完成から17年閉ざされた幻のゴルフ場、英gWestに見る投資の教訓

スコットランド中部パースシャー、ゴルフの聖地グレンイーグルズの隣接地に、コース完成から17年、一度も一般開場しないまま売りに出されたゴルフリゾートgWestがある。UAEの富豪一族アルタジル家が2007年に土地を取得し、2009年にコースを完成させたが、今も一般ゴルファーは足を踏み入れられない[1][2]。設計を手がけた名匠デービッド・マクレイ・キッド氏は、この土地を「今まで見た中で最高のインランド(内陸)ゴルフ用地」と評していた[2][3]。

このコースは一般開放されたことがなく、日本のゴルファーが訪れられる場所ではない。むしろ、完成した大型資産が次の投資に進まないまま長く眠った事例として読む価値がある。既に投じた額に引きずられた「サンクコスト(埋没費用)の罠」に見えやすいが、一族の発言が示すのは逆向きの判断だ。本稿はgWestの経緯と一族の説明を追い、追加投資を止めたまま保有を続けた判断を検証する。

gWestとはどんな幻のゴルフ場か

パース・アンド・キンロス州ブラックフォードに位置するgWestは、東西2.3マイル(約3.7km)に広がる私有地に建設された[1]。敷地は約639エーカー(約259ヘクタール、東京ドーム約55個分)に及ぶ[2][3]。18ホール・全長約7,300ヤードのチャンピオンシップコースで、設計はデービッド・マクレイ・キッド氏が手がけた[2][3]。

クラブハウスは18世紀のスコットランド人建築家コーレン・キャンベルに着想を得たドーム屋根の建物だが、内部は未完成のまま殻の状態にある[1][3]。敷地には最大170区画の住宅開発、ホテル、スパ、レジャー施設を建てる計画許可も下りているが、いずれも着手されていない[1][2]。

林と草地に囲まれたgWestを上空から撮影した写真。中央にドーム屋根のクラブハウスが建ち、手前と奥に刈り込まれたフェアウェイとグリーンが広がる
上空から見たgWest。中央のドーム屋根の建物がクラブハウスで、内部は未完成のまま残る(画像:The Golf Businessより)

追加投資を続けるか、見送るか、撤退するかをどう決めるかを考えたい読者には、様々な撤退局面がどう決断されたかを検証したこの一冊が参考になる。新刊では手に入りにくく、中古が中心になる。

なぜ完成から17年、一度も開場しなかったのか

一族の当主マハディ・アルタジル氏は、英国の飲料水大手ハイランド・スプリングのオーナーで、1971年に初代駐英UAE大使に就いた人物だ[1]。2007年にgWestの土地を取得し、2009年にコースを完成させたが、プレーできたのはごく限られた人にとどまり、一般ゴルファー向けに開場したことは一度もない[1][2]。

一族が挙げる理由は一つではない。2008年の世界金融危機、スコットランド独立を巡る議論と住民投票、英国のEU離脱(ブレグジット)、そして新型コロナ禍と、次の投資段階に進む時機ではないと一族が判断する材料が重なった[1][4]。2020年時点で当主の息子モーシン・アルタジル氏は「次のフェーズにはさらに5000万、6000万、ひょっとすると1億ポンドかかる。将来が見通せない以上、家族としてそれだけの資金を投じる気にはなれない」と述べている[1]。1ポンド≒209円で換算すると、追加投資額は約104億円から209億円にあたる。

2007年の土地取得、2008年の世界金融危機、2009年のコース完成と続き、その後2014年の独立住民投票、2016年のブレグジット決定、2020年のコロナ禍を経て、2026年の売却に至ったgWestの経緯を時系列で示す図
土地取得から売却までのgWestの経緯
ベンチャー

室内ゴルフリーグTGLを運営する米国のTMRW Sports(タイガー・ウッズとローリー・マキロイが2022年に共同創業したゴルフ興行会社)の評価額が、10億ドルの大台に届こうとしている。2026年9月、複数の米メディアが「関係者によると[…]

追加投資を止めた判断はどう読めるか

投資判断の基本では、すでに支払って取り戻せない費用(サンクコスト)は判断材料にせず、これから投じる資金が将来生む収益を見る。完成したコースが長く眠っていると、この基本に反して既に投じた額に引きずられたように見えやすい。

しかしモーシン氏が語ったのは、次のフェーズの5000万〜1億ポンドを、将来が見通せない以上は投じないという判断だった。スコットランドが独立すれば税負担が増えるおそれがあるとして、「ここは自分がお金を置くべき場所ではないかもしれない」とも話している[1]。一族は既に投じた額ではなく、先行きの見通しを理由に追加投資を止めている。

一方で、一族は開場も売却もしないまま保有を続けた。モーシン氏は2020年時点でこのコースを20〜30回プレーしたと話しており[1]、コースの手入れも続いてきた[4]。追加投資を止めることと資産を手放すことは、別々の判断として扱われた。売りに出したのは、土地の取得から19年後の2026年だった[1]。

次の段階に5000万〜1億ポンドが必要だとした一族が、将来が見通せないとして投資を見送り、開場も売却もしないまま保有を続け、2026年に売却を決めた流れを示す図
追加投資を見送ったあと、売却まで保有が続いた
サステナ

米国では、乾燥に強い新品種の芝が大学の研究室から相次いでゴルフ場向けの商業化段階へ進んでいる。フロリダ大学IFAS(農業・食料科学研究所)のゾイシア(高麗芝に近い暖地型の芝)品種「CitraZoy」は2026年に入って生産農場での増殖が広[…]

今回の売却は不動産・レジャー投資に何を示すのか

gWestは現在、不動産仲介大手ナイト・フランクを通じて売りに出されており、希望価格は公表されていない[1][3]。同社エディンバラ拠点のパートナー、ユアン・ケリー氏は「gWestのような機会が市場に出ることは極めて稀だ」と述べている[1][3]。英国のゴルフ産業は2024/25年度で27億ポンド(36億4000万ドル相当、1ドル=155円換算で約5,642億円)の売上規模を持ち、スコットランドには英国全体の約5分の1にあたる560程度のコースがある[1]。

ケリー氏は、売却によって当初の構想が重要な一歩を踏み出し得るとも述べている[1][2]。ただし次の買い手が現れるかどうかは、一族が見送った規模の追加投資を正当化できる需要を見出せるかにかかっている。

日本にgWestのような開場しない私有ゴルフ場はあるのか

日本では、完成したコースを一度も開場しないまま所有者が長年保有し続けた例は、公開情報では見つからなかった。近いのは、バブル崩壊後の負担を抱えたゴルフ場会社が、長い時間をかけて後始末をした例だ。

代表例が東京グリーン(株)だ。1981年創業で、以前は千葉県で富里ゴルフ倶楽部とカレドニアン・ゴルフクラブを運営していたが、バブル崩壊後の経営悪化で預託金償還問題などを抱えていた[5]。帝国データバンクによると、同社は2008年にコース運営事業を別会社へ譲渡し、その後は金融債務の整理を進めていた。譲渡先が運営する富里ゴルフ倶楽部が成田空港工事に伴う用地買収で2023年12月に閉鎖されたのを機に法的整理を選び、2026年8月19日に東京地裁から破産手続き開始決定を受けた[6]。負債は約155億円だった[5][6]。ただし両コースとも営業していた時期があり、カレドニアン・ゴルフクラブは別会社のもとで今も営業を続けている[6]。gWestのように一度も開場しない状態が続いたわけではない。

使われなくなったゴルフ場用地が別の用途に転じた例もある。2016年の週刊ダイヤモンドの記事によると、業界専門誌が2011年以降に報じたゴルフ場用地のメガソーラー(大規模太陽光発電所)化は約150件で、コース内の一部の転用や計画段階の案件も含む[7]。売電価格が高かった2012〜14年ごろは、ゴルフ場として売る場合の約10倍の値が付いた例もあったという[7]。

比較軸gWest(スコットランド)東京グリーン(千葉)
保有・処理の形一族の裁量による非公開保有事業を別会社へ譲渡し、旧会社は破産手続きで残債を処理[6]
一般開場の有無コース完成から17年なし[1][2]2施設とも営業していた[6]
コースのその後買い手を募集中[1]富里は空港用地の買収で閉鎖、カレドニアンは営業継続[6]
決着までの期間2007年の取得から2026年の売り出しまで19年2008年の事業譲渡から2026年の破産まで18年

※決着までの期間は、投資判断が保留・移行していた期間の目安で、両者の性質は同一ではない。

東京グリーンの例では、コースは運営会社を替えて営業を続け、旧会社は事業譲渡から18年後に破産手続きに入った[6]。施設の営業と債務の後始末が切り離されて進んだ点で、施設を開かないまま一族が保有を続けたgWestとは対照的だ。

まとめ

gWestの経緯は、将来が見通せないときに追加投資を止める判断と、資産を手放す判断が別物であることを示す。一族は5000万〜1億ポンドの追加投資を見送ったが、開場も売却もしないまま保有を続け、売りに出したのはコース完成から17年後だった。ゴルフをする読者には、完成していても入れない「幻のコース」が世界に実在するという一例になる。投資判断に関わる読者には、追加投資を見送ったあとにも持ち続けるか手放すかの判断が残るという教訓がある。次の買い手の値付けが、この長い保有への答え合わせになる。

よくある質問(FAQ)

Q. gWestは今行けば見学できますか。
A. 一般開場されたことがなく、現時点でも私有地のため一般ゴルファーが訪れることはできない[1]。

Q. gWestはいくらで売りに出されていますか。
A. 仲介するナイト・フランクは希望価格を公表していない[3]。

Q. 日本にも同じように長期間放置されたゴルフ場はありますか。
A. 完成したコースを一度も開場しないまま長年保有し続けた例は、公開情報では見つからなかった。近い例として、千葉県で2コースを運営していた東京グリーンは2008年に事業を別会社へ譲渡し、2026年に破産手続きに入ったが、コース自体は営業していた[6]。

出典

  1. UAE’s Al Tajir family put Scottish ‘ghost’ golf course up for sale, The National, 2026-09-14. https://www.thenationalnews.com/business/uk/2026/09/14/uaes-al-tajir-family-put-scottish-ghost-golf-course-up-for-sale/
  2. Scotland’s gWest ‘golf resort’ teed up for sale, Golf Business News, 2026-09. https://golfbusinessnews.com/news/property/scotlands-gwest-golf-resort-teed-up-for-sale/
  3. Highland Spring owner puts ‘ghost course’ on market, Daily Business Group, 2026-09-14. https://dailybusinessgroup.co.uk/2026/09/highland-spring-owner-puts-ghost-course-on-market/
  4. Scotland’s “ghost course” gWest goes up for sale next to Gleneagles, The Golf Business, 2026-09-15. https://thegolfbusiness.co.uk/2026/09/scotlands-ghost-course-gwest-goes-up-for-sale-next-to-gleneagles/
  5. ゴルフ場運営の東京グリーン、破産開始決定 負債155億円, 日本経済新聞, 2026-08-26. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2648E0W6A820C2000000/
  6. 東京グリーン株式会社(倒産速報), 帝国データバンク, 2026-08-26. https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/flash/5254/
  7. メガソーラー大バブル終了でゴルフ場が悲鳴を上げる理由, ダイヤモンド・オンライン, 2016-10-05. https://diamond.jp/articles/-/103445