
基幹システムと情報系システムの間のデータ連携を、10年以上Informatica PowerCenter(オンプレミスで動くETL製品)で動かしてきた日本企業のデータ基盤担当にとって、2026年はサポート契約の前提が崩れた年になった。従業員数千人規模で、会計・販売・生産のデータを夜間バッチで連携し、その保守をSIerに委託している企業ほど判断が重い。
Informaticaの公式ページによると、PowerCenter 10.5.xの標準サポートは2026年3月31日に終了した[1]。その先は有償の延長サポートで延命するか、同社のクラウド基盤IDMC(Intelligent Data Management Cloud)へ移るか、別の製品へ置き換えるかの三択になる。
加えて、Informaticaは2025年11月にSalesforceによる買収が完了した[3]。製品の将来を誰が決めるのかが変わったことも、長期契約を結ぶ側には無視できない。本稿は公開情報をもとに三つの選択肢を比べ、次の保守契約更新までに何を決めるべきかを整理する。
予備知識
- ETL: データを取り出し(Extract)、変換し(Transform)、別のシステムへ書き込む(Load)処理。PowerCenterはこの処理を画面上のマッピングで設計する
- IDMC: Informaticaのクラウド型データ管理基盤。データ統合、品質、マスターデータ管理などを1つのサービスとして提供する
- 延長サポート: 標準サポート終了後に追加料金で受けられる保守。提供範囲と期間はベンダーが決める
- Secure Agent: 社内ネットワークに置き、IDMCとオンプレミスのデータをつなぐ常駐プログラム
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標準サポート終了で何が止まるのか
標準サポートの終了は、製品が動かなくなることではなく、問題が起きたときの支えがなくなることを意味する。Informaticaは2024年に10.4の標準サポートを終えた際、終了後は技術サポート、セキュリティ更新、脆弱性のバグ修正の対象外になると説明し、性能や互換性の問題が起きうるとしていた[2]。10.5.xも同じ位置に来た。
選択肢として残るのが有償の延長サポートだ。Informaticaは2024年時点で、延長サポートを追加費用の選択肢として示し、価格は個別の問い合わせとしていた[2]。期間の手がかりは10.4の前例だ。Informaticaは10.4の標準サポート終了後、1年間の延長サポートを提供した[2]。10.5.xも同じ期間なら2027年3月末ごろが目安になり、第三者の解説も約1年としている[5]。ただし、Informaticaは10.5.xの延長サポート終了日を公開ページで示していない。延命を選ぶなら、契約前に終了日を書面で確認する必要がある。

長年積み上がったデータ連携の資産を棚卸しし、移行の優先順位を決める実務の進め方を具体的に学べる。
Salesforce傘下入りで何が変わったか
Salesforceは2025年11月18日にInformaticaの買収を完了した[3]。2025年5月の買収合意時の発表では、株式価値は約80億ドル(約1兆2,400億円、1ドル=155円換算)、買収価格は1株あたり25ドル(約3,875円)の現金だった[4]。
Salesforceは買収の狙いを、Informaticaのデータカタログ、統合、ガバナンス、品質、マスターデータ管理を取り込み、AIエージェント向けの統一的なデータ基盤をつくることだと説明している[3]。つまり投資の重心はクラウドとAIに置かれている。オンプレミスのPowerCenterを使い続ける企業にとって、この方向性はサポート延長の交渉材料にはなりにくい。

ここで注意したいのは、PowerCenterの利用企業がSalesforceの顧客とは限らないことだ。データ連携の相手先がSAPや自社開発の基幹システムであれば、Salesforceとの統合は直接の利点にならない。IDMCに移る場合でも、Salesforce製品と組み合わせる前提かどうかで、投資の評価は変わる。
SnowflakeとBigQueryを事業部ごとに使い分け、両者をまたぐデータ統合基盤の刷新を検討している数千人規模企業のデータ基盤担当者は、部門横断の分析を行うたびにETL(Extract-Transform-Load、データを抽出・変[…]
三つの選択肢をどう比べるか
選択肢は延命、IDMCへの移行、他製品への置き換えの三つだ。判断を分けるのは、既存マッピングの本数と、何年先まで今の連携を使うかの見通しである。
| 観点 | 延長サポートで延命 | IDMCへ移行 | 他製品へ置き換え |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 追加料金(個別見積もり) | 移行作業と契約変更 | 再設計と再テスト |
| 既存資産の再利用 | そのまま | 変換ツールで再利用 | 大半を作り直し |
| 期限の見通し | 延長終了日で再び判断 | 継続利用が前提 | 製品次第 |
| ベンダー依存 | 変わらない | Informatica(Salesforce)に集約 | 分散できる |
| 移行期間 | 不要 | 段階的 | 長期化しやすい |
Informaticaは移行を急ぐ企業向けに、PowerCenterからクラウドへの移行プログラムを用意している。公式ページによると、社内にSecure Agentを置いてPowerCenterのドメインをクラウドにつなぐことで、既存のワークフローを作り直さずにクラウド側で動かせる。多くの顧客で最初の段階は4〜8週間で済むという[1]。そのうえで変換サービスによる資産移行と、自動テストによるデータ検証を段階的に進める[1]。
同じページには、移行事例の数字も並ぶ。BMC Softwareはマッピングの99%を自動変換し、移行時間を70%短縮した。TelevisaUnivisionは統合コストを44%削減したという[1]。
| 事例 | 指標 | 値 |
|---|---|---|
| BMC Software | マッピングの自動変換率 | 99% |
| BMC Software | 移行時間の短縮 | 70% |
| TelevisaUnivision | 統合コストの削減 | 44% |
出典: Informatica公式ページ[1]。指標はそれぞれ別物で、横に並べて比べられる数字ではない。
ただし、これらはベンダー自身が選んだ事例の数字だ。自社のマッピングが同じ比率で変換できるとは限らない。見積もりの前提として使うなら、自社の代表的なマッピングで試験変換を行い、変換率を実測する方が確実だ。

Snowflakeは2026年9月4日、移行支援エージェントのSnowflake AIM Agent for Data Warehousesで、SASからの移行をプレビュー公開した[1]。SASのコード資産の評価、SASプログラムからSn[…]
保守をSIerに任せた日本企業が延命に傾きやすい理由
日本企業でも同じ判断が求められるが、延命に傾きやすい構造がある。海外の解説は移行の速さを強調しがちだが、日本では誰がマッピングを理解しているかが最初の壁になる。
| 観点 | 海外で想定される状況 | 日本企業で起きやすいこと |
|---|---|---|
| マッピングの作り手 | 社内のデータエンジニア | 構築時のSIer。設計書と実装がずれている |
| 予算の単位 | 四半期ごとに見直し | 中期計画と年度予算。複数年の移行は稟議が重い |
| 監査 | データ系譜を製品で管理 | 連携の変更は内部統制の対象。再テストの証跡が必要 |
| 移行の担い手 | 自社主導 | 保守SIerの体制と単価に左右される |
特に内部統制との関係は重い。会計データを運ぶ連携を作り直せば、変更管理と再テストの証跡が必要になる。移行の工数は変換作業より、この検証と証跡づくりで膨らみやすい。
一方で、延命には期限がある。延長サポートの終了が10.4と同じく1年後なら2027年3月末ごろで、残りは半年ほどしかない。終了日が来れば、同じ判断をもう一度することになる。延命で買えるのは、移行計画を固めるための時間だけだ。
IT部門の判断としては、マッピングの本数と連携先を棚卸しし、代表的なものを試験変換して変換率を測る。決裁側の判断としては、延長サポートの費用と終了日、移行の総額を並べ、次の保守契約更新までにどちらに予算をつけるかを決める。
数千人規模の従業員を抱え、基幹業務システムにRDS for MySQL(Amazonが管理するリレーショナルデータベースサービス)を使い、四半期ごとに内部監査を受けている企業のDB運用担当者は、2026年8月以降、毎月の請求書に見慣れない[…]
まとめ
PowerCenter 10.5.xの標準サポートは2026年3月31日に終わり、残る道は延命、IDMCへの移行、他製品への置き換えの三つだ。Salesforce傘下入りで投資の重心はクラウドとAIに移っており、オンプレミス製品の長期延命は前提にしにくい。
IT部門の次の一手は、マッピングと連携先の棚卸しを行い、代表的なマッピングで試験変換して変換率を実測することだ。決裁側の判断材料は、延長サポートの費用と終了日、移行総額、内部統制の再テスト工数を並べた比較表になる。
延命を選ぶ場合も、延長期間中に移行計画を固める前提で契約するのが筋だ。
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よくある質問(FAQ)
Q. サポートが終わるとPowerCenterは動かなくなりますか。
A. すぐに止まるわけではない。技術サポートやセキュリティ更新が受けられなくなる状態を指す。
Q. 延長サポートはいつまで受けられますか。
A. 10.4では標準サポート終了後に1年間提供された。10.5.xの終了日は公開されていないため、契約前にInformaticaへ書面で確認する必要がある。
Q. IDMCに移るとSalesforceの契約も必要ですか。
A. 公開情報では、IDMCの利用にSalesforce製品の契約が必要だとする記載は確認できなかった。
出典
[1] Informatica「Informatica PowerCenter Download & Cloud Migration」 https://www.informatica.com/download.html[2] Informatica Blog「PowerCenter Customer ALERT: Migrate Now — Informatica PowerCenter 10.4 Support Ends on March 31」(2024-03) https://www.informatica.com/blogs/powercenter-customer-alert-migrate-now-informatica-powercenter-104-support-ends-on-march-31.html
[3] Salesforce「Salesforce Completes Acquisition of Informatica」(2025-11-18) https://www.salesforce.com/news/press-releases/2025/11/18/salesforce-completes-acquisition-of-informatica/
[4] Salesforce「Salesforce Signs Definitive Agreement to Acquire Informatica」(2025-05-27) https://www.salesforce.com/news/press-releases/2025/05/27/salesforce-signs-definitive-agreement-to-acquire-informatica/
[5] Tropos.io「Facing the End of Informatica PowerCenter Support」 https://www.tropos.io/insights/powercenter-end-of-support-migration


