
複数のSaaSからFivetran(データ連携ツール)でデータを取り込み、年間契約でコストを管理している従業員1000人規模以上の製造業・小売業のデータ基盤担当・調達部門は、2026年の契約更新前に一度立ち止まる必要がある。Fivetranは2026年1月1日付で、課金の基準となるMAR(Monthly Active Rows、月間アクティブ行数)の数え方を変更した[1]。これまで課金対象外だった削除行と、History Mode(変更履歴を残す同期方式)での再更新行が、新たにMARへ加算される[1]。さらに月間MARが少ないコネクタにも、最低基本料金が新設された[1]。年間契約は更新のタイミングで新ルールに切り替わるため、更新前に再試算しないまま迎えると、コスト増を予算に反映できない。本稿は、新ルールの中身と、更新前に確認すべき試算の手順を整理する。
予備知識
- MAR(Monthly Active Rows)=Fivetranが従量課金の基準にする行数。同じ行が月内に何度同期されても1回としてカウントする
- History Mode(履歴モード)=行の値が変わるたびに新しい履歴レコードを追加し、変遷を保持する同期方式
- PAYG(Pay As You Go)=年間契約を結ばず、使った分だけ支払う従量課金プラン
- Standardプラン=Fivetranの標準料金プラン。今回の最低基本料金の主な対象
SaaS個別のコスト増を組織的に可視化し予算判断につなげる考え方が、Fivetranのようなツール単位のコスト管理にも応用できる
課金対象が「削除」と「履歴の再更新」まで広がった
新ルールの核心は、MARに数える操作の種類が増えたことだ。これまでは挿入と更新だけが課金対象で、削除は無料だった。
Fivetran公式ドキュメントによると、2026年1月1日以降は「挿入・更新・削除がMARに算入される」と明記されている[1]。History Modeについても、値が実際に変化した再更新行はMARに含まれるが、変化のない行は対象外とされている[1]。
| 操作 | 旧ルール | 新ルール(2026年1月1日〜) |
|---|---|---|
| 挿入 | 課金対象 | 課金対象 |
| 更新 | 課金対象 | 課金対象 |
| 削除 | 課金対象外 | 課金対象 |
| History Modeの再更新行 | 個別規定なし | 値が変化した分は課金対象 |
同じ行が月内に何度同期されても1回としてしかカウントされない点は変わらない[1]。頻繁に同期しているだけでは増えず、削除や値の変化そのものが増える場合にMARが増える。

更新前の価格交渉に不慣れな調達担当が、見積もりの読み方と交渉の進め方を基礎から確認できる
新設された最低基本料金——小規模コネクタほど影響が出やすい
最低基本料金とは、月間MARが一定範囲に収まるコネクタに対して課される下限料金のことだ。これまでは、MARが少なければ料金もそれに比例して低かった。
公式ドキュメントによれば、Standardプランで月間MARが1〜100万(1,000,000)行の範囲に収まるコネクタには、最低5ドル(約780円、1ドル=156円換算)の基本料金が適用される[1]。PAYG契約でも同様に、コネクタあたり最低5ドルの下限が設けられた[1]。一方で、無料プランのコネクタと、課金対象MARがゼロのコネクタには最低料金は課されない[1]。
| 条件 | 最低基本料金 |
|---|---|
| Freeプランのコネクタ | なし |
| 課金対象MARが0のコネクタ | なし |
| Standard/PAYGで月間MAR 1〜100万 | 5ドル(約780円)/月 |
コネクタを多数抱える企業ほど、この最低料金の積み上げ効果を受けやすい。1本あたりは小さくても、対象本数が多ければ月間の固定費として無視できない額になる。
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影響を受けやすい利用パターン——削除の多いテーブルとHistory Mode同期
影響の大きさは、同期しているテーブルの更新特性によって変わる。在庫管理や注文ステータスのように、行の削除やソフトデリートが頻繁に発生するテーブルは、これまで無料だった削除分がそのままMAR増加に直結する。
CDC(Change Data Capture、データベースの変更をリアルタイムに検知する仕組み)でHistory Modeを使い、同じ注文や在庫レコードが1日に何度も更新されるテーブルも、再更新のたびにMARが積み上がる。逆に、追記型(挿入のみ)のログテーブルやマスタ系の低頻度更新テーブルへの影響は小さい。
試算例として、Fivetranで50本のコネクタを運用し、そのうち一部が新ルールで新たに最低料金の対象になったと仮定する。以下は説明用の仮定に基づく試算であり、実際の本数は自社の棚卸しで確認する必要がある。

対象が20本なら月100ドル(約15,600円)、50本なら月250ドル(約39,000円)の固定費増になる計算だ。削除やHistory Mode再更新によるMAR増分は、この試算例には含めていない。
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契約更新前に確認すべき試算の手順
更新前の試算とは、新ルール適用後のMARを見積もり、現行予算内に収まるか確認する作業を指す。手順は大きく5つに分けられる。
第一に、契約の締結日を確認する。公式ドキュメントは、2025年3月1日より前に締結した契約では削除カウントのルールが既存の契約条件にすでに含まれているとしている[1]。第二に、契約の更新日を確認する。年間契約は更新時点で新ルールに切り替わり、PAYGは2026年1月1日から即時適用済みだ[1]。
第三に、削除行の多いテーブルとHistory Mode使用テーブルを、現行のコネクタ一覧から洗い出す。第四に、過去数ヶ月の削除行数・再更新行数を見積もり、新ルールでのMAR増分を試算する。第五に、最低基本料金の対象になるコネクタ数を数え、固定費の増分を算出する。

為替と稟議プロセスが交渉力を左右する
日本企業では、年間契約の更新は稟議による予算承認を経ることが多く、承認まで数週間から数ヶ月かかる。Fivetranのようなドル建て契約は、価格自体が変わらなくても円換算額が為替変動で増減する。
今回の最低基本料金と削除カウントの追加は、この為替変動と重なって発生する。更新前の稟議書には、ルール変更分と為替変動分の両方を根拠として盛り込む必要がある。海外SaaSベンダーとの価格交渉に不慣れな調達部門では、契約更新のタイミングしか交渉の機会がないことも多い。試算を更新直前ではなく、稟議提出前に済ませておくことが実務上の分かれ目になる。
データ基盤部門の次の一手: 更新日までに新ルールでのMAR再試算とコネクタ棚卸しを終える。
決裁側・調達部門の判断材料: 増分コストの円換算額を稟議に反映し、必要なら更新前にベンダーと価格交渉する。
まとめ
Fivetranの2026年1月1日付ルール変更は、削除行とHistory Modeの再更新行をMARに含め、月間MAR1〜100万のコネクタに最低5ドルの基本料金を新設するものだ[1]。年間契約は更新時点でこのルールに切り替わるため、契約締結日と更新日を確認しないまま更新すると、コスト増を予算化できない。
データ基盤担当は、削除の多いテーブルとHistory Mode使用箇所を棚卸しし、更新前に新ルールでのMARを再試算する。調達部門は、円換算した増分コストを稟議に反映し、必要ならベンダーとの価格交渉を更新前に始める。試算を怠らなければ、更新はコスト増の追認ではなく、条件を見直す機会になる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 月間契約(PAYG)の場合、新ルールはいつから適用されるか。
2026年1月1日から即時適用されている[1]。年間契約のように更新を待つ猶予はない。
Q2. 無料プランのコネクタにも最低基本料金はかかるか。
かからない。Freeプランのコネクタと、課金対象MARがゼロのコネクタは最低料金の対象外だ[1]。
Q3. History Modeを使っていなければ影響はないか。
削除行のカウント追加はHistory Modeの有無にかかわらず適用される。History Modeを使っていなくても、削除の多いテーブルはMARが増える可能性がある[1]。


