
米国(アメリカ)のゴルフ場運営で、季節労働者への構造的な依存が改めて浮き彫りになった。全米ゴルフ場経営者協会(NGCOA)は2026年9月、季節労働ビザの手続き代行大手másLabor(マスレイバー)との提携を発表した[1]。春に米国のゴルフ場を訪れる読者には、コースの整備体制が誰の労働力に支えられているかに関わる話になる。人手不足とビザ制度という制約が事業運営を左右する構図は、労働集約型サービス業を営むビジネス読者にも参考になる。本稿はこの提携を手掛かりに、米国ゴルフ場が抱える季節労働の構造と、そこに生まれる事業機会を追う。
なぜ全米ゴルフ場経営者協会はビザ代行業者と提携したのか
NGCOA(全米ゴルフ場経営者協会)は2026年9月、季節労働者向けの就労ビザ手続きを専門とするmásLabor(マスレイバー)との提携を発表した[1]。NGCOA加盟のゴルフ場は「NGCOA Smart Buy Marketplace」を通じてmásLabor利用料の割引を受けられるほか、専任担当者や研修・コンプライアンス支援を受けられる[1]。
másLaborのCEO、クリス・ボール氏は「毎年春、コースのオーナーは同じ問いに直面する。会員と地域に約束したシーズンを届けるための人手は確保できるのか、と」と述べた[1]。NGCOAアドボカシー担当シニアディレクターのロニー・マイルズ氏は「H-2Bプログラムは季節労働という課題への重要な解決策であり、20年以上の実績を持つ企業から複雑な連邦制度の助言を受けられるようになる」と説明している[1]。

外国人材を「安い労働力」から「戦力」へどう位置づけ直すかという論点を、日本の受け入れ現場の取材から知りたい読者に。特定技能(2019年創設)より前の2017年刊。
米国のゴルフ場はなぜ季節労働者(H-2Bビザ)に頼るのか
NGCOAが対象とするH-2Bビザは、農業以外の季節的・一時的な仕事に外国人労働者を雇うための連邦制度で、国土安全保障省と労働省が運用する[3]。議会が定める基本枠は年6.6万件(上半期・下半期に3.3万件ずつ)で、需要に追いついていない[3]。2026年度は、希望する人数を雇えなければ回復不能な損害を受ける(または受けるおそれがある)雇用主に限って、最大6万4716件の追加枠が3回に分けて設けられた[4]。配分は就労開始が1〜3月の分に1万8490件、4〜9月の分に計4万6226件で、春以降に厚い[4]。基本枠と合わせた約13万716件は発給できる上限で、実際の発給数ではない。
ゴルフ場の芝刈りやグリーン整備は天候と生育に左右される季節業務であり、春から秋の繁忙期に人手が集中的に必要になる。másLaborは2003年の創業以来、全米50州でH-2B・H-2Aビザの手続きを扱い、年7万件超の労働認証を処理する[2]。ゴルフ、造園、農業、宿泊・観光など季節性の強い業種を横断して支えている[2]。

米国では、乾燥に強い新品種の芝が大学の研究室から相次いでゴルフ場向けの商業化段階へ進んでいる。フロリダ大学IFAS(農業・食料科学研究所)のゾイシア(高麗芝に近い暖地型の芝)品種「CitraZoy」は2026年に入って生産農場での増殖が広[…]
春先の人手不足はコース状態や会員体験にどう跳ね返るのか
H-2Bビザの申請は雇用開始の90日前が目安とされ、春の開幕に間に合わせるには冬のうちに手続きを終えている必要がある。基本枠が年度の早い段階で埋まれば、繁忙期の直前に人員計画が崩れるリスクが生じる。
提携の発表は、ゴルフ場が毎シーズン直面する人手不足を「コースの状態、会員体験、ゴルフが支える地域経済の健全性を脅かす」ものと位置づけている[1]。人手が足りなければ芝の手入れや開幕前の整備が手薄になり、会員が体感するコース状態の低下につながりかねない。
米国ゴルフ協会USGA(United States Golf Association、米国・メキシコのゴルフ規則を管理する団体)と、英国セント・アンドルーズ拠点の統括団体R&A(アール・アンド・エー、それ以外の世界のゴルフ規則を管[…]
ビザ代行という事業はどんな市場機会になっているのか
másLaborのようなH-2B・H-2A専門の代行業者は、複雑な連邦手続きを一括で引き受けることで事業を成り立たせている。NGCOAが制度を自ら運用せず専門業者と提携して会員に仲介する形を選んだこと自体、業界団体単位でこの種のサービスに需要があることを示す。
季節労働に頼る産業は農業・造園・宿泊など幅広く、ゴルフ場はその一角に過ぎない。裏を返せば、業界特化型のビザ・労務代行は、ゴルフ以外の季節労働集約産業にも横展開できる余地がある事業領域だ。
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日本のゴルフ場も季節労働力を海外人材に頼っているのか
日本のゴルフ場もコース管理の人手不足を抱えるが、外国人材を受け入れる枠組みは米国と大きく異なる。日本ゴルフ場経営者協会(NGK)など3団体が2017年に実施した調査(407コースが回答)では、コース管理の人手が不足気味または欠員状態と答えたゴルフ場が、正社員で計54.1%(44.1%+10.0%)、パート・アルバイトで計70.5%(55.6%+14.9%)に上った[5]。同じ調査で「外国人材の雇用の対象職種にゴルフ場産業を含める折衝活動」について聞くと、「早急に進めるべき」は27%、「早急な活動は必要ない」は43%だった[5]。NGKは中長期の対応策として、技能実習制度にコース管理・キャディ業務などの職種認可を打診する方針を示していた[5]。
その後NGKは、コース管理技術職を技能実習の2号移行職種にする要望活動を進めた。2019年11〜12月の意向調査では回答した705社の89.9%が賛同し、未回答を含む全体でも51.9%と、認定要件の一つである業界賛同の目安を満たしたと2020年に報告された[6]。ただ2025年2月時点でも、2号・3号の対象職種にゴルフ場の業務は入っていない[7]。2024年にコース管理部門へ16人の実習生を配属したアコーディア・ゴルフの場合、実習生が従事できるのは1号の1年間に限られ、同社は受け入れの目的を人手不足の解消ではなく国際貢献と職場の活性化に置いている[7]。
2027年4月1日には、技能移転による国際貢献を目的とする技能実習制度を発展的に解消し、人手不足分野での人材の育成・確保を目的とする育成就労制度が始まる[8]。受け入れ対象は特定技能と原則一致させた17分野で、入管庁が示す分野・業務区分の一覧にゴルフ場を名指ししたものはない[8]。コース管理で外国人材を受け入れてきた形が新制度でどう扱われるかは、公開情報では確認できなかった。米国の業界団体が既存のビザ枠を使いやすくする側に動いたのに対し[1]、日本の業界団体は受け入れ対象に加えるよう制度側へ働きかけてきた[5][6]。
| 観点 | 米国 | 日本 |
|---|---|---|
| 主な制度 | H-2Bゲストワーカービザ(季節労働、基本枠年6.6万件)[3] | 技能実習(ゴルフ場の業務は1号の1年のみ)[7]、2027年4月から育成就労制度へ移行[8] |
| 業界団体の動き | NGCOAがmásLaborと提携し、会員に代行サービスを割引で提供[1] | NGKがコース管理の技能実習2号移行職種化を要望(2019年の意向調査で回答企業の89.9%が賛同)[6] |
| 人手不足の状況 | 提携の発表は、毎シーズンの人手不足がコース状態や会員体験を脅かすと説明[1] | 2017年の調査で、コース管理の人手が不足・欠員と答えたゴルフ場は正社員54.1%、パート・アルバイト70.5%[5] |
まとめ
NGCOAとmásLaborの提携は、米国のゴルフ場運営が季節労働ビザという制度に構造的に依存している実態を映す。H-2Bビザの基本枠は年6.6万件で、2026年度は損害を受ける雇用主に限った追加枠(上限6万4716件)が設けられたが、これは上限であって発給数ではない。米国へのゴルフ旅行を検討する読者には、訪れるコースの整備体制が制度変更の影響を受けうる点を意識してほしい。労働集約型サービス業を営むビジネス読者には、業界団体が専門の代行業者と組んで会員の手続き負担を減らす形として読める。日本ではコース管理の人手不足が2017年の調査で示され、業界は技能実習の対象職種化を求めてきたが、2027年に始まる育成就労制度の対象分野にゴルフ場は名指しされていない。
よくある質問(FAQ)
Q. H-2Bビザとは何ですか。
A. 農業以外の季節的・一時的な仕事のために外国人労働者を雇う米国の連邦制度で、国土安全保障省と労働省が運用する[3]。
Q. másLaborとはどんな会社ですか。
A. 2003年創業のH-2B・H-2A専門代行業者で、全米50州で年7万件超の労働認証を処理する[2]。
Q. 日本のゴルフ場でもコース管理の人手不足は起きているのか。
A. 2017年の業界調査では、コース管理の人手が不足気味または欠員状態と答えたゴルフ場が正社員で54.1%、パート・アルバイトで70.5%あった[5]。季節に限った不足かどうかは、この調査からは分からない。
出典
- NGCOA Partners with másLabor to Solve Seasonal Labor Shortages, The Golf Wire, 2026-09-02. https://thegolfwire.com/ngcoa-maslabor-seasonal-shortages
- másLabor(会社概要). https://www.maslabor.com/
- The H-2B Visa and the Statutory Cap, Congressional Research Service(Congress.gov), updated 2026-05-14. https://www.congress.gov/crs-product/R44306
- Temporary Increase in H-2B Nonimmigrant Visas for FY 2026, USCIS. https://www.uscis.gov/working-in-the-united-states/temporary-workers/h-2b-non-agricultural-workers/temporary-increase-in-h-2b-nonimmigrant-visas-for-fy-2026
- 「雇用状況実態調査」報告~人材不足が浮き彫りに~, 一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会, 2017-12-28. https://www.golf-ngk.or.jp/news/2018/koyoujoukyouzitaicyousa.pdf
- 「コース管理技術職」の技能実習2号業種移行へ前進(「ゴルフ特信」第6469号より抜粋), 一季出版, 2020-03-04. https://www.ikki-web2.com/archives/4693
- 外国人技能実習生受け入れは「人手不足解消」が目的じゃない!? 1年しか従事できなくてもゴルフ場が受け入れる理由とは?, ゴルフのニュース(egolf.jp), 2025-02-07. https://egolf.jp/column/170967/
- 育成就労制度の概要(令和8年7月改訂), 出入国在留管理庁. https://www.moj.go.jp/isa/content/001452485.pdf


