米国最大級のゴルフ店チェーンに日本発グリップが並ぶまで

日本発のゴルフグリップブランド、エリートグリップ(Elite Grips、大阪府東大阪市)が2026年9月、米国最大級のゴルフ専門店チェーン、ワールドワイド・ゴルフ・ショップス(Worldwide Golf Shops)との新たな小売提携を発表した[1]。カリフォルニア州の2店舗を中心に、ゴルファーがグリップの実物を手に取って選べる売り場を設けるのが今回の内容だ[1]。

道具選びに関心のある読者には、握り心地を左右するグリップという小さな部品で日本発ブランドがどう評価されているかを知る材料に、ビジネス・IT分野の読者には、資本力で劣る中小ブランドが海外の大手小売の棚に並ぶまでの実例になる。本稿は公開情報で確認できる事実を整理し、提携の狙いは筆者の見立てとして分けて示す。

Elite Gripsの米国小売参入はどんな内容か

今回の発表は、Elite Gripsの製品をワールドワイド・ゴルフ・ショップス傘下の店舗で買えるようにする小売提携だ[1]。中心になるのはサンタアナ(カリフォルニア州)の「ロジャー・ダン・ゴルフショップス」と、サウスサンフランシスコの「ザ・ゴルフマート」の2店舗で、グリップの素材や色・サイズの品ぞろえを店頭で確かめ、フィッティング担当者の助言も受けられる[1]。

Roger Dunn Golf Shopsサンタアナ店の店頭に並ぶElite Gripsのグリップ陳列棚とロゴマット
Roger Dunn Golf Shopsサンタアナ店(カリフォルニア州)に設けられたElite Gripsの陳列コーナー(画像:Elite Grips公式リリース(The Golf Wire掲載)より)

発表資料でElite GripsのCEOと紹介されたマーシー・カモダ(Marcy Kamoda)氏は、ワールドワイド・ゴルフ・ショップスについて「米国市場での認知と入手性を広げていくうえで理想的な小売パートナーだ」と述べている[1]。さらに「目指すのはグリップを売り場の壁に並べることではなく、適切なグリップが握り心地やコントロールにどう効くかをゴルファーに伝えることだ」と語った[1]。

国内では中小規模でも、独自技術を武器に海外の販路を切り開いた日本企業の手口を知りたい読者には、伝統技術で世界市場を開拓した経営者によるこの一冊が参考になる。

Elite Gripsはどんな会社なのか

ブランドを運営する株式会社エリートグリップは2009年10月設立、大阪府東大阪市に本社を置き、代表取締役会長は軽部央氏が務める[2]。ゴルフ用品の開発・製造・販売を主力に、救命胴衣や釣具などのマリン事業も手がける[2]。グリップには独自開発の特殊合成ゴム素材(NK510)を使い[3]、日本の男子ツアー(JGTO)ではグリップ使用率が約3割に達すると発表している[1]。米国・韓国・マレーシア・シンガポール・ベトナムなど10カ国・地域以上で販売し[3]、南カリフォルニアに北米拠点を置いている[1]。

Elite Gripsが2009年の設立から日本ツアーでの使用実績、10カ国以上への海外展開を経て2026年の米大手チェーン取引に至った経緯を示す図
2009年の大阪での設立から日本ツアーでの実績を積み、海外10カ国以上への展開を経て2026年の米大手チェーン取引に至る流れ

同社はOEM(相手先ブランドによる生産)で国内の有名ゴルフメーカー向けにもグリップを供給している[3]。PGAツアーのスコット・ビンセント選手とキアラン・ビンセント選手、コーンフェリーツアーのテイン・リー選手、複数のLPGA選手、LIVゴルフの選手ともアンバサダー契約を結んでいる[1]。

国内での代表モデルには、日本製(Made in Japan)と表記された「ツアードミネーター TD50」[4]や、継ぎ目のない表面加工の「Y360°S XT」がある。楽天市場での実売価格は2026年9月時点で、TD50が1本800〜1,200円前後、Y360°S XTが1本1,300〜1,600円前後だ。

海外展開/製品戦略

豪州のゴルフテック企業GolfTrak(ゴルフトラック)と、米国のプラットフォーム企業ChipIn(チップイン)が、2026年8月上旬に越境合併を発表した[1][2]。GolfTrakはスマートフォンのカメラとコンピュータビジョン技術(画[…]

ワールドワイド・ゴルフ・ショップスはどれくらいの規模のチェーンなのか

ワールドワイド・ゴルフ・ショップスは1963年創業、全米25州に95店舗以上を構える、米国最大級のゴルフ専門小売チェーンの一つだ[5]。売り場面積は全店合計で100万平方フィート(約9万3,000平方メートル、東京ドーム約2個分)近くに達する[5]。

ワールドワイド・ゴルフ・ショップス(全米25州・95店舗以上)の傘下に、ロジャー・ダン・ゴルフショップス(サンタアナ店)、ザ・ゴルフマート(サウスサンフランシスコ店)、ゴルファーズ・ウェアハウスなどの地域ブランド、ECサイトのグローバルゴルフ・ドットコムが並ぶ構成図
ワールドワイド・ゴルフ・ショップスは複数の地域ブランドとECサイトで構成する。色付きの2ブランドの店舗(サンタアナ、サウスサンフランシスコ)が今回の提携の中心

同社はロジャー・ダン・ゴルフショップス、ザ・ゴルフマート、ゴルファーズ・ウェアハウス、ヴァンズ・ゴルフショップスなど地域ブランドを傘下に持ち、2024年にはバジェットゴルフのオンライン事業をグローバルゴルフ・ドットコムと統合してEC展開も強化している[5]。

マーケティング/海外展開

タイトリスト、テーラーメイド、ウイルソン、コブラ。日本のゴルファーが店頭で手に取る主要ブランドは、いずれも持ち主がアジアの企業や投資ファンドに替わっている。誰が持っているかで、次のモデルに開発費がどれだけ入るのか、日本での価格やモデルサイ[…]

Elite Gripsは提携で何を狙っているのか

発表資料で確認できること

発表資料によると、今回の提携は米国全体で小売の足場を固める戦略の一部だ[1]。Elite Gripsは取扱店に対し、商品知識の研修、売り場づくり、販促プログラムを提供し、ゴルファーの試し握りと継続的な販売につなげるとしている[1]。発表は北米拠点のある南カリフォルニアのオレンジ郡から出されており、Elite Grips自身が小売チェーンと直接提携した形だ[1]。一方、チェーン側がElite Gripsを採用した理由は、発表資料では説明されていない。

筆者の見立て

グリップは1本あたりの単価が小さく、クラブやボールに比べてブランドの違いが売り場で目立ちにくい。日本ツアーでの使用率約3割、独自素材、色・サイズの品ぞろえは、チェーン側が売り場に違いを出す材料になりうる。研修や販促をElite Grips側が担うため、チェーン側は新しいブランドを試す負担も抑えられる。Elite Grips側は、道具選びの現場で握り比べてもらえる売り場を得る。双方の利点がかみ合った提携と考えられる。

カスタム/マーケティング

本記事はアフィリエイト広告(PR)を含みます。 MBAの基礎科目「マーケティング・経営戦略基礎」で扱ったケースを、講義で使ったフレームワークに沿って解説します。 1. 冒頭のフィードバック ―「結論に至るまでのプロセス」 Day5は[…]

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日本のゴルフ用品メーカーは米国でどれくらい売っているのか

住友ゴム工業の2025年12月期決算説明資料によると、ゴルフ・テニス用品などのスポーツ事業の売上収益は1,256億円で、うち北米向けが413億円と、日本向けの377億円を上回った[6]。北米向けは2021年の248億円から4年で約1.7倍に伸びた。同事業は海外に、タイ・米国・フィリピンの製造3社を含む21社の関係会社を持つ[6]。

一方、日本で製造して米国へ輸出するゴルフ用品の額は小さい。JETRO(日本貿易振興機構)が米国の輸入統計を調べたところ、日本からの対米輸出はクラブとボールがそれぞれ年間約500万ドル(約7.4億円)、ゴルフ関連製品で年間約3,400万ドル(約50億円)だった[7]。大手は海外に製造拠点を持つため、北米での売上が日本からの輸出額には表れにくいと読める。

関税も米国での小売展開に直接響く。これらの品目は日米貿易協定の枠組みで無税だったが、JETROは2025年8月時点で、日本製のクラブ・ボール・ゴルフ関連製品に15%の相互関税が課されると説明していた[7]。この相互関税は2026年2月の米連邦最高裁判決で違法とされて課されなくなり、代替の一律10%の関税を経て、7月24日以降は別の法律(通商法301条)に基づき、日本からの輸入に一般関税と合わせて原則12.5%となる追加関税が課されている[8]。TD50のような日本製品を日本から出荷して売る場合、この関税が米国での価格設定にかかわる。

大手が海外の関係会社や製造拠点を通じて北米の売上を伸ばすのに対し、Elite Gripsは南カリフォルニアの北米拠点から大手小売チェーンと直接提携し、研修や販促も自ら担う形で参入した[1]。

比較軸住友ゴム工業(スポーツ事業)Elite Grips
企業規模上場・スポーツ事業の売上収益1,256億円(2025年12月期)[6]資本金6,000万円[2]、売上は非公表
北米での売上北米向け413億円(2025年12月期)[6]非公表
海外展開の形態海外関係会社21社(製造3社・販売12社など)[6]南カリフォルニアの北米拠点から米小売チェーンと直接提携[1]
日本国内ツアーでの存在感—JGTOでのグリップ使用率約3割[1]

※「—」は本稿で確認していない項目、「非公表」は公開されていない項目。

まとめ

Elite Gripsとワールドワイド・ゴルフ・ショップスの提携は、東大阪発のグリップブランドが米国最大級のチェーンの売り場に入った事例だ。発表資料で確認できるのは、カリフォルニア州の2店舗を中心とする展開と、Elite Grips側が研修や販促で売り場を支える方針までで、チェーン側の採用理由は公表されていない。ツアーでの使用実績や独自素材が棚に置く材料になったという点は、筆者の見立てにとどまる。日本製の製品を米国で売る以上、関税の扱いも今後の展開を左右する。国内では代表モデルのTD50が1本800〜1,200円前後で手に入る。

よくある質問(FAQ)

Q. Elite Gripsとはどんな会社ですか。
A. 2009年設立、大阪府東大阪市に本社を置く株式会社エリートグリップのゴルフグリップブランドで、日本の男子ツアー(JGTO)でのグリップ使用率は約3割と発表している[1][2]。

Q. ワールドワイド・ゴルフ・ショップスとはどんなチェーンですか。
A. 1963年創業、全米25州に95店舗以上を構える米国最大級のゴルフ専門小売チェーンの一つで、ロジャー・ダン・ゴルフショップスなど複数の地域ブランドを傘下に持つ[5]。

Q. 自分の道具選びに関係がありますか。
A. 米国の店頭展開は日本のゴルファーには直接関係しないが、Elite Gripsのグリップは国内でもゴルフショップや工房などの取扱店、楽天市場などの通販で買える。代表モデルのTD50は1本800〜1,200円前後だ。

出典

  1. Elite Grips Expands U.S. Retail Presence Through Worldwide Golf Shops Partnership, The Golf Wire, 2026-09-03. https://thegolfwire.com/elite-grips-expands-u-s-retail
  2. 会社概要, 株式会社エリートグリップ. https://www.elitegrips.com/company.html
  3. About elite grips, elite grips golf(GemCube LLC). https://elitegripsgolf.com/pages/about-elite-grips
  4. Tour Dominator Series, 株式会社エリートグリップ. https://www.elitegrips.com/grips/dominator.html
  5. Worldwide Golf Shops, National Golf Foundation. https://www.ngf.org/top-100-business-in-golf/worldwide-golf-shops/
  6. 第134期 決算説明会 2025年12月期, 住友ゴム工業, 2026-02-12. https://www.srigroup.co.jp/ir/library/financial-report/dvql4p00000qekq7-att/2025_end_setsumei.pdf
  7. ゴルフ関連の対米輸出は年間50億円超!「トランプ関税」で日本のゴルフ業界はどうなる?, ALBA Net, 2025-09-02. https://www.alba.co.jp/articles/category/golf-life/post/vnrjl_0gib/
  8. 米USTR、強制労働産品の輸入禁止措置を巡り、日本含む60カ国・地域に301条関税賦課を最終決定, ジェトロ ビジネス短信, 2026-07-24. https://www.jetro.go.jp/biznews/2026/07/a4c34f1e9b687c71.html