引疑惑・サウジアラビア関連発言という過去の積み重ねの上に重なった。
そもそもフィル・ミケルソンとは何者なのか
フィル・ミケルソンは、メジャー6勝を含むPGAツアー45勝を誇る、一時代を象徴したスター選手だ。
マスターズ3勝(2004・2006・2010)、全米プロ2勝(2005・2021)、全英オープン1勝(2013)。2021年の全米プロは50歳11か月での優勝で、史上最年長のメジャー王者となった。タイガー・ウッズと並ぶ人気で、明るく社交的な振る舞いから「ファン思いの男」として絶大な支持を集め、2011年には世界ゴルフ殿堂入りも果たしている。
その評判は、2013年と2021年の二つの頂点を経たあと、ゆっくりと崩れていく。主な出来事を年表で示す。
| 年 | 出来事 | 局面 |
|---|---|---|
| 1991 | アマチュアでツアー初優勝 | 栄光 |
| 2004 | マスターズ初制覇(初メジャー) | 栄光 |
| 2005-2010 | 全米プロ05・マスターズ06/10 | 栄光 |
| 2013 | 全英オープン制覇(メジャー5勝目) | 栄光 |
| 2016 | SECがインサイダー事件で利益返還被告に指名 | 転落の予兆 |
| 2021 | 全米プロ優勝・50歳で史上最年長メジャー王者(通算6勝) | 最後の頂点 |
| 2022 | サウジ発言が表面化・スポンサー離反・LIVへ移籍 | 転落 |
| 2023 | 賭博を「依存症」と告白・ペレス夫妻が離婚 | 転落 |
| 2026 | メジャー全欠場へ・会員資格を喪失・実名証言と録音の報道 | 転落 |
今回の報道は何なのか:中心は6月26日のSkratch記事
一連の話の中心は、2026年6月26日にアラン・シプニック(Alan
Shipnuck、ゴルフ記者)がSkratch(スクラッチ、ゴルフ専門メディア)に発表した「Phil
Mickelson’s Long History of
Misconduct(ミケルソンの長きにわたる不適切行為)」という記事だ。
ただし出発点はその2週間前にある。2026年の報道の流れを時系列で並べると、次のようになる。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2月 | 家族の健康問題で長期離脱を表明 |
| 3月中旬 | ザ・ファームズで事件発生(報道) |
| 4〜6月 | マスターズ・全米プロ・全米オープンを欠場 |
| 6月11日 | Golf Digest がザ・ファームズの会員資格喪失を報道 |
| 6月26日 | Skratch(シプニック)が一連の不適切行為を報道=今回の中心報道 |
| 6月下旬 | 全英オープン欠場との報道(テレグラフ) |
6月11日、米Golf
Digest(ゴルフダイジェスト)が、ザ・ファームズでの会員資格喪失を最初に報じた。これは女性従業員への不適切接触という、単独でも重い件だ。これに対し6月26日のSkratch記事は、ペレス夫妻の件やマディソン・クラブ、ザ・ブリッジズからの退会など、複数の事例を「より大きなパターン」としてまとめたものだ。本記事で「今回の報道」と言うときは、主にこの6月26日の記事を指す。
誰が報じたのか:シプニックとSkratchの信頼性
報道の評価には、書き手と媒体の背景を知っておく必要がある。ここは信頼性を測るうえで外せない。
シプニックは2022年に、ミケルソン非公認の伝記『Phil』を出版した記者だ。サウジ発言を世に出したのも彼で、ミケルソンとは長く対立関係にある。書き手が当事者と利害を持つ点は、差し引いて読むべき要素だ。一方でSkratchの記事は、19人の情報源への取材に基づき、2名のトップメディア弁護士と熟練のファクトチェッカーによる検証を経たとされる。
媒体の性格にも触れておく。SkratchはPGAツアーが設立に関わり、Netflix「フルスイング」の制作会社が運営する。LIV所属のミケルソンに不利な構図、という指摘は成り立つ。背景に偏りがありうることと、個々の事実が裏付けられているかは、別の問題として切り分けて読むのが妥当だ。
最も裏付けが強いのはどの件か:2015年「ザ・バークレイズ」とペレス夫妻
一連の報道で証拠の裏付けが最も強いのが、2015年のペレス夫妻に関する証言だ。
舞台は2015年のザ・バークレイズ(The
Barclays、当時のFedExカップ・プレーオフ初戦。ニュージャージー州エディソンのプレーンフィールド・カントリークラブで開催)。ミケルソンは近隣のリバティ・ナショナルにある豪華なヴィラに滞在していた。アシュリーによれば、夫パットがトイレに立った隙に、ミケルソンが勃起した全裸の自撮り写真を見せ、「今夜は寝室のドアを開けておく。パットが寝たら来てほしい」と誘ったという。
この件が過去の噂と決定的に違うのは、二点ある。アシュリーが匿名でなく実名・顔出しで語ったこと。そして、ミケルソンがパットに謝罪した26分間の電話をアシュリーが録音し、記者に提供したことだ。録音のなかでミケルソンは記憶が曖昧だとしつつ「自分自身に心底うんざりし、恥じている」と謝罪している。
ただし注意も要る。録音が裏付けるのは「謝罪」であって、行為そのものの自認ではない。ミケルソンは録音で「上半身裸という意味か?」と内容を矮小化しており、写真の性的な中身を明確に認めてはいない。写真を見せられた瞬間その場にいたのはアシュリー本人だけで、この行為自体は依然として一方の主張である。
2026年の3つのクラブ退会は同じ重さなのか:信憑性の濃淡
3つのクラブから離れた件は、同じ「退会」でも裏付けの強さがまったく違う。報道を確からしさで整理すると、次のようになる。
| 確からしさ | 主な件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 確認された事実 | メジャー全欠場/クラブ会員資格の喪失/賭博を「依存症」と本人が認めた過去 | 大会の出場記録・クラブ公式声明・本人のSNS投稿 |
| クラブ公式の裏付けあり | ザ・ファームズでの「合意のない不適切な接触」疑惑 | クラブの独立調査と公式声明(ただし刑事立件はなく、本人側は否定) |
| 実名+物証あり | 2015年ペレス夫妻の件 | アシュリーの実名証言+26分の録音 |
| 匿名情報源のみ | マディソン・クラブ/ザ・ブリッジズでの素行 | 匿名の会員・従業員の証言 |
ザ・ファームズはミケルソンの自宅から数分の「ホームコース」で、メジャー前の主要な練習拠点だった。クラブは従業員の報告を受けて独立調査を行い、被害従業員への支援を表明し、ラウンド中のミケルソンを問いただして退去させ、会員資格を剥奪したと公式に説明している。一方ミケルソン側は「自主退会」と主張し、両者の言い分は食い違うが、「もう会員ではない」点では一致する。
これに対し、マディソン・クラブ(The Madison
Club、2021年に退会)とザ・ブリッジズ(The
Bridges、名誉会員資格を後輩のザンダー・シャウフェレに移管)の件は性質が異なる。報じられた内容は従業員への加害ではなく、妻以外の女性を巡る素行で、いずれも匿名の情報源に依拠している。同じ報道群でも、ここは「疑惑」として読む必要がある。
なぜ噂は「都市伝説」のまま10年残ったのか
ペレス夫妻の件は、実は10年近くツアー内で囁かれてきた話が、ようやく実名にたどり着いたものだ。
パット・ペレスは2022年11月、あるポッドキャストで「フィルへの憎しみは他の人とは違う……彼は越えてはならない一線を越えた」と、件名を明かさずに示唆していた。2023年に夫妻は離婚。そして2026年、アシュリーが実名で証言に踏み切った。動機について彼女は「女性が声を上げるのを妨げる沈黙の文化がある。他の女性が真実を語る勇気を持てるようにしたい」と説明している。
シプニックによれば、写真の話はツアー内で半ば都市伝説のように語り継がれていた。噂のまま放置された話が、当事者の実名と物証を伴って表に出た——これが2026年の構図だ。
今回の報道はなぜこれほど重く受け止められたのか
過去の積み重ねがあるため、新しい疑惑が「またか」ではなく「やはり」と受け取られている。
- 賭博:賭博師ビリー・ウォルターズ(Billy
Walters)の著書は、ミケルソンが過去30年で総額10億ドル超(約1,550億円。1ドル=155円換算)を賭け、損失は約1億ドル(約155億円)に近いと記す。本人は金額の多くを否定しないまま、2023年に賭博を「依存症」だったと認めた。 - インサイダー疑惑:2016年、米証券取引委員会(SEC)はミケルソンをディーン・フーズ株のインサイダー取引事件の利益返還被告に指名した。刑事訴追はされず、本人は認否を留保したうえで、取引利益93万1,738.12ドル(約1億4,400万円)と利息の全額返還に合意した。
- サウジ発言:2021年、ミケルソンはサウジ資金(後のLIVゴルフ)を「関わるには恐ろしい連中」と呼びつつ、PGAツアーへの交渉材料として使うと公言した。発言が2022年に表面化すると、KPMG(13年来)やキャロウェイなど主要スポンサーが相次いで離れた。
「金に貪欲で自己中心的」という像が、これらで先に出来上がっていた。2026年の疑惑は、その像の上に重なっている。
ミケルソン側はどう反論しているのか
ミケルソン側は全面否定ではなく、認否をあえて曖昧にする立場を取っている。
代理人は著名な名誉毀損弁護士トム・クレア(Tom
Clare)。声明では「一部の主張は虚偽であり、他は彼が公私で既に認めた過ちの蒸し返しだ」とするが、どれが虚偽でどれが認めた過ちかは特定していない。メディアに対しては「真実を犠牲にしたクリック稼ぎだ。もっとましにやれ(Do
better)」と批判した。ザ・ファームズの件では「客観的な映像証拠が反証する」と主張したが、報道によれば当該エリアにカメラはなく、映像は提出されなかった。
法的措置についても、クレアは「責任を追及する」と繰り返しているものの、2026年6月末時点で実際の名誉毀損訴訟の提起は確認されていない。現状は「脅し」の段階にとどまる。
LIVと「行き場のない男」:これからどうなるのか
競技者としての行き場が、急速に狭まっている。ここでLIVゴルフの事情が効いてくる。
Monterey/パブリックドメイン、Wikimedia Commons)
ミケルソンは2022年、推定2億ドル(約310億円)ともされる契約でサウジ資金が支えるLIVゴルフに移り、チーム「ハイフライヤーズGC」のキャプテンを務めてきた。だが出資元のサウジ公共投資基金(PIF)は、2026年4月、2026年シーズン後のLIVへの資金打ち切りを表明した。累計50億ドル超(約7,750億円)を投じた事業の存続が危ぶまれており、リーグが消えればミケルソンは「行き場のない男」になる、とシプニックは指摘する。
PGAツアーへの復帰も、実質的に閉ざされているとの見方が大勢だ。元ESPNのトレイ・ウィンゴは「その橋は焼かれ、爆破され、核で消し飛んだ。再建されることはない」とまで述べた。直近では、全英オープン(7月、ロイヤル・バークデール)を欠場するとの報道も出ている。事実なら、1989年以降で初めてどのメジャーにも出ない年になる。一方で、メジャー6勝・ツアー45勝・史上最年長メジャー王者という競技実績そのものは揺るがない。レガシーは「偉大だが厄介な人物」として、両論併記で語られ続けることになる。
よくある質問(FAQ)
Q. これらの件で、ミケルソンは有罪になったのですか?
A.
なっていません。刑事立件はなく、サンディエゴ郡保安官事務所はザ・ファームズの件で「暴行があったことを示す証拠は発見できていない」としています。多くは疑惑(一方の主張)の段階です。
Q. 全裸写真の録音は公開されているのですか? A.
記者が聴き、提供を受けたと報じられていますが、音声そのものは未公開です。現状は「録音が存在し、記者が確認した」という報道にとどまります。
Q.
ミケルソンは本当に全英オープンを欠場するのですか? A.
欠場の報道は出ていますが、R&A(主催者)の公式フィールドや本人の声明による独立した確認は、本記事時点では取れていません。
出典
- Alan Shipnuck「Phil
Mickelson’s Long History of
Misconduct」Skratch(2026年6月26日)※今回の中心報道 - Golf Digest「Phil
Mickelson accused of inappropriate contact with female course
employee」(2026年6月11日、ザ・ファームズの件) - CBS Sports「Phil
Mickelson accused of lewd behavior by ex-wife of Pat
Perez」(2026年6月) - Golfweek / USA TODAY「Report
details two incidents in which Phil Mickelson made unwanted, public
sexual advances」(2026年6月26日) - The Daily Beast「Trumpy
Golfer Phil Mickelson Hit With Vile New Sexual Misconduct
Allegations」(2026年6月) - 全英欠場報道(The Telegraph、James Corrigan):Yahoo
Sports 経由の配信記事(2026年6月26日) - U.S. SEC「SEC Announces
Insider Trading Charges…(Press Release
2016-92)」(2016年5月19日、ディーン・フーズ事件) - LIV資金打ち切り:CNBC「Saudi
PIF to end funding of LIV Golf after 2026
season」(2026年4月29日) - 経歴:Phil
Mickelson(Wikipedia)/2021年全米プロ優勝(PGA
TOUR) - Billy Walters『Gambler:
Secrets from a Life at Risk』(Simon & Schuster、2023年)
※本記事は2026年6月27日時点で報じられた内容に基づく。疑惑段階の主張についてミケルソン氏は行為を明確に認めておらず、一部を否定している。今後の本人の反論・法的対応・捜査の進展により評価が変わりうる。