
韓国のIT大手カカオ傘下でゴルフ予約サービスを手がけるカカオVX(Kakao VX)が2026年9月16日、AIでグリーンフィーを日々変動させるダイナミックプライシングを、自社の予約プラットフォーム「カカオゴルフ予約」に本格導入すると発表した[1]。航空券やホテル代のように、予約状況や需要に応じて価格が自動で上下する仕組みだ。慶尚道の1コースで、1日3部制のうちカカオVXが運営を受託する第3部の枠に試験導入したところ、この枠の来場者数は前年比46%増・売上は32%増となり、ゴルファー1人あたりの支払額(客単価)は9%減った[2][3][4]。ただし前年はゴルフ場がこの枠を自ら運営しており、運営主体も変わっている。
日本でも、プレー料金を日単位や時間帯単位で動かすゴルフ場はすでにある[5]。本稿はカカオVXの公表データを軸に、AIによる値付けの効果と、数字を読むときの注意点を整理する。
カカオVXのダイナミックプライシングはどんな仕組みか
カカオVXの新システムは、各ゴルフ場の予約データをAIが分析し、毎日数百件単位の価格を自動生成する[1]。生成した価格はゴルフ場のERP(基幹業務システム)とリアルタイムで連動し、予約画面にすぐ反映される[1]。7月の1か月では、忠清道(チュンチョンド)の2コースで960回と837回、慶尚道の1コースで442回、ティータイムの価格をAIが書き換えた[3]。ただし価格帯や時間帯は、コースごとの事情を運営側と確認しながら決めるという[3]。

カカオVXは「これまで韓国のゴルフ場のグリーンフィーはやや硬直的に運用されてきた」と説明する[2]。早期に安い価格でティータイムを確保した客は、ラウンド直前に価格が上がっても予約を取り消しにくい――この心理を利用し、ゴルフ場側はキャンセル率を下げ、ゴルファー側は余裕を持って安く予約できる、とカカオVXは狙いを語る[2]。
稼働率と客単価のトレードオフをどう設計するか体系的に学びたい読者には、収益管理の基礎からダイナミックプライシングまでを扱うこの一冊が参考になる。
実証実験は来場者・売上をどれだけ押し上げたか
効果の数字が公表されたのは、慶尚道(キョンサンド)地方の1コースだ。このコースは1日のティータイムを3部に分けており、そのうち第3部の運営をカカオVXに委託している[3][4]。以下の数字はコース全体ではなく、この第3部の枠のものだ。
ダイナミックプライシングを試験導入した2025年、この枠の来場者数は3万3929人で、ゴルフ場が自ら運営していた2024年より46%増えた[2][3][4]。年間売上高は24億8293万ウォン(約180万ドル、1ドル=155円換算で約2億7900万円)で前年比32%増、ゴルファー1人あたりの平均支払額(客単価)は9%減った[1][4]。
カカオVXが提供した告知画像は、来場者の伸びを「最大46%」、売上の伸びを「平均18%」と表記している[2]。46%は最も伸びた例の数字で、導入先に共通する伸びとは言えない。売上の平均が何を母数にしたものかは、記事に説明がない。

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客単価9%減はゴルフ場にとって損失なのか
客単価だけを見れば値下げだが、レベニューマネジメントの発想では損失と言い切れない。ゴルフのティータイムは、航空機の座席やホテルの部屋と同じく、その日が過ぎれば売り物にならない「消えものの在庫」だ。空きやすい枠を値下げして埋め、混雑する枠は据え置くか値上げすることで、稼働率と総収入を同時に押し上げられる。
このコースでも、客単価が9%下がる一方で来場者が46%増え、売上は32%増えた。ただし、比較の基準になった2024年はゴルフ場が自らこの枠を運営し、2025年はカカオVXが運営している。運営の交代そのものが集客に効いた可能性もあり、公表された数字からは価格施策と運営交代の寄与を切り分けられない。

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カカオVXは導入先をどう広げるのか
カカオVXは、まず自社が委託運営する8コース(慶尚南道の宜寧(ウィリョン)リオンGCなど)で運用し、対象を順次広げる計画だ[3]。経営難の地方ゴルフ場は専任者を雇いにくく、枠ごとの価格を24時間調整する作業をシステムが代わりに担える、と同社は説明する[3]。

価格以外の集客策も並行している。江原道(カンウォンド)観光財団と組み、炭鉱産業からの転換地域にある太白(テベク)・寧越(ヨンウォル)のゴルフ場で、宿泊・朝食・観光施設の入場券を付けた1泊2日のゴルフ旅行商品を10月30日まで販売する[4]。特典は5万ウォン相当で、同財団との企画は昨年に続く2年目だ[4]。どちらも首都圏以外のゴルフ場の集客に向けた施策で、同社は変動料金の成果も特に首都圏以外で出ていると説明する[4]。
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日本のゴルフ場でも料金は日々動いているのか
日本でも、プレー料金を需要に合わせて動かす仕組みはすでに入っている。ゴルフ場経営コンサルタントの飯島敏郎氏(TPC代表)によると、以前はベース料金・繁忙期料金・閑散期料金の3種類を使い分けていたが、予約サイトで価格を比べやすくなり、宿泊・航空と同じダイナミックプライシングを取り入れるゴルフ場が出てきた[5]。料金は1日〜数日単位で変わり、人気と不人気のスタート時間の差が大きければ1日の中でも変わる。日や曜日で2万円以上の差になることもあるという[5]。
ゴルフ場向け基幹システムを手がける富士テレコムも、季節・曜日・時間帯に加え、天候予測や直前の残枠・キャンセル状況を料金に反映する方法をゴルフ場経営者向けに解説している[6]。考え方はカカオVXと共通する。
運営会社の構図は異なる。国内最大手のアコーディア・ゴルフ(172コース)とPGM(150ゴルフ場)は、ともに東証プライム上場の平和のグループ会社で、2社とも自らは上場していない[7][8][9]。2社を合わせても、全国で営業中のゴルフ場(2025年4月時点で2,110)の2割に満たない[10]。2社が2026年2月に打ち出した料金施策は、公式サイト予約を他社サイトより平日500円・土日祝1,000円安くする、予約経路による価格差だった[9]。GDOが2024年に公開した対話型AIも予約枠を提案する機能で、価格を決める仕組みではない[11]。
カカオVXの事例で目を引くのは、変動料金そのものより、予約プラットフォームがコースの枠の運営を引き受けて価格を決め、前年比の数字まで公表した点だ。
| 比較軸 | カカオVX(韓国) | 日本のゴルフ場 |
|---|---|---|
| 価格を変える頻度 | AIが毎日数百件を自動生成[1] | 1日〜数日単位。時間帯の人気差が大きければ1日の中でも変動[5] |
| 価格に反映する情報 | 各ゴルフ場の予約データ[1] | 季節・曜日・時間帯、天候予測、残枠・キャンセル状況[6] |
| 価格を決める主体 | 運営を受託した予約プラットフォーム。価格帯はコース側と確認[3] | 各ゴルフ場・運営会社[5] |
| 公表された効果 | 1コースの第3部の枠で来場者46%増・売上32%増・客単価9%減[2][4] | — |
※「—」は本稿で確認していない項目。
まとめ
カカオVXの公表データは、AIによる値付けで来場者と売上が伸び、客単価は下がるという組み合わせを示した。ただし数字は1コースの委託された1枠のもので、告知画像の表記では46%は最大値、前年からは運営主体も変わっている。ゴルフをする読者には、早く予約するほど安くなりやすい傾向が強まる可能性がある。ビジネス読者には、稼働率と客単価のどちらで成果を語るかに加え、価格施策の効果を運営体制の変化から切り分けて見る必要がある点が判断材料になる。日本でも変動料金はすでに入り始めており、この事例で見るべきは、誰が価格を決め、結果をどこまで公表したかという点だ。
よくある質問(FAQ)
Q. ダイナミックプライシングとは何ですか。
A. 需要や予約状況に応じて価格を自動的に変動させる仕組みで、航空券やホテル料金で先行して普及した[2]。
Q. プレー料金は今後上がるのですか、それとも下がるのですか。
A. カカオVXが運営する1コースの第3部の枠では、客単価(1人あたりの平均支払額)が9%下がり、来場者数と売上は増えた[2][4]。変動料金では、空きが多い枠は安く、予約が集中する枠は高くなりやすい[6]。
Q. 日本のゴルフ場でも同じ仕組みは導入されていますか。
A. 需要に応じて料金を日単位や時間帯単位で変えるゴルフ場はすでにあり、日や曜日で2万円以上の差が出る例もある[5]。カカオVXの事例は、予約プラットフォームが枠の運営を引き受けて価格を決め、結果の数字まで公表した点に特徴がある。
出典
- Kakao VX Rolls Out AI-Based Dynamic Pricing for Golf Bookings, Seoul Economic Daily, 2026-09-17. https://en.sedaily.com/sports/2026/09/17/kakao-vx-rolls-out-ai-based-dynamic-pricing-for-golf
- 카카오VX, ‘다이내믹 프라이싱’으로 골프산업 활성화 기여, 뉴스프라임, 2026-09-16. https://www.newsprime.co.kr/news/article/?no=748039
- Kakao VX Brings Surge Pricing to Korean Golf Courses, Seoul Economic Daily, 2026-09-17. https://en.sedaily.com/sports/2026/09/17/kakao-vx-brings-ai-surge-pricing-to-golf-course-green-fees
- AI로 저렴하게, 여행으로 색다르게…카카오VX, 골프 경험 다변화, 테크M, 2026-09-16. https://www.techm.kr/news/articleView.html?idxno=155292
- 2万円以上の差が出る場合も!? ゴルフ場にも続々導入される“変動するプレー料金”「ダイナミックプライシング」, ゴルフのニュース(egolf), 2024-09-20. https://egolf.jp/life/155251/
- ゴルフ場のプレー料金をDXで最適化したい, Golf Biz(富士テレコム), 2026-05-26. https://www.golfbiz-dx.com/solution/play-fee.html
- 会社概要, 株式会社アコーディア・ゴルフ. https://www.accordiagolf.com/corp/company_info/c_outline.php
- 会社情報, PGM(パシフィックゴルフマネージメント). https://www.pacificgolf.co.jp/corporate/aboutus.asp
- アコーディアとPGM、公式サイト予約が最もお得になる「ジカドリ」を推進, 株式会社アコーディア・ゴルフ(デジタルPR), 2026-02-20. https://digitalpr.jp/r/128806
- 全国営業中ゴルフ場数、昨年比11件減の2110コース, 一季出版, 2025-08-07. https://www.ikki-web2.com/archives/11148
- 生成AIを搭載したゴルファー向けサービスのデモ版公開へ, ゴルフダイジェスト・オンライン, 2024-08-07. https://company.golfdigest.co.jp/corp/pr/24080701.html


